全てが同じなのに、性別違いの私がもう一人居る世界【17】
……けれど、アリンとリガーの関係は、今後もずっと続く物ではない。
むしろ、早ければ即日中に終了してしまう関係だ。
アリンの事を考えるのであれば、いっそこのままリガーがこの世界に居着いてしまっても良いのではないのか?
……ふと、そんな事を頭の片隅辺りで考えてしまう私がいた。
当然、そんな不自然な事が、実際に罷り通るとは思っていない。
思い付きそのままに、直上傾向のまま考えた思考も、アリンにはやはり父親が居た方が幸せに育つかも知れない……なんぞと言う、私のエゴだ。
そんな物の為に、リガーをこの世界に留めて置く訳には行かないだろう。
だけど……せめて。
そう……せめて。
今、この瞬間だけでも、アリンに父親の暖かさと包容力の大きさを味わって貰えたら……。
きっと、それは母親の私には出来そうで出来ない物だと思うから。
元来であれば、互いに不足している部分を補う形で子育てをしなければ行けない中……それでも片親と言う境遇にしてしまったアリンへの、せめてもの罪滅ぼしも兼ねて、私はアリンとリガーの二人が仲良くじゃれ合う姿を、ほっこりした気分になって軽く見据えていた。
○◎●◎○
時間は流れ、真南にあった太陽は西へとゆっくり傾いて行く。
夏至にも近い時期と言う事もあって、まだまだ夕暮れには早い時刻ではあったが、あと一時間もしない内に夕暮れへと空模様が変わって行くだろうと思われる時刻になって来た頃、本日の全授業が滞りなく終了して行った。
バアルとアシュアの二人と待ち合わせている時間の到来である。
私としては、何とも複雑な時間……と表現する事が出来た。
朝の内は、サッサと平行世界へとリガーを戻したい気持ちで一杯になっていた私ではあったが……今の私は大きく心変わりをしている。
理由は主に三つ。
一つは、周囲の面々と恐ろしく簡単に馴染んでいる事。
元々はリガーも私なので、特に気兼ねする事なくコミュニケーションを取る事が出来たからなのだろうが、リガーの社交性の高さも相まって、あたかも前々からこのクラスの生徒をしていたかの様な勢いでクラスに溶け込んでいた。
これだけ溶け込むのが早く、周囲の面々からも仲良くして居られるリガーを、早くもこの世界から追い出す様な事をするのは、やっぱり少し気が引けた。
二つは、アリンがリガーに大きくなついている事だ。
ここは、少し前に述べた事と重複してしまうかな?
だから、ある程度は省略して言うが……結局、私は母親以上の事はして上げれないと言う事を痛感している。
簡素に言うと、母親はやはり母親であり、父親になる事はどう頑張っても無理な話なのだ。
愛娘の事を考えると、もう少しだけで良いから、父親としてアリンを可愛がって欲しいと考える私がいた。
そして三番目。
私自身も、リガーと言う存在に惹かれている。
……こう述べると、少し勘違いされそうなので、まずは先に言って置こう。
決して、異性として恋情を抱くとか、そう言った類いの代物ではないぞ?
ただ、今日一日一緒に教室で授業を受けた事で、自分なりに思う部分があった。
そして、コイツは私にとって肩の凝らない気楽な異性に値する存在であると、特に根拠もなく思えてしまったのだ。
ポイントは、特に気兼ねなく……だな。
相手の事を最低限尊重すると言う部分はもちろんあるのだが……そうではなく、気軽に色々と言い合えると言う事だ。
そして、互いの意思疏通が恐ろしく簡単なのだ。
ここは、やっぱりリガーが私であると言える証拠とも言えるべき部分だ。
言うなれば、阿吽の呼吸なのだ。
軽く何かを伝えたい時に口を開けば、直ぐに意思疏通が出来てしまう。
私が何かを伝えようとすれば、一言も話さない内にリガーは理解するし、その逆にリガーが何かを私に求めている時は、言われるまでもなく顔を見れば大体の見当が付いてしまう。
何とも不思議な感覚だ。
まるでテレパシーの類いを常時オートスキルで発動させているかの様な勢いだった。
それだけ気の知れた相手だけに、私としては一緒に居ても全くストレスを感じない。
良い意味で、空気の様な存在なのだ。
何と言うか、近くに居て違和感がなく……むしろ、居てくれた方が妙に安心してしまう位だった。
本当に不思議な男だよ、リガーは。
そして、これが同一人物と一緒に居ると言う事なんだな……と、今ある奇妙かつ今後は二度と起こる事もないだろう貴重な経験を妙に実感していた。
もっと違う世界線で、もっと違う場面で、もっと違う状況で出会っていたのなら、私はリガーと一緒に居る事を選んだかも知れない……そう思えてならない。
……ま、無理な話なんだけどさ!




