十匹のクジラ
むかしむかし遠くの海に、十匹のクジラが住んでいました。
ある日、東の海であらしにまきこまれ、十匹のクジラは海岸に打ち上げられてしまいました。
それを見た東の国の人々は、「これで十年は食べ物に困らない」と大喜びです。ところがそこに空の上から神様がやってきて、東の人々にこう言いました。
「これこれ。クジラはとっても可愛い生き物だ。食べちゃいけないよ」
神様にそう諭され、仕方なく東の人々は全く可愛げのないクジラ二匹を残し、残りの可愛い八匹は海に返してあげました。こうして、十匹のクジラは八匹になりました。
またある日、北の海でつなみにながされて、八匹のクジラは港に打ち上げられてしまいました。
それを見た北の国の人々は、「これで八年は病人たちに薬が作れる」と大喜びです。ところがそこに空の上から神様がやってきて、北の人々にこう言いました。
「これこれ。クジラはとっても賢い生き物だ。薬にしてはいけないよ」
神様にそう叱られ、仕方なく北の人々はとびきり馬鹿なクジラ二匹を残し、残りの賢い六匹は海に返してあげました。こうして、八匹のクジラは六匹になりました。
またある日、南の海でサメに追いやられ、六匹のクジラは砂浜に打ち上げられてしまいました。
それを見た南の国の人々は、「これで六年は油に困ることはない」と大喜びです。ところがそこに空の上から神様がやってきて、南の人々にこう言いました。
「これこれ。クジラがとっても可哀想じゃないか。油にしてはいけないよ」
神様にそう怒られ、仕方なく南の人々はなかでも立派なクジラ二匹を残し、残りの可哀想な四匹は海に返してあげました。こうして、六匹のクジラは四匹になりました。
またある日、西の海で人間に狙われて、四匹のクジラは岩肌に打ち上げられてしまいました。
それを見た西の国の人々は、「これで四年は食べ物に困らないし、薬も作れるし、油もバッチリだ」と大喜びです。ところがそこに空の上から神様がやってきて、西の人々にこう言いました。
「いい加減にせんか。クジラはみんなと同じこの星の生き物だぞ。返してあげなさい!」
神様にそう怒鳴られ、仕方なく西の人々はすでに事切れていた二匹のクジラと、みんなと同じこの星の生き物ではない神様を残し、残りの二匹は海に返してあげました。こうして、四匹のクジラは二匹になりました。
やがて美しく賢く哀れな二匹は、大きな海でたくさんの子供を産んで、そのうち十匹になりましたとさ。おしまい。