プロローグ2
――転生者についての報告から数日。
神様なんて何処にいるか判らない。当然今日も遊んでいるのだろう。
「いつ来るか判んないと、ずっとここにいないと駄目じゃない。――あー、いつも以上に暇なんですけどっ!」
ここにはいない神に向かって愚痴をこぼす。
まあ、そんな事を言ったって何か解決するという訳でもなく、ただ今か今かと転生者を待っているしか出来ない。
仕方ないので、ウィンドウを出し、自分の管理下の生物を観察する。
管理下の生物を観察し、書類にまとめて神に提出するという義務がある。
義務があると言っても、その書類は100年置きに提出すればいいと、非常に期間が長い。それにその他の義務もあってないようなものであり、書類の作成は暇つぶしのような物だ。然程時間をかけないで作成・提出しても問題はないので、暇すぎて死にそうな時は作成し、その結果として月毎に提出する、といった管理者も中にはいる。
現在進行形でそれに当てはまる私は、例に洩れずに書類作成をする。
(へー、こんな生物が出て来たんだ。耳が大きくてふさふさしてそうだなぁ……。ちょっと行ってきて、触ってみたいな……)
しかし、どこかの神によってそれは叶わない。そんな事を嘆いていたって転生者が来たり、あの神が転生者が来る時を教えてくれる訳でもない。むしろ、愚痴を考えてると苛立ってしまって、生産が非効率的になっている気がする。
――もう、考えるの止めよ。
◇◆◇◆◇
ある程度の知能を持った生物は、道徳の概念が発生する。
そのため、同族の中で交友的な関係を持つ事が殆どであり、突然に離れ離れになってしまうと怒ってしまったり、泣いてしまったりして、転生への作業にスムーズに進めなくなる事が結構な数あったので、それの解決策として行われている事がある。
それが、希望者同士の面会である。
勿論、その面会のための準備などでも時間がかかるが、実質最後の顔合わせになるので、多くの人が多くの希望者に会うよう望む。それ故に多くの時間を要する事がある。
それのせいで、転生までの期間に不明瞭な部分が出るので、普通は神から指標としてある程度の期間が知らされるのだが、それがないとなると、すぐ終わるかもしれないそれのために、いつでも対応出来るようにしておく必要がある。
ひじょ~~~~~~~~~に面倒だ。
(今度会ったら一発パンチしてやる……!)
――。暇。
いい加減、この作業も面倒くさくなってきた。
いい加減、愚痴を考えるのも飽きてきた。
「あ~~~~~~(ぱたっ」
糸が切れたように仰向けになる。
近くに光がないこの空間は星が綺麗だ。
この空間の果てまで埋め尽くしている点描が酷く遠く感じる。
実際遠いのだ。距離は違えど、この手を伸ばして届かないほどには。
神はこれを創ったのだ。それも数多と。ルビにバカと付くような神が。
いつもそうだ、宇宙をこう寝転がって観ていると、自然と笑みがこぼれて来る。
――力が抜ける。……もういっそ抜いてしまおう。これもどっかの神のせいだ。
そんな言い訳をしながら、私は宙に身を任せた。
◇◆◇◆◇
――懐かしい夢を見た。
私が、今の管理者じゃなかった頃の、いつか捨てようと、でも大切に箱にしまっていた記憶。
――――。
ある日、ある時、ある場所に、幼い少女がいました。
その子の名前は■■■■と呼ばれていました。
まだ齢が8つも行かない彼女がいつも持ち歩いていたのは、彼女の身体には似合わず、また彼女自身にも似合わない、大きな短銃でした。
彼女が生まれた地域は、法さえ決まっておらず、もはや政治や政府などについては言う事さえも蛇足だ。
生まれる前から窃盗、強盗、薬、そして殺人と、あらゆる犯罪が蔓延っていた世界で、彼女は一体何を信じればいいのか判らなかった。そして、誰も教えてくれなかった。
だから彼女自身は、人類以外の全てを信じた。たとえそれが、人殺しの道具であっても。たとえそれが、他の人類がやっている事と同じであろうと。
――彼女にとってそれは、欲にまみれた人類よりよっぽど信頼でき、命を預けられる程の存在だった。
生きる為、それは仕方がない事だった。
彼女の日常は、殺しに満ちていた。
その意思がなくても、死なないためには必要な事。
16歳になった今は、呼吸をするように人を殺せるようになった。
……慣れだ、この世界で生きるのに慣れただけだ。
頬に付いた血の温もりが感じられないのも、きっと慣れだ。
一滴の涙が頬の血を滲ませる。
滲んだ血を左手で拭い、さっきまで動いていた肉塊が持っているバッグを盗る。そして、後ろにいる、息を切らした女性にそれを渡す。
「あ、ありがとうございます! 助かりました。これに全財産が入っていたので……」
「いえいえ、たまたま通りかかったもので。お役に立てたなら光栄です」
少女は拭い洩らした血が付いた顔に笑みを浮かべた。
その光景を見ていた人達は、彼女を見ながら、それぞれに呟く。
その声を聴くと、どれも例外なく彼女に対する称賛の声だった。
誰一人として彼女を咎める人はいなく、それを不思議に思う人もいなかった。
――それが、彼女が生きて来た日常だった。
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