第6話 睦月駅
*(サクラ)
「3人とも、そんなに明日を怖がらないで」
その声の主を探したけど、見当たらない。あたしと同年代の女子の声に聞こえたけど、あたしたちの周りには、それらしい子はいない。
「今の、佐倉さんじゃないよね?」
一ノ瀬くんにそう訊かれて、あたしはすぐに「違う」と答えた。
「確かに聞こえたよね? そんなに明日を怖がらないでって」
「うん。確かに聞こえた」
奥村くんはそう答えたけど、
「俺は、確かにって言えるほど自信ないな。なんとなく聞こえた気がしたっていうか」
一ノ瀬くんの答えは曖昧だった。でも、あたしにははっきりと聞こえた。
「なんか、謎の声とか怖ぇーな。これ、マジでドッキリ説出てきた?」
一ノ瀬くんはことさら明るい声でそう言ったけど、本気で気味が悪い。
「帰らない?」
あたしはそう口にしていた。
「いや、もうあと少しで睦月着くけど」
一ノ瀬くんは帰るつもりはないらしい。
「僕は元々乗り気でもなかったし、帰るなら帰るでいいかなって思うけど」
奥村くんはあたしの方を気遣ったような目で見ている。つまり、あたしがどうしても帰るって言えば、ここからでも引き返すってこと。
どうする? 帰る?
正直、さっきの声は気味が悪い。でも、それ以上に、この先に何があるのかが気になる。
「ごめん、大丈夫。やっぱり気になるし、行ってみよ」
結局あたしはそう言っていた。
それから数分で、あたしたちは睦月駅へと降り立った。
*(リョウ)
睦月駅で降りたのは僕たちだけだった。寂れた駅だ。ホームには自動販売機なんかもなく、閑散としている。
僕たちは3人で連れ立って駅を出た。
「ほんと、なんもねーな」
トモヤの言葉に辺りを見渡した。田園が広がっているとか、そんな風景であれば田舎な感じもするのだけど、ここにはそれすらない。ただ車の走っていない道路が続いているだけ。そして、ポツポツと、人の住んでいる気配のない民家があるだけ。
「で、目的地ってどっち?」
「「あっち」」
僕と佐倉さんは同時に同じ方向を指差した。
「この使われてない感じの道路をひたすら真っ直ぐか?」
「そうっぽい。15分くらいだと思う」
「この殺風景な中を15分歩くって思うと萎えるな」
「帰る?」
「いや、ここまできて帰らねーよ。あのメールの正体突き止めねーと」
僕たちは歩き始めようとした。
「あ、あの」
その時、後ろから声がして、僕たちは同時に振り返った。
そこに立っていたのは、見たことのない学校の制服を着た女子だった。佐倉さんと違って、完全な黒髪でロングヘア。なんとなくお嬢様という形容が似合う気がする。
この人、いつからここに? 駅から出てきたんだとしても、さっきホームには誰もいなかった。
「皆さん、明日が怖いものの集いの方ですか?」
その女子は、ひどく緊張した様子で尋ねてきた。
これが、僕たちと飛鳥さんとの初対面だった。