会長、学生になる
この物語を少しでも読んでくれた貴方様へ。
細やかでも幸せが訪れます様に。
私の名前はリダ・ドーンテン。
世界・冒険者協会の会長をしている。
世界に星の数ほど存在するだろうあらゆる謎に挑戦し、獰猛なモンスターから人々を守り、心無い山賊や盗賊を駆逐する、命知らずの冒険者達を統括する協会・会長だ。
特に会長をやりたかった訳ではないのだが、みかんとか言う面倒なヤツにアミダくじで会長職を押し付けられた私は、あとでジャンケンにしておくべきだったと後悔した。
いや、ほら、あたしジャンケン強いんだよ、あれなら負けなかったんだよ!
まぁ、そこは置いておく。本題はここからだ。
昨今の世界情勢はなにやらキナ臭い状況が続いている。
それは人間同士の小競り合いもあるのだが………実際問題、そこは差ほど深刻な物ではない。
元から人間同士の戦争など何千年も前から飽きずに懲りずに、どこかで勝手に潰し会っているし、それはこれから先も続いて行くだろう。少しは学習出来ない物なんだろうか?
問題は次だった。
昨今のモンスターの狂暴さが非常に目に見えて高まっている。これが問題だ。
元から獰猛なモンスターはいたし、凶悪な魔物や魔神なんかも確かに存在していた。
そう、確かにいる事はいる……だが、そこを含めて様子がおかしい。
元から獰猛だったモンスターはより苛烈になり、街はおろか一国を滅ぼす魔物が出て来る有り様。
理由は未だ謎のヴェールに包まれてこそいるが、確実に異常な現象が起こっている事だけは分かった。
一体……この世界に何が起きていると言うのだろう……?
これを脅威と感じた私は、数年前に強い冒険者を育成する機関を立ち上げた。
原因が不明である以上、今ある過酷な現状が好転する事は考えられない。
ならば、こちらもある程度の防衛策を考えなければ、いずれ人間は魔物達に淘汰されてしまうだろう。
私とて人間だ……いずれ地に還る時が来る。
その時までに私以上の才能を持つ優秀な人材を多数排出させ、この世界を守って貰う。それが私の望みだ。
こうして私は、冒険者協会・会長としての権利をフル活用し、心身共に強く逞しく育ってくれるだろう冒険者達を育成して行く機関、冒険者アカデミーを設立する。
通称名は『冒アカ』で、簡素に言う所の、冒険者を育成する学園な分けだ。
冒険者を育成する学園ではあるが、冒アカは若い人材を単純に強化するだけではなく、その地域に貢献する人間として立派な存在になる事を目的としている。
故に、冒アカを卒業した者の多くは、仮に冒険者にならなかったとしても、自分の得意とする能力で多くの地域貢献を果たしていた。
きっと、後世の時代には……私の名前が教科書に載るのだろう。いや、参ったね。恥ずかしいったらないねぇ。
………。
うん、まぁ、そこはそうなったら良いなって話しだ。ほ、本当だぞ? 別に有名になりたいからやってる分けじゃないからな?
こうして生まれた冒アカなのだが、最近になって何故か不穏な噂を耳にする。
冒険者協会の本部にいる私だけに、それらの情報は勝手に入って来る。また、情報の正確さも疑うべくもない。
それだけに衝撃ではあった。
なんと、冒アカを壊滅させようと画策する、正体不明の魔族が出現していると言う。
公の場ではまだ語られておらず、飽くまでも水面下での話しではあるのだが、冒険者協会の諜報部はどこよりも早く情報を入手していた。
当然、そんな魔族をのさばらせては置けず、私は秘密裏に討伐作戦を決行する。するんだけど。
討伐隊のパーティは悉く全滅。
これには参ったよ。最初はね、軽く考えてたのさ。
それがスゴく甘いって事に気付かされた。本当に申し訳ない事したよ。
繰り返し言う様で悪いけど、最初は甘く考えてたから、中央本部からスグに動ける冒険者に声を掛けてくれと頼んだのさ。
そして数時間程度でCランクの冒険者達が名乗りを上げ、この作戦を開始したんだ。
翌日だったよ………そいつらの死体が冒アカの裏山に転がってたのは。
全ての責任は私にある。
冒険者は死と隣り合わせであるのが相場であるが故に、私を責める者はいなかったが、心はきしんだよ。
そこから、私も本腰をいれて討伐作戦を吟味する。
数日程度で精鋭を結成し、主にSランクの冒険者を学園に送り込んだ。
ああ、そうそう。
ここでちょっと補足するが、冒険者協会の定めた能力規定でもある『ランク』は、一定の目安ではあるが、それ相応の能力を持っている事を意味しているぞ。
最低ランクがD-。
以後、これが無印になり、更に上位になるとD+になる。
D+から昇格するとC-へ。
この要領で一部の特殊な存在を除けば、最上位がSS+になる。
実はこの上があるんだけど、そこは後で説明しよう。
取り合えず、本題に戻るぞ?