第4話 サクラという少女
*(サクラ)
気味の悪いメールが届いた。あたしはメールアドレスの管理はしっかりしてるし、かなり複雑にしてる。だから、今まで迷惑メールが届いたことはなかった。
それなのに。なんなの、このメール。差出人の飛鳥 響子には全く心当たりはない。
あたしのバカなところは、今まで迷惑メールなんて来たことがなかったこともあってか、普通に添付ファイルまで開けたこと。迷惑メールだって気づいた時には後の祭り。今のところスマホの挙動には何も問題ないけど、もしかしたら今この瞬間にも情報が漏れてるかもしれない。
「バカだなぁ。あたし」
「どうしたの?」
つい昨日のメールの一件を思い出して、教室でため息をついてしまった。
「ちょっと、昨日の自分のバカな行動を思い出しただけ」
「バカな行動って、それ忘れたこと?」
あたしは今、放課後にも関わらず、教室に残って課題を解いていた。今日が提出期限だった課題をやってなくて、「今日ってのは23時59分までですよね?」と先生に無理を言ったのだ。
「それもバカだよね。完全に忘れた」
「佐倉さんって時々抜けてるよね。ウチはそろそろ帰ろっかな」
「あたしの課題を半分やってくれてもいいんだよー?」
「それは自分で頑張って。あ、あと、今、廊下に出ない方がいいかも。変なのに声かけられるから」
「変なの?」
「明日が怖いとかなんとかっていう迷惑メールを知らないかってさ。意味わかんないよね」
その話に思わず声が出そうになったけど、なんとか飲み込んだ。あのメールだ。間違いない。なに? あのメールってやっぱりウイルスとか付いてて、その注意喚起? だとしたら、あたしのスマホはもう手遅れ? そんな……。
「それって、誰が訊いてるの?」
「2組の一ノ瀬くん。なんなんだろうね」
2組の一ノ瀬くん。話したことはある気がする。
「じゃ、ウチは帰るねー。課題ガンバ」
「また明日ねー」
友達を見送って、すぐに一ノ瀬くんに話を聞きに行こうと席を立った。で、すぐに座った。……課題、今日まで。あたしは早く終わらせるべく、テキトーな答えをプリントに書きなぐり始めた。
*(リョウ)
教室に入って来たのは女生徒だった。整った顔立ちで、ギリギリ指導が入らないレベルに茶色に染めたセミロングの髪。見覚えはある。1年生ではあると思う。でも、名前もクラスもわからない。
「えっと、佐倉さんだっけ? 4組の」
トモヤはその女生徒にそう言った。さすが交友関係の広いトモヤだ。
「うん。一ノ瀬くん。えっと、メールの話で」
「お、明日が怖いものの集いの?」
「うん。そう」
ここにきて、あのメールが届いた人が現れたらしい。正直、もう見つからないだろうと諦めていた。
「あのメールって、危ないの?」
女生徒もとい佐倉さんはそう訊いてきた。危ないか、か。今のところは危なくはないよな。
「添付ファイルまで開いたバカがここにいるけど、別に危なくはないみたい。な?」
そう言って、トモヤは僕の方を見た。僕にとって佐倉さんはほぼ初対面なのに、いきなりバカはひどい。実際、迷惑メールの添付ファイル開くとかバカだけどさ。
「危なくはないね。開いてから調べた不注意者だけど、ウイルスとかじゃなかったよ」
そう言うと、佐倉さんはあからさまにホッとした表情を見せた。
「あたしも、添付ファイル開いたバカなんだよね。しかも、その後にウイルスチェックすらしてない大バカ」
「あ、いや、まぁ、なんとなく開いちゃうこともあるって」
トモヤのやつ、僕をバカにした結果がこれだ。なんとなく気まずい。
「あのメールの添付ファイル、地図の画像だったでしょ。それをトモヤに話したら、行ってみないかって」
「そ、そう。それで、俺たちと一緒に来る人いないかなって、同じメールをもらった人を探してたんだよ」
俺たちって、僕は行くとは言ってない。ただ、佐倉さんの手前、話を腰を折るも悪いのでここは飲み込む。
「そこには救いがあるってやつだよね? 2人とも、信じてるの?」
「まさか。ただ、気になんね? わざわざ迷惑メールでリアルの場所を指定して来るとか、なんとなく都市伝説っぽいじゃん」
トモヤの言葉に、佐倉さんはメールの文面を読み直し始めた。そして数秒してから、
「そう言われると、気になるかも」
と答えた。
「睦月駅って遠くはないよね。1時間くらい?」
「そうそう。な、3人で行ってみね?」
まぁ、別に無理に拒否したいことではない。
「別にいいよ。乗り気じゃないけどね」
「行くって、今から?」
佐倉さんの問いに、トモヤは顎に手を当てた。
「あー、メール本文にいつ来いってのは書いてなかったよな?」
「うん。時間指定はないよ」
メールの文面を確認しつつ、トモヤに答える。
「じゃ、次の週末とかどう?」
「僕は大丈夫だけど」
「あたしも大丈夫。ちょっと冒険っぽくてワクワクするかも」
「俺も、こういう非日常みたいなの燃えるわ」
「行ったら何もないって可能性が1番高いけどね」
高校生にもなって、冒険しに行くって歳ではないだろう。まして目的地は電車で1時間の近場だ。
冒険になるかはさておき、僕たちは週末に出かけることになった。