年明けの異変
「青子最近お前、休み時間どこにいる」
「資料室とかかなあ」
間髪入れず、まるで用意していた回答のように青子は答える。しかしいつもと違って、こちらの目は見ていない。
「資料室『とか』ねぇ…」
本当のところは薄々知っているが、無理に言わせて受験前に信頼関係を壊したくない。
大体、休憩のベルが鳴るや否や、トイレに駆け込みそのまま次の授業開始まで出てこない。
人がいない時は、廊下に並べた机で弁当を食べつつ自習していることもあるが、そこも賑わっていれば弁当までトイレで済ませているようだ。便所飯というやつか。
正直、どうにかしてやりたい気持ちはあるが、あれだけ普段は気軽に人の心に入っていく青子が、ことこの件に関しては沈黙を貫いている。
授業中も、固く唇を引き結んで耐えている様子を見ると、その矜持を出来るだけ尊重してやりたいとも思ってしまう。
まあ、始まりは完全に自業自得なのだが…
青子は立花に夢中でいながら、その前月に仲が良かった佐原とも切れてなかったのだ。
悪気のない二股。
これほど無自覚に周りを傷つける行為もそうない。
青子もまさか、立花と佐原が互いの恋模様を共有するほど仲が良いとは思っていなかったようだ。
青子は心底立花に惚れていたが、自分を好いてくれる佐原へいい顔をし続けることも止められなかった。
ブレーキのない状態の男子が好きな女子にどう及ぶかということについては…詳細な描写こそ省くが、肉体的に佐原と青子は少々進んでしまったらしい。
それが巡り巡って立花も知るところとなる。
本気で好きだった立花とは清い交際だったのだから笑えない。
元々硬派というか、女子に夢を見ていたきらいのある立花は引き返せないくらい冷めてしまい、急に青子から距離を置いた。
青子もすがったようだが完全に手遅れだ。
トラブルは重なるもので、青子の目に余る振る舞いを、クラスの女子が問題視し始めたのもちょうどその頃だった。
誰からともなく流れた噂「あの子、あたしらのことバカにしてるみたいよ」は
受験前のストレスを抱えたクラスであっという間に充満し、あれだけ明るかった青子が、教室で誰とも喋らなくなった。
そうして受験シーズンに突入する。