第8話 神里 響子
「さて、答え合わせといこうか」
口にしつつ、手が震えてることに気づいた。俺、緊張してるんだな。鬼が出るか蛇が出るか。鬼も蛇もお呼びじゃないから、妖狐みたいに絵的に映えるファンタジー生物とか出てこねぇかな。
俺は意を決してインターホンを押そうと手を伸ばした。が、俺の手が呼び出しボタンに触れる前に、そのドアが開かれた。
「うわっ」
思わず声を出してた。俺ってこんなにビビりだったか? たぶんだが、さっきの佐倉さんの殺されるかも発言が尾を引いてる。まさかと思う一方、世界を巻き込む計画よりはずっとあり得る気がするのだ。
「お待ちしておりました」
開かれたドアから現れたのは白衣を身に纏った女性だった。20代後半くらいだろうか? 化学の先生っぽい雰囲気だ。それは白衣のせいか。
「あなたが飛鳥 響子を騙っている人ですか」
飛鳥さんがその女性に問う。飛鳥さんは睨むような表情で結構迫力があるのだが、女性に動じた様子はない。
「飛鳥 響子は私ではありません。飛鳥 響子は中にいます。私はただのアシスタント。助手です。助手さんとお呼びください」
助手さん? さすがにそれは呼びづらい。
「名前で呼ばせてくれませんか?」
そう言ったものの、
「私の名前は助手です。それ以外の呼称であれば、アシスタントとお呼びください」
と返された。名前が助手って……。
「中で飛鳥 響子が待っています。どうぞお入りください」
助手さんに促されるままに、俺たちは家の中へと足を踏み入れた。外面は古びていると言うか、言ってしまえばボロボロだったのに、中は案外綺麗だ。
助手さんについて、家の中を歩く。結構広い。迷いそうだ。1分ほど家の中を彷徨うと、部屋の前で助手さんは足を止めた。
「この部屋の中で、飛鳥 響子は待っています。どうぞ、お入りください」
そう言いつつも、助手さんは廊下で立ったまま動かない。この人は部屋には入らないということか。
俺たちの中で初めに動いたのは飛鳥さんだった。促されるとすぐに襖を開いた。俺たちはその後ろに続く。
「あなた方を待っていました。ただ、飛鳥、あなたに招待状は送っていないはずなのだけれどね」
部屋の中には、俺たちと同年代くらいの女子がいた。髪はショートカットなのだけど、顔つきが飛鳥さんに似ている。まるで、姉妹のような……。
「…………」
当の飛鳥さんは驚愕の表情を浮かべて絶句していた。
「久しぶりね、飛鳥」
「…………姉、さん」
飛鳥さんの呟きを、俺は聞き逃さなかった。姉さん。そう言った。姉妹。
俺たち3人は、飛鳥さんともう1人の飛鳥とのやりとりを見守るほかなかった。
「……どうして? どうして! 姉さんは死んだのよ! あなたは誰!?」
「私は紛れもなく、あなたの姉。神里 響子よ」
神里? 飛鳥 響子ではなく? 俺にはどうも状況がわからない。
「違う! 姉さんは2ヶ月前に死んだ。私は、その瞬間だって、見たんだから……」
「なら、私は何? どう見ても、神里 響子でしょう? 飛鳥。私は、生きている」
「本当に、姉さん?」
飛鳥さんの頬に涙が流れた。






