一日のハジマリ
いらっしゃいませ。
小説を手にとっていただき、誠にありがとうございます。
この世界への入口は、そうタイトルの通り、ココカラハジマル。
さぁさぁお紅茶でも飲みながら、ゆっくりしていって下さい。
物語はまだハジマッタばかりなのですから...
トントントン...
「んー.....」
トントントントン.....
「んんー...」
ドンドンドンドンドン!!!!!
「....何もぉ......」
目を細め見つめたその先に薄っすらと映るそのシルエットには見覚えがある。
手足がすらっと長く伸び、漆黒の燕尾服を身にまとった執事の一人。
寝ぼけている私の手の甲に優しく口付けし、朝が来たことを知らせる。
「...おい...さっさと起きろ姫様...」
「んー...もうちょっと...」
布団に身を埋めゴロリと寝返りをうつ
「...ヵチッ」
時計の秒針が動いたかのような音とともに身体がふわりと宙を舞った。
「ひゃっ!!」
驚いたのも束の間、気づけば私は彼の腕の中で抱えられていた。
「もぉ!毎朝毎朝!貴方が起こしに来るときはいつもこれよ!」
バタバタと脚を動かすもびくともしない
「一度で目覚めねぇ姫様がわりぃんだろう?朝食ができております。さっさと支度をなさって下さい。」
ため息と共に床へ優しく降ろされる
そしてそっと頬へキスをする
これがダヴィとの朝のはじまり---
侍女が身支度を済ませ部屋を出て行く
黄金色の柔らかくしなやかな長い髪を梳く優しい手の持ち主は二人目の執事。
「ん...?姫様今日は機嫌が良さそうですね?」
「んふふ♪だって今日はお兄様が帰ってくる日なのですものっ」
髪を梳く手が少し止まるもまた優しく動き出す
「...そうですね。とびっきり素敵な髪型にさせて頂きますね」
悲しそうな瞳をしているヴィーノに私は気づくことなく自室をあとにした
廊下に出て長い階段を降りると鼻とお腹を刺激するいい香りが漂っている
「おはようございます姫さまぁー!」
ふわっと抱きつく小さな彼はミルキー。
名前のようにふんわり優しい笑顔と、ミルクティーのような甘い色をし、くるりと癖の掛かった髪。
「おはようミルキー、とってもいい香りね。今日の朝食はなにかしら?」
そう、こう見えて彼は我が家で一番の腕を持つ調理人。
腕には沢山の火傷の痕。
料理人の証だ!と鼻の下を擦りながら誇らしげに彼は言う。
「今日は夕食時に兄上様が帰ってきますので、
朝食はシンプルに日本の和食をご用意させていただきましたよ!」
長い廊下をミルキーと歩いていると、ピンク色の悲鳴と共に若い侍女達が部屋から飛び出してきた。
「待ってよ~ジェシカにローズにフェアニーちゃ~~んっ!!」
鼻の下を伸ばしに伸ばした男が逃げる侍女を追いかける。
「ルイス....」
すると、目が合いくるっと向きを変え、気づけば私は抱きかかえられていた。
「姫様~♡あぁ貴方に会えなかった時間、僕の胸は張り裂けそうな苦しみと、寂しさで夜も眠れないよ...」
(たった数時間自室で眠っていただけなのに...)
優しく私を床に降ろし、彼はいつも甘い言葉と華麗に舞ってどこから出てきたかわからないバラの花束をくれる。
「おはようルイス。今日も朝からお盛んなことね。」
「あはは~ヤキモチならもっと焼いて頂いていいんですよ?姫様ったら可愛いなぁもう。」
呆れた顔をしながら彼の前を通り過ぎる
「ねぇひめさま?お魚さんにおもちのお話?」
手をつなぎながら顔を覗き込んでくるミルキー。
「ふふふ。魚でもお餅でもないわよ。ミルキーはホントに料理が好きなのね」
目線を合わせてにっこりと笑い合いながら頭をくしゃくしゃっと撫でる。
楽しく食事を済ませ、忙しい一日がはじまる...
「姫といてってもゆっくりお茶ばかり飲んでいる訳ではないのですよ?」
第一章 終わり