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「誠、とりあえず放して。
ちゃんと話し合おう。」
腰に巻き付いた腕をトントンと叩くと、渋々といった感じで放してくれた。
微かに舌打ちしたような音が聞こえたけれど、ここは聞かなかった事にしよう。
それにしても・・・
「泣いてる?」
涙こそ出てないものの目が充血してるし、目の周りも赤くなってる。
「泣いてない。
ほら、リヴィングに行って。」
背中を押されるままに向かうけど、慌てて服で目を擦ってる彼が目端に映り、思わず笑いそうになるのを咳をして誤魔化す。
それでは、話し合いを。
できれば向かい合って話をしたかったのだけど、なぜか隣に座って、おまけに腰をガッチリとホールドした彼。
そのポジションから頑として退いてくれないので、何とも間抜けな話し合いが始まった。
「まずは私の話を聞いて。」
付き合っていた時に彼の事をどう思っていたのか。
二人の未来について、どう考えていたのか。
浮気を見た時の気持ち。
別れた後、どれくらい彼の事を考えて、何を思っていたのか。
話してみて自分が、いかに彼に何も伝えてこなかったのかが分かる。
それに彼の表情を見て伝える事が、どんなに大切かも実感した。
浮気は今でも許せない。
でも、彼を不安にさせてたことにも気づかず、一緒にいるための努力を怠っていた私にも非はあった。
「浮気をしたことは許せないけど、なんか、ごめんなさい。」
「もう一度言って欲しい。」
「えっと、ごめんなさい?」
「違う。
俺と付き合っていた頃、ずっと一緒にいたいって思ってたって。」
「えーと、うん。」
自分の気持ちを正直に伝えようって決めたから、頑張ろう。
「ずっと一緒にいたいなって思ってたよ?」
疑問系なのは、ご容赦を。
言葉足らずだった女に、正直さをいきなり求めても、なかなか難しいのだ。
あぁ、熱い。
耳とかほっぺたが霜焼けみたいにジンジンしてる。
目を反らして、両手で顔にパタパタしていると、隣に座っていた誠が、いきなり立ち上がって部屋へ駆け込んで行った。
その姿を呆然と見ていたら、今度は凄い勢いで戻ってきた。
彼は目の前で片ひざをついて、白い小箱を差し出した。
「これって・・・」
「高坂舞さん。
もう二度と裏切らないと誓います。
結婚してください。」
差し出された小箱を思わず受け取ってしまう。
これって、プロポーズだよね。
こういうのって箱を開けて指輪を見せながら、してくれるものじゃないのかな。
そして・・・
「どうして、土下座?」
「どうか俺と結婚してください。」
プロポーズに理想とか夢があるわけじゃない。
でも、これってあんまりじゃない。
頭の中で“恐妻”の二文字が浮かぶ。
なぜだろう。
さっきまでの強気は一体、どこへ?
諦めてため息をつくと、小箱を開いてみた。
綺麗な石がついた指輪だった。
「綺麗。
これって婚約指輪?」
「あぁ、実はずっと前に買ってあって、渡すタイミングを見計らっていたんだ。
舞、絶対に二度と他の女を抱いたりしない。
傷つけないし、大切にする。
ずっと待つから。
だから、俺と結婚してくれ。」
土下座のせいか、緊張で力んでいた身体から力みが抜けていく。
裏切った彼が絶対に悪い。
でも、彼が好きだと思いながらも自分の気持ちをたいした理由もなく、伝えてこなかった私もまた悪かったと今なら心から思うことができる。
彼と繋がり続けるためには、思い思われて、思いの丈をちゃんと伝える事が大切な事だと思う。
伝えなくては伝わらない。
そんな当たり前のことが、できていなかった。
伝えていたら、きっと未来は変わっていたと思う。
「大好きです。
あなたとずっと一緒にいたいから、私と結婚してください。」
「は・・・
えっ?
本当に?」
「はい。
よろしくお願いします。
ただ、1つお願いを聞いてくれますか?」




