表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それでも君が好き  作者: 紫月旅人
6/11

5

「それは、あんたも悪いと思うわ。」

美里さんの部屋。

一晩中泣いてましたっという顔で現れた私を講義が終わった後、強制的に連行した彼女は、開口一番宣った。

「そう?」

私としては、

終わったこととしてソッとしておいてほしい。

これは時間が解決してくれる事を願う問題であって、感想、意見、助言等々は一切受け付けていないのだ。

「一言、言わせてもらうとね。」

さすが美里さん、ぐいぐい懐に入ってくる。

空気読んで、持ち前の対人スキルをフル活動させて。

「4年以上、Hなしなんて付き合ってるとは言えないわ。

だいたい20代の男なんて、やりたい盛りよ。

それを寸止め、生殺し。

死ねって言ってるのと同じだわ。」

・・・一言じゃないじゃん。

「付き合う前に言ってたし、彼も了承してたし。」

「あんたの事、愛してるからでしょ。

実際、あんた達を見ても、まさかHしてないなんて誰も思わないくらい仲が良かったよね。

でも、桐生誠だよ。

今は、あんた一筋だけど4年前までは手当たり次第に女を喰いまくっていたヤリチンやろうよ?

4年間の禁欲、あんたへの凄まじい執・・・あぁ、愛?が伝わってくるでしょ。」

「私にどうしろと。」

「許してあげたら?」

「無理。」

でも美里さんの言う通りなのかもしれない。

私は、彼に無謀なことを強いていたのかな。

無謀なことと分かっていながら譲れなかった私にも非はあるのかな。

けど、譲れない事だからこそ条件にしたのに。

その事は、彼も理解してくれてると思っていたのに。

私が1歩も引く気がない時点で私達の関係は破綻していたのかもしれない。

「なんで?

なんで、別れちゃったのよぅ。」

彼女の周りには持ち込んだビールやチューハイの缶が散乱している。

あぁ、あそこにあるのは2/3空いている日本酒の一升瓶かな。

泣き上戸の絡み酒コースにいつのまにやら入っていたらしい。

「あんた達見てたら、やっぱり恋愛っていいなって羨ましくてさ。

あんたを見るあいつの目がさ、あんただけってすっごい優しいんだよね。

あんな風に私も誰かに見てもらいたいって何度も思ってた。

私はさ、男見る目なくて騙されるし、知らないうちに浮気相手にされてたけど。

それでも分かったよ。

桐生誠は高坂舞を愛してるってさ。

許してあげなよ。

4年間もHなしで我慢してくれる男なんて、普通いないよ。

そんなに愛してくれる男、探しったってもういないよ。」

私の事で泣きながら叫ぶ美里さんを見ていたら、なんか胃の辺りが熱くなって、その熱が全身に拡がっていく。

あんなに泣いたのに、私の身体はまだ泣き足りないらしい。

「そんな事分かってるよ。

一緒にいて楽しかったり嬉しかったり、幸せにしてくれたよ。

そんな人、きっともういない。

ずっと一緒にいたかったし、これからも一緒だと思ってた。

今さら馬鹿みたいだけど、お嫁さんにしてくれるってちょっと思ってた。

けど、それは私だけの気持ちで彼は違った。」

自分の気持ちを他人に話した事なんてなかったから、急に恥ずかしくなって慌てて涙をぬぐった。

けど、美里さんは机に突っ伏して眠っていた。

ホッとしたような、少し残念なような複雑な思いで辺りを見渡すと、私の周りにも空になったリキュールのボトルが転がっている。

少し酔って口が軽くなっていたようだ。

とはいえ、あれ以来押さえていた思いが一気に出た気がする。

なんだかスッキリした。

美里さんのお陰だろうか。

こうやって1日1日を過ごしていく内に彼の事を思い出さなくなっていけるといい。

今は苦しいし忘れられないけど。


前言撤回。

30分もしないうちに目が覚めた美里さんは、明らかに酔いの覚めていない濁った目を私に向けた。

「っていうか、Hしたくないの?

一緒にいたいって言ったよね。

その気持ちの先にギュッってしたい、キスしたい、Hしたいってのがあるんじゃないの?」

聞いていたのか。

さっきより、ひどい絡み酒。

寝てる隙に帰れば良かった。

「いつも、はぐらかされてきたけど今日は絶対に逃がさないから。

ねぇ、何でよ。

舞はさ、分かってないよ。

自分がどんなにラッキーか。」

「ラッキーじゃないでしょ。

付き合ってた男が他の女と寝てるところを目撃したんだから。

要はさ、私じゃなくても良かったってことでしょ。

私はあいつ以外、誰ともしたく無かったよ。

触られるのも嫌だ。

Hしたかったかって?

したかったよ。

どんどん好きになって、一緒にいたくて、もっともっと深く繋がりたいって思ってた。

だから待ってた。

卒業して自立した生活を送れるようになったら、

もっとずっと一緒にいたい、結婚しようって言ってくれるって。

それどころか、言ってくれないなら自分から言おうって思ってた。

4年間、何もさせなかった女が何言ってるんだって思うよね。

でも、結婚もしないでHするなんて嫌だったし、待っててくれるって信じてた。」

「舞、あんたのそういう気持ち、伝えてた?

伝えてないでしょ。

伝えてたら結末は違ってたと思うよ。」

そうかもしれない。

彼は、よく愛してるって言ってくれてたのに私は・・・。

「言ったことない・・・かも。」

「呆れた。

Hが駄目だって言うんなら、せめて言葉くらい尽くしなさいよ。

それで恋人って言える?

ひどい話ね。」

加害者扱いされてね。

うん、でも、あれ、確かに良くなかったかも。

彼からはたくさん貰ったのに、私は何も伝えていない。

誕生日、クリスマス、お正月、色んなイベントに誘ってくれるのは彼。

電話やメールも、いつも彼から。

私からしたことはない。

1度も。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