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プロローグ ある魔法使いの一生

息抜きで書きました。

楽しんでもらえたら嬉しいです。

 むかしむかし、とある国に、魔術の才能に長けた一人の男がいました。


 彼の名前はオルクス・リュドー。


 オルクスは生まれは平民でしたが、その魔法の才能を国王からも認められ、稀代の魔術師として近隣諸国にその名前を轟かせていました。


 そんなオルクスでしたが、彼には昔から弱点? あるいは欠点? はたまた汚点? というべき残念な点がありました。


 それは、オルクスが極端に恋愛運の無い男だった(・・・・・・・・・・)、ということです。


 オルクスには地位も名声もあり、女性から見ると相当魅力的な男性にあたる筈なのですが、意中の相手からは必ず振られてしまうのでした。

 

 十五歳の時に恋をした公爵令嬢ローレシア様には、「平民出身ですよね?私お金が好きなんで、お金が無い方はちょっと……」と振られてしまいました。

 二十歳の時に恋をした隣国の大商人の娘ナターシャ様には、「魔術師ですよね?私マッチョが好きなんで、筋肉の無い方はちょっと……」と振られてしまいました。

 二十五歳の時に恋をした帝国の大将軍の娘レイシア様には、「人族ですよね?私獣人みたいに毛深い人が好きなんで、モフモフでは無い方はちょっと……」と振られてしまいました。


 こんな感じで、オルクスは恋した女性に(ことごと)く失恋してしまいました。


 とはいえ、オルクスもただ指を咥えて失恋回数を増やしていた訳ではありませんでした。失恋する度に何がダメだったか反省し、きちんと次回に生かそうとはしていました。


 それは自分で気付く時もありましたが、周囲の人に気付かされる時もありました。

 一番オルクスの相談に乗り、そして助言をくれたのが、彼の実家の隣の家に住む幼馴染でした。彼女は幼少の頃からのオルクスの知り合いで、オルクスが困った時にはいつも助言をくれるありがたい存在でした。


 オルクスがローレシア様に振られた時、幼馴染は生まれつきのほんわかした口調で言いました。

「お金持ちだったら良かったのにね~」

 その助言もあり、オルクスはお金持ちになることを決意します。


 その後のオルクスの動きは迅速でした。すぐに宮廷魔術師部隊を辞し、退職金と今までの貯金で小さな商会を作ります。そして、持ち前の魔術的才を生かして様々な魔道具を開発し、多額の販売益を稼ぎ出します。

 次にオルクスは鉱山や林業など原材料を扱う分野に目を付けました。出資や技術提供を通じてその分野に進出すると、画期的な魔道具を導入して生産性を飛躍的に向上させました。そして、原材料分野でイノベーションを起こした実績と配当金の譲渡を餌に王宮と交渉し、その独占特権を認めさせることに成功しました。オルクスはその後、インフラ産業や流通業へも事業を拡大。数年後には、自身で作ったオルクス商会を大陸有数の財閥に成長させたのでした。



 「筋肉がないからダメ」とナターシャ様に振られた時も同様でした。幼馴染の助言もあり、世界一のマッチョになることを決意しました。

 オルクスは"死の大地"と呼ばれる、ドラゴンなど世界最上位の魔物達が多数群生する秘境で修行を始めました。オルクスはそこで、魔物を倒す時には攻撃魔法を使わないという無茶な独自ルールを設けて修行に挑みました。修行を始めてしばらくはオルクスも相当苦労しました。手や足を食い千切られたり、内臓が飛び出したり……。オルクスが回復魔法を極めていなければこの時命を落としていたことでしょう。

 しかし、オルクスの強き執念は、ここでも打ち砕かれることはありませんでした。死の大地に挑んで数年、遂にオルクスは死の大地の王と呼ばれる黒竜を討伐し、故郷に凱旋したのでした。


