命運(あした)
先ほどの演説の後俺たちは王宮の中へと移動をした。想像していた様な形式でなく大きくテーブルに椅子が3つあり奥の席に王女が座ると席に着く様に進めてくれる。まぁ特に他のことを気にせず席に着く。
なんと言うか聞きたいことは山ほどあるのだが自分の欲に惑わされずに王女が口を開くのを待ってみることにした。目線を右に少しずらすと妹もそれを察して頷き口を開くのを待った。
しかしすぐに口を開くのではなく下を向いて黙り込んでいた。ここで心配の一言でもかけるのが紳士的な対応なのだろうがあいにく人見知りを発動させているのと、コミュ障なので気の利く言葉すら思い浮かばない有様に心で失笑するのが精一杯だ。
なんと言うかこの気まずい空気になってしまったと自覚しているあたりかなり情けない。そんな空気がしばらく続いて行くのかと思っていたら先程入ってきた扉がノックとともに開くとメイドがしっかりとした口調で失礼しますと軽く挨拶をし紅茶だろうか?飲み物を用意してくれた。それに王女は小声でありがとうと呟く、ちなみに俺たち兄妹は深くそれは深くお辞儀をした。
先ほどの空気感が少し変わると王女様の口が開く。
「ええと、紅茶です。ど、どうぞ」
「ひゃいっ」
なんて格好の悪い…。
「兄さん気持ち悪いです。」
この妹はなぜかこう自覚しているのに傷口に槍を刺すのか。お兄ちゃん心痛い。
「分かってるよ、ごめんなさいね〜」
こんないつものやり取りをしているとどこからか笑い声が聞こえてくる。その笑い声はいつもの俺たちが聞き慣れた人を馬鹿にするものではなく、どこか優しくてほんわかする声でそのちいさな手で口を覆い隠し声が響かない様に控えめに笑っていた。そんな王女を見て不思議と変な緊張は無くなった。
ひとつ咳払いをし空気を落ち着かせる。それに察したのか王女も咳払いをしてこちらを覗く。
「えぇ、聞きたいことが沢山あるのは分かりますがそれは少し後で良いですか?」
その質問に対して反論があるわけでは無いので無言で頷く。部屋や先程通った廊下演説の時に見た国民の服装、城の外観を思い出しながら耳を傾ける。
「まずは先程はお見苦しい姿を失礼しました。」
なんというか転生モノのラノベでありきたりな行き先の中世の世界観と一致、と。のであればこの世界に来る前に見せられたのは魔法か魔術の様なものかじゃ、さっぱりわかんないもっと情報を集めるべきか。それに王女の側近らしき人が武器の一つも所持していないのはきになる。
なんというか俺たちにも魔法の類が使えるのかが重要な鍵になりそうだ。
「それとあの演説ありがとうございます。感動しました…あんな咄嗟にこの世界のことを理解して瞬時にあの演説が出来るなんて凄いです。」
「いや、あんな夢?幻術?見れば流石に。」
というか演説の時に集まっている人の割合がおかしかった様な気がするな。20〜40代くらいの人が少なかったというより居なかった…この場合戦死したと考えるべきか…城の中にも居なかったし騎士隊と思われる人たちにも遭遇したが男性が居なかったな。
「あのー、その夢詳しく話してくれませんか?」
質問の意図をつかもうと王女に目を向けると椅子から立ってテーブルから身を乗り出す様な姿勢でこちらを凝視していた。そこから考えられることは2つそんな魔法はかけていないか、あるいは未来の記憶か。まぁ前者のほうだろう。少し驚いて黙っていると王女はまだかまだかとこちらに無防備な姿勢で近づいてくる。
見かけより胸大きいな…なんて思ってねぇ、し。ホントダヨ。
「兄さんのえっち、ラノベ主人公にでもなったつもり?」
的確な妹のツッコミにむせてしまう。あ〜こういうシュチュエーションの時本当にむせるんだな。
「さっささ、とりあえず落ち着きましょう。」
この変態死ねよ見たいな目で妹がこちらを睨んでいる。その、王女と比べてなんというか以下略な胸を押さえて、可愛いかよ…
視線を正面に戻すと何かを察したのか顔を赤面させてゆっくり椅子に付いていた王女がいた。
どーすんだよこの空気…また最初に戻ったよ。
先程より声があからさまに小さくなったが可愛さはそのままだがそんな声で王女が口を開く。
「あの、お話お願いします。」
先程入れてくれた紅茶もほどほい温度になっただろうか、少しだけのむ。うまいなこの紅茶。
「あぁ〜それなんだが先に質問からいいか?」
王女はこくりと頷き、真面目な顔つきになる。
「いくつかあるんだが、まぁ無難にこの世界のこととおかれている状況及び俺たちがここにいる経緯。そして何より知りたいのは魔法、魔術の類が使えるのかどうかを教えてくれると助かる。」
こんなに質問ぜめしておいて何だが、紅茶のおかわりが3杯にかかろうかというくらい時間がかかっていた。それにまだ説明が終わっていないというこの世界の説明。どんだけ行き詰まっているかわかるか?もう失笑するのを抑えるのがやっとだよ。
そして俺が最後にした質問に差し掛かった時に少し移動しないかと提案され断る意味もないし丁度座り疲れていたこともありそのまま王女についていくとそこは城の中庭で綺麗な噴水とそれを飾る色鮮やかな草木や花。中庭に出ると王女は背筋を伸ばしこちらに振り向く。
「わが心に秘めしその剣よここに具現化せよ。」
そう言葉を王女が放つと目の前に一本の剣が現れるその剣を王女が持つと先程まで輝いていた剣の光が収まる。
「剣輝解放。」
「ビンゴ…」
鎧でその姿を包んだ王女が目の前に現れる。その姿はあの夢の少女そのものである。白騎士という異名が当てはまるその美しい鎧、あの時一番印象に残った赤い剣。
それを見た妹は唖然としている。まぁあんな夢に出てきたもんがそのまま現れてんだそりゃ驚くか。
「かかっか、カッコ可愛い!すごーい本当に綺麗だ。うわぁ〜アニメみたい…」
そっちかよ。そうだよなぁそんなんで驚く様な可愛い妹じゃないよな〜いや容姿は可愛いんだけどな?
「あのさもしかしてだけど、その剣か君の能力は時間を操るとか、未来を見る事が出来たりいや違うな、誰かの意思を操る事が出来たりすんのか?」
「そうね、私はというよりこの背中のシンボルね」
と話を切り出した彼女(王女)は先ほどまで纏っていた多分魔力などで作った鎧を外し、服を脱いだ。
「おおおおい…やめて、オレドウテイ、タイセイナイ」
待てよこんなすけべイベント、エロゲでしか見たことないぞ?と言うかさっきから妹の目が痛い。
助けてお兄ちゃん妹に目で殺される。
「この紋章が兵器の印よ」
背中に描かれた? 刻まれた紋章は王家の旗印と同一のものであった。大きいわけではない背中の右上ら辺にある肩甲骨付近だ。
「兵器?」
妹は的確な質問をした。
兵器と言うことは人為的に作り出したものであると言うことで、真っ当な人間ではないと言っているようなものだ。