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全てが同じなのに、性別違いの私がもう一人居る世界【19】

「話が出来る環境になった所で悪いが、早速リガーを元の世界へと戻す方法に付いてを聞こうではないか?」


 席に座り、開口一番に私が言うと、バアルが即座に声を返した。


「はい! もちろん即座に手は打っております。本来であるのなら本日の昼間にはリガーを元々の世界へと追い返す……もとい、お帰り頂く手筈は整っておりました。ただ、アシュアと言う悪魔のお陰で、色々と手配に手間取ってしまいましてね?」


 ……と、隣にその悪魔・アシュアが居るとは思えない口振りで言うバアル。

 もちろん、アシュアは良い顔をしていない。


 地味に不本意だったのか?……笑みを作ってはいたんだけど、妙に口元をヒクヒクさせた状態で声を吐き出して行く。


「私が何をしたと言うのです? バアル様のお手を(わずら)わす事なく補佐するのが私の役割であり、使命なのですよ? そんな私がバアル様の邪魔などしよう筈がございません! ええ、そうですとも!」


「そうか? おかしいな? リガーが住んでいる平行世界へとセッティングを行っている最中に意味なく大声で歌われて集中力を削がれたり、セッティングが終了する寸前の所で、然り気無く設定を初期化しようとしたり、最終的にはリダ・レンジャーがお前を束縛するまでに至ったと言う私の記憶は不確かな物だったのかな?」


「もちろんその通りです!」


 いや、それ……絶対に正しい記憶だろ。


 アシュアからすれば、リガーがこの世界にいる事で、まだワンチャンあると考えて居るのだろう。

 結局、私としてもフィーリングが極めてマッチする異性の相手として、かくも手っ取り早く纏まってくれそうな相手が身近に居れば、只でさえ恋愛対象として見ていないバアルなんぞ、私と恋に落ちるとか言うおぞましい顛末は絶対に発生しないと踏んでいるに違いないからだ。


 ここに関しては激しく同意出来る。

 だか、一言物を申したい。

 リガーが元の世界に戻ったとしても、私がバアルと一緒にくっつくと言う可能性は極めて低いと思うぞ?


 他方のバアルとしては、私がリガーと離れ……侘しさで心を傷心している状況を上手に利用して、ここぞとばかりに近付いてやろうと言う算段なのであろう。

 別段、本人がそう言っている訳ではないのだが……如何にもバアルがやって来そうな手段だった。


 そして、アシュアも既に予想して居るのだろう。


 よって……アシュア的には、リガーを平行世界へと返してしまう事は、一転して大きなピンチを迎えてしまうと考えているのではないか? と、私は睨んでいる。


 バアル的には史上最強の恋敵を、さっさと元の世界へと帰らせ……そしてリガーのポジションを一秒でも早く自分の物にしたい気持ちで一杯になっている中、アシュアはそれを全力で阻止してやろうと水面下で暗躍……と言うか、割りと露骨に妨害していたのではないかと予測する。


 セッティング中に大声で歌う……なんぞと言う、シンプルかつ原始的な嫌がらせを普通にやって来た所から察しても、やっぱり露骨な妨害工作をしていたんじゃないのかなぁ……と、私は考えていた。


 しかし、そんなアシュアの妨害に屈する事なく……着々とリガーを元の世界へと(かえ)す方向で調整をしていたバアルも、ある意味で本気であったに違いない。


 ……ま、なんにしても、だな?


「それじゃあ、リガーは今日中にも、元の世界へと帰る事が出来ると言う事か?」


「もちろんですリダ様! なんなら、今直ぐにでも可能です!」


 私の問いに、バアルは絶対の自信を込める形で言って来る。


「そうか……それなら、早く帰らせて貰おうか? 今からなら、あっちのアリンと一緒に夕飯(ゆうめし)を食う事も出来るだろうからな?」


 程なくして、リガーは答えて軽く微笑んで見せる。


 同時に気付いた。

 そう言えば、平行世界の向こう側には、もう一人のアリンがいたと言う……分かり切っていた事実に。


 ……そうだな。

 私は少しばかり自己中心的だったのかも知れない。


 結局、リガーにとっての愛娘は、私の育てている愛娘ではないのだ。

 そして、そのアリンを育てる必要がある人物こそ、リガーとなる。


 平行世界であるが故に、異世界でありながら時間の概念は共通と言う、妙に面倒な側面がある。

 簡素に言うのなら、リガーがここに長く留まれば留まった分だけ時が進み、流れ……平行世界の向こう側に居るもう一人のアリンが、一人寂しく生活する羽目になると言う、悲しい現実が存在していた。


 それだけに、私は自分を恥じた。

 私は、自分の事しか考えて居なかったのだ。


 アリンには父親が必要だ……とか、回りの皆にも馴染んでいるし、いっそこのまま、ここで暮らしても良いのではないか……とか。


 こんな事、平行世界の向こう側に居る人間の事を加味するのであれば、絶対に考えては行けない思考だったのだ。

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