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プロローグ
プロローグ
荒い息遣いと時折、混じる嬌声。
いたした事のない私でも、それが何をしている音なのか分かる。
でも違うかもしれない。
玄関から廊下、そしてリビングへ。
近づくにつれて音は大きくなっていく。
TVの音かもしれない。
玄関に赤いパンプスがあったけれど。
見たくない。
けれどリビングへ続く扉が、ほんの少し開いている。
誘われるように隙間を覗いた。
悪い予感はいつだって当たる。
左側に、いつも使っているキッチン。
その先にTVとソファ。
ソファには誰も座っていないみたい。
でもソファの奥から絡み合っている男女の足が見える。
浮気ですか。
否、そちらが本命で、此方が浮気ですか。
今となっては、どちらでもいいですけど。
身体中の血がいつもより速く流れてる感覚。
心臓の音が耳奥で聞こえる。
全身がジンジン痺れてきた。
身体は目前で繰り広げられている光景を拒否しようとしてる。
逆に頭は冷静だ。
聞きたいことも言ってやりたいこともある気はするが今は忘れていたい。
もう、ここにはいられない。
床に縫い付けられたかのように動かない足を前に踏み出して私は扉を開けた。