第2話 2人の少年
*(リョウ)
「で、その添付ファイル、なんだったわけ?」
昼休み。昨日の迷惑メールの話をトモヤにした。別に面白い話のつもりでもなかった。不注意に添付ファイルを開いたという、大して面白くもない自虐ネタだったのだが、トモヤはなぜか興味を持ったようだ。
「地図。マップの画像だった。GPS情報を本文に入れればいいのに、わざわざ画像。マップには丸印がついてるところがあって、そこが来いって言ってる場所なんだと思う」
「へぇ。行くのか?」
「迷惑メールの指示になんて従わないよ」
「普通は、迷惑メールの添付ファイルだって開かない」
揶揄うような口調のトモヤを見る。
一ノ瀬 智也。僕の中学からの友人だ。人付き合いがちょっと苦手な僕と違って、とても社交的。高校に入学して1ヶ月くらいしか経ってないのに、1年生250人全員と話したことがあるらしい。そのルックスも相まって、女生徒たちから、すでに人気があるとかないとか。こんな僕が、そんなトモヤの友人でいられることがびっくりだ。
「ただ、迷惑メールの中では珍しいよな。リアルの場所を指定して、ここに来いってのは」
確かに。迷惑メールは山のように受け取ったことはあるが、こんなのは初めてだ。
「普通の迷惑メールは、URLがあって、ここにアクセスしろって感じかな?」
「もしくは返信を求めてくるか。アドレス変えましたってやつ。お前誰だよってな」
トモヤの言葉に僕は頷いた。その手の迷惑メールは何通も来たことがある。
「行くか行かないは置いといて、指定された場所ってどこだったんだ?」
「いや、行かないけど。えっと、睦月駅の近くだったと思う」
「案外近いんだな」
睦月駅は、僕たちの住むここ師走から電車で1時間弱くらいだっただろうか。無人駅で周りにも特に何もないから行くこともない。ちょっと地方に出るときに、快速急行で通過して行く駅の1つだ。
「行こうと思えば普通に行けるのか」
「トモヤが行く気ならマップ送るよ?」
「俺1人で行けってかよ。そうだ、その迷惑メール来たのいつ?」
「昨日の夜かな」
「なら、他にも受け取ったやついるんじゃね?」
確かに、迷惑メールなら、同じ内容のものが大量にばらまかれているだろう。
「いるかもだけど、それがどうしたの?」
「いや、そいつが行く気なら便乗すっかなって」
「トモヤって、フットワーク軽いね」
「こういう都市伝説みたいなの、結構好きなんだよ」
*(トモヤ)
「トモヤって、フットワーク軽いね」
そう言うリョウは他人事風だった。自分に届いたメールで、添付ファイルすら自分で開いたくせに。
「こういう都市伝説みたいなの、結構好きなんだよ」
そう答えながら、リョウの方を見た。
奥村 涼。俺の中学からの友人。リョウを紹介するなら、一言で言える。いいやつ。リョウはとにかくいいやつだ。周りに気は使えるし、人の嫌がる仕事なんかは引き受ける。文句なしに引き受けるんじゃなくて、文句を言いつつ引き受けるところが好感を持てる。いいやつ故に、人と話すときは一歩引いて見るところがあるリョウが、俺とは結構近い距離感で話してくれるのを、俺は密かに自慢げに思っている。
「リョウは興味が湧かないか、このメール」
「気にならないって言うと嘘になるかも。でも、わざわざ睦月まで行こうと思うほどじゃないよ」
この言い方、うまくお膳立てすればリョウも来そうな言い方だ。
「じゃ、睦月に行くんじゃなくて、学校で同じメールもらったやつ探すくらいなら、やってもいいってことだよな?」
「別に乗り気でもないけど、それくらいなら付き合ってもいいよ」
リョウはため息混じりにそう答えた。
「そうと決まれば、昼休み終わる前にクラスのやつに訊いてみようぜ」
昼休みが終わるまであと5分。予鈴を聞いて戻ってきたクラスメイトたちに、俺とリョウは聞き込みを開始した。