 このように、オルクスは失恋しても、ダメだった所を直そうと努力をしました。

 しかし、いくら自分の悪い所(?)を直しても、オルクスは失恋し続けました。

 

 そして、そうこうしているうちに、気付けばオルクスも中年を通り越して初老に差し掛かる年齢になっていました。その頃になると、稀代の魔術師として世界中に名を轟かせたオルクスも、すっかり弱気になっていました。


 目尻には皺が寄りフサフサだった頭もすっかり薄くなってしまったオルクスは、ある日、とある娼館の前に立っていました。その表情は険しく、手には今朝抜け落ちた自分の髪の毛を固く握りしめていました。

「―――是非もなし」

 寂しそうな目で一言呟くと、オルクスは娼館の中に入って行きました。


 オルクスの相手として出てきたのは、年が二回りどころか三回りほども離れた若い女性でした。さすがにこれにはオルクスも驚きましたが、優しい彼女の笑顔に絆され、オルクスの緊張もだんだんと解かれていきました。「いよいよ年貢の納め時か……」この期に及んでは、童帝もすっかり大人しくなっていました。軽いスキンシップの時間が終わりいよいよ本番となった時、その女性は言いました。


「このハゲ。(入れるところが)違うだろ」


 オルクスは逃げ出しました。

 かつて死の大地に君臨した黒竜を降し、各国の勇者たちを軒並み退けてきた稀代の魔法使いは、二十歳そこそこの女性に敗れ、尻尾を巻いて逃亡したのでした。

 前料金制だったのでお店に迷惑をかけることはありませんでしたが、裸で娼館を飛び出したジジイの話はその後しばらく市中の噂になりました。



 この時、落ち込むオルクスに対して幼馴染がかけたある一言。その一言が、オルクスの人生とその後の世界の命運に大きな影響を与えることになります―――。

 幼馴染は生まれつきのほんわかした口調で言いました。




「若返ることができたらいいのにね~」




 オルクスはその日から、若返りの術の研究に没頭します。


 とはいえ、これまでに若返りの術を完成させた者は一人もいません。無数の魔法使い、幾人もの錬金術師、そして、その時代の賢者らが追い求め、結局実現出来なかった伝説上の術です。いえ、伝説の術というよりお伽噺の類に近いと言ってよいでしょう。いくらオルクスとはいえ、そう簡単に実現することはできませんでした。


 研究は長きに渡り、オルクスは何度も壁にぶち当たりました。しかし、オルクスは諦めませんでした。世間から"稀代の大魔術師"や"偉大なる賢者"などと讃えられるオルクスですが、身近な人達――例えば幼馴染に言わせると、その評価は異なりました。

 曰く、(女性関係を除き)諦めが悪い。

 曰く、変なことに拘り、本末転倒になることが多々ある。

 と、少し残念な評価でした。

 そして、オルクスのこの諦めの悪さ、拘りの強さが、最終的に実を結ぶことになります。


 研究をはじめて三〇年の月日が流れた頃、遂にオルクスはほんの少しずつですが身体を若返らせる事に成功しました。


 身体の若返るペースは非常に遅く、約十年で身体年齢が一歳分若返るというものでした。オルクスが若返りの目標としていた身体年齢は十五歳前後であり、そこまで若返るには数百年の時間が必要である事が分かりました。そこでオルクスは、自分の身体を長期睡眠状態にし、数百年後、つまり若返りが完了した時に目覚めることにしました。


 身体を長期睡眠する術や睡眠時の結界の研究も終了し、いよいよ若返りの術が実行段階となった頃、ずっとオルクスの事を傍らで見守ってきた幼馴染が息を引き取りました。最期はオルクスに看取られ、穏やかな表情をしていたと言われています。


 幼馴染が亡くなって一ヶ月後、オルクスは若返りの術を実行しました。








 ―――それからおよそ七〇〇年の時間が流れ、オルクスが長い眠りより目覚めたところから、この物語は始まります。

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