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リダさんの追憶【12】

 もう、なんでもアリだなっ!


 まさか、性別を変えて来るとは思わなかった私がいる。

 いや......だって、性転換とか普通は考えるか?


『ユニクス?......そうか。つくづく俺は運がないな......』


 人間と化物の境目にいたろうアインは、無気力にそう答える。

 

『もう、俺には時間がないと言うに......』


 答えたアインは、未だ歪みがあった空間の中に、その身体を戻す形で入り込み、


 シュウゥゥゥゥン......


 しばらくすると、空間の歪みごとアインは消え去って行った。


「どうやら、分が悪いと見て逃げた模様ですね」


 完全に姿を消したアインを見て、ユニクスは緊張感を崩す事なく口を動かしていた。

 姿を消しても、まだ警戒を解かない所は彼女らしいと思える。


 ......って、今は彼女ではなく彼か。


 いや、そうなんだけど、そうではなく!


「てか、ユニクス。なんでお前は男になんかなってんだよ?」


 私は少し呆れ顔になってユニクスへと答えた。


「この姿ですか? ふふふ......これぞ、私のリダ様への愛の集大成! デーモンブラッドの果実をかじった結果です!」


 うん、サッパリだ。

 やたら気合いを入れて力説してるんだけど、色々な途中経過を全部すっ飛ばして言ってる物だから......まぁ、どこからツッコミを入れて良いのか? そこからして悩んでしまう。


「正直、私からすればお前がいきなり男になった様にしか見えないんだよ」


「なるほど。そうですね......どこから説明するのが良いのか」


 ユニクスはうーん......と悩んでしまう。

 私は目をミミズにしてぼやいた。


「どこからって...、そこは最初から説明しておけよ」


「そうですか......では、まず最初に。私の前世は下級悪魔です」


 そうだな。

 前から何回か言ってかも知れないけど、ユニクスもまた、伝承の道化師ピエロの気まぐれから人間へと転生した元悪魔だ。


「悪魔の世界には秩序が存在しません。すなわち混沌の世界と言って良い世界です......そして、性別と言う概念は秩序に縛られる事で発生する物です」


「ふむふむ。なるほど、確かにそうだ」


 ちょっと面倒な話かも知れないが、簡単に言うのなら悪魔と言う存在は根本的にカオスの中で生きる存在であるので、根本的に自然の摂理と言うか、秩序と言う物に縛られてはいない。


 よって、秩序の中にある概念『どんな存在にも必ず二つの性が存在し、二つの性がそれぞれ混じり合う事で、互いに二人の親と同じ存在であり、違う存在を誕生させないと行けない』と言う物に縛られる事がない。


 よって、混沌の世界に生きる存在には性の概念がそもそもなく、その気になれば単体で自分の分身を産み出す事だって可能だ。


 なんだかアメーバーの様な存在ではあるんだが......まぁ、秩序が出来たのは、複雑化した世界のバランスをしっかり保つ為の物なので、ある意味秩序のない混沌世界と言うのは、原始的な世界でもあるのかも知れない。


「故に、私は元の悪魔としての存在状態『混沌の存在』に一部分だけなろうと考えました」


「......スゴい事を思い付くな」


 普通の人間では考えない発想だ。

 まさに、元悪魔ならでわの考え方とも言える。


「人間と言うのは、秩序に縛られる存在でありながら......半分は混沌の存在でもあります。言わば聖邪一体の存在です」

 

 まぁ、神でもなければ悪魔でもない......そのハイブリットではあるな。

 簡単に言うのなら、良い心と悪い心の両方を持っているのが人間だ。


「そこで、私の中に半分だけ存在する混沌の部分を少しだけ上昇させ、性別の概念がある秩序の縛りを解いて見せたのです」


「......」


 私は無言になった。

 簡単に言ってるが、それは大きな賭けでもある。

 元々は悪魔であったとしても、今は純然たる人間だ。


 ただの人間が、カオスの割合を意図的に強めてしまった場合......最悪、強くしてしまったカオスに秩序を全て喰われてしまうかも知れない。


 そうなってしまったら、もうだたの悪魔でしかない。

 人間である以上......どんなに比率が少なくても、ほんの少しは秩序を残さないと行けないからな。


「そこで、私は混沌の力を高める為の手段を考えます。その後、こないだ助けた暗殺者のジャンがとても興味深い情報を私にくれたのです」


 ああ、そう言えば、今日はチズさんの旦那ジャンと一緒に、街の中心地にあるジャンク屋に行ってたな。

   

「ジャンとはあの一件以来、意気投合しまして。何かとチズさんの視線が......怖かったです」


 ユニクスは、ちょっとだけ顔を青くして答えた。

 ああ、やっぱりなんだかんだでチズさんもヤキモチを焼いていたのな。

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