第7話 飛鳥 響子
*(トモヤ)
突然見ず知らずの女子から話しかけられる。まさにボーイミーツガールって感じで、青春っぽい。俺は今の状況に、かなりテンションが上がっていた。
「俺たちがその集いの人かは、微妙だよな」
俺はそう言ってリョウの方を見た。
「そうだね。えっと、あなたも例のメールが届いた感じ、かな?」
「あの、私に届いたわけではないんです。友達に届いて、それで、私、飛鳥 響子って名前で」
「マジ!? 差出人!?」
俺はすぐさま声を上げていた。ここでいきなり差出人登場とか、急展開過ぎだろ。そこは目的地に着いてから、満を持して出てくるもんじゃないのか。
「違います。違います。私はあんなメールは送ってません。ただ、私の名前であんなメールを送っている人がいると思うと、ちょっと気持ち悪くて」
ここで差出人と同姓同名の人物の登場か。これは、後に何かしらのキーパーソンになりそうな予感が。
「それは気持ち悪いよね。自分の名前を騙る誰かなんて。それで、その正体を突き止めにここまで?」
俺がこの先の展開を妄想していると、リョウがそう質問した。俺の名前を騙るやつがいたとして、俺なら会いに行くだろうか。
「はい。相手が何者なのか、確かめないといけないと思いました」
「じゃあ、俺たちと一緒に行かね?」
何か差出人と関係のありそうな2人目の女子。マジでワクワクする展開になってきた。本気で冒険になり得るんじゃねーの、これ。
「いいんですか?」
「目的地は一緒だろうし。いいよな?」
「飛鳥さんが嫌じゃないなら、僕は大丈夫」
「あたしも。女の子同士仲良くしよっ」
飛鳥さんをパーティに加えて、俺たちはRPGよろしく道を連れ立って歩く。本当に何もない道路だ。人間と遭遇するよりモンスターが飛び出してくる方がまだあり得そうなほどに人気もない。
「改めて、飛鳥 響子です。弥生女学館高等部の1年生です。よろしくお願いします」
歩きつつ、自己紹介をする。
「俺は一ノ瀬 智也。師走西校の1年。よろしく」
「同じく師走西校の奥村 涼です。よろしく」
「あたしも師走西校で、佐倉 綾って名前。よろしくね、響子ちゃん」
「あ、えっと、私のことは苗字で呼んでくれると嬉しいです」
飛鳥さんは困ったような顔でそう言った。名前で呼ばれるのが嫌なのか。
「ごめん。馴れ馴れしかった、よね」
シュンとした様子になる佐倉さん。女子2人で関係がギクシャクするのはやめてほしい。
「いえ、そういうわけじゃなくてですね。あの、私、自分の名前があまり好きじゃなくて」
「響子って、いい名前だと思うよ?」
「とにかく、嫌なんです。ごめんなさい」
「わかった。こっちこそごめんね。よろしくね、アスカちゃん」
「はい。よろしくお願いします。佐倉さん」
なんとなく2人の間に壁を感じるやりとりだった。
*(サクラ)
まずは敬語の壁を打ち壊す。あたしはそう決めて、アスカちゃんの隣に位置取って、話題を振る。
「アスカちゃんって部活とかやってる?」
「はい。演劇部です」
「演劇かぁ。なんかすごいね」
演劇についての知識をあたしは何一つ持ってない。だからって、なんかすごいねはないだろーと心の中で自分にツッコんだ。
「佐倉さんは、何部ですか?」
「あたしはテニス部。これでも結構強いんだよ」
そう言ってエアーでスイングをして見せる。結構強いのは部内での話で、西校テニス部自体が弱いから、本当は別に強くはないんだけど。
「それは、すごいですね」
たぶん、アスカちゃんはテニスについて何も知らないんだろうなぁ。部活の話題は失敗だった。でも、あたしはくじけない。
「弥生女学館って、確か超難関私立だよね。アスカちゃんってもしかして天才?」
「いえ。高等部から入るのはとても難しいみたいですが、私は幼稚舎からなので。勉強は人並みにしかできません」
「幼稚舎からって、超お嬢様?」
「そんなことないです」
アスカちゃんはそう言うと俯いてしまった。お嬢様って言われるの嫌みたい。また失敗。それでもあたしは諦めない。
「好きな食べ物とか」
「喋るの下手かよ」
一ノ瀬くんが前で苦笑していた。あたしは別にコミュニケーションが苦手な方じゃない。たぶん得意な方だと思う。だから、喋るのが下手なんじゃない。
「喋るのじゃなくて、話題選びが下手なのよ」
あたしはただボキャ貧なだけ。
「なら話題提供な。あと数分で目的地に着くわけだけど、そこで何が待ってると思う? はい、リョウから」
「え? 僕? 白けるかもだけど、何もないんじゃないかな。ただ民家があるだけ」
「マジで白ける答えだな。じゃ、佐倉さん」
そう振られて、考える。今から行く先には何があるだろう。あのメールの指定する場所に、何があるだろう。
「救いが待ってる?」
口にしてから思った。何言ってるんだろう、あたし。救いってつまり何? 明日の恐怖からの救いって、つまり。
「殺される、とか」
あたしがそう呟いたら、3人がギョッとした顔であたしを見た。また失敗した。あたしって、実は本当に会話が下手?
「いや、なんて言うか、不安定で不確定な明日の恐怖からの救いって、明日が来ないようにすることかなぁって。あはは」
「あははじゃねーし、怖ぇーよ。俺たちは自殺志願者じゃねーぞ」
「別に本気で言ってるんじゃないよ」
本気じゃない。そう言った。自分にもそう言い聞かせる。あたしが今言ったことは、本気じゃない。
「そうか? じゃ、最後に飛鳥さん」
「私の名前を騙る不審者がいるかと思います」
「メールの差出人、いんのかな? 俺としては、いてほしいけどさ。それから世界を巻き込む壮大な計画の一端を垣間見た俺たちは」
「中二病なの?」
あたしがそう言うと、一ノ瀬くんはすぐに「違ぇーよ」と答えた。
「実際に世界を巻き込む壮大な計画なんてねーだろうけど、メールの差出人はなんかしらの計画を立ててるんじゃないかとは思う。さて、答え合わせといこうか」
あたしたちの目の前には、立派だけど古びている日本家屋が建っていた。