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5 おんぼろ荘のオバケ?

 午後六時、わたしたちおぼろ荘の住人は、管理人部屋の隣の食堂に集まっていました。


 おぼろ荘では、朝昼晩と食堂でご飯がいただけるそうです。


「前野さん。そのかっこうは……?」


 シャワーを浴びてサッパリとした様子の青葉先輩が、メイド服を着ているわたしを不思議そうに見つめています。


「あの……。これは……椿ちゃんが……」


 恥ずかしさのあまり顔がゆでだこのように真っ赤なわたしが小声でそう言うと、


「ああ。そういうことね……」


 と、青葉先輩はうなずきました。気のせいか、同情の目を向けられているような……。


 青葉先輩はとてもカッコイイから、先輩も椿ちゃんの着せ替え人形のターゲットにされたことがあるのかもしれません。


「みんな、お待ちどうさん。今日はハンバーグだよ」


 静子さんが、今夜の晩ご飯を運んで来てくれました。わたしと椿ちゃんは、配膳を手伝います。そこで、わたしはふと疑問に思いました。


 食堂に集まっているのは、わたし、かぐやお姉ちゃん、青葉先輩、静子さん、椿ちゃんしかいません。他のおぼろ荘の住人のみなさんは、どうしているのでしょうか?


 わたしのそんな疑問に答えてくれたのは、静子さんの悲しげなつぶやきでした。


「……ついに、大工の源さんまで出ていっちまったねぇ。これで、おぼろ荘の住人はかぐやちゃん、絵里ちゃん、光くんの三人だけだよ……」


 え? ええーーー!


 た、たった三人!?


「お、おぼろ荘って、そんなにも住人が少なかったんですか?」


 驚きのあまり、わたしがうっかりそう口走ってしまうと、椿ちゃんが「困ったことに、そうなんだよねぇ~」と両手で頬杖をつきながら言いました。


「数年前まではおぼろ荘にも住人がたくさんいたんだよ。でも、近所にできた大きなアパートに住人をとられちゃってさぁ。それに追い打ちをかけるように、『おんぼろ荘にはオバケが出る』っていうウワサまで流れて、残っていた住人たちも逃げ出していったの」


「そ、そのオバケが出るっていうウワサは本当なんですか?」


 わたしが、がくがくぶるぶると震えながらみんなに聞くと、


 かぐやお姉ちゃんは、「わたし、夜は熟睡してるから」

 青葉先輩は、「オレ、そういう非科学的なことは信じないから」

 椿ちゃんは、「あたし、霊感とかゼロなんだよねぇ」

 静子さんは、「あたしが見つけたら、幽霊なんてぶっ飛ばしてやるのになぁ……」


 とのこと。


「でも、実際に怪奇現象みたいなことが起きたから、そういうウワサが立ったんじゃ……?」


「オレは実際に耳にしたことはないが、夜中にカリカリ……カリカリ……という気味の悪い音が、アパートのいたるところで聞こえてくるらしい。あくまでウワサだけれど」


 オバケのウワサなんてたいして気にしていない青葉先輩が教えてくれました。そういうクールなところ、カッコイイ……。


「まあ、何にしろ、オバケのウワサがなくならないかぎり、おぼろ荘で住もうという人間はなかなか現れないだろうねぇ……。


 住人が減ったら、家賃の収入も減る。そのせいで、アパートもどんどんぼろくなっていって、おんぼろ荘なんて言われるようになっちまった。息子と嫁が言っていた通り、このアパートもそろそろお終いなのかねぇ。


 昔、死んだじいさんが言っていたんだ。『わしは、おぼろ荘で暮らしている人たちの笑顔を見るのが好きだ。いろんな夢を持ったいろんな人たちがおぼろ荘で仲良く暮らし、いつか夢を叶えて巣立っていく……。わしはそんな彼らの笑顔と夢を見守るアパートの管理人でいたい』って……。あたしだって、おぼろ荘をなくしたくはないけれど……」


「ばあちゃん……」


 悲しげにつぶやく静子さんの横顔を見て、おばあちゃんっ子の椿ちゃんが涙ぐみました。


 そっか……。このおぼろ荘は、静子さんと、静子さんの亡くなったご主人にとって、とてもとても大切な場所だったんですね……。


 住人たちの笑顔と夢を見守ってくれている、おぼろ荘。


 わたしも、そんな素敵な場所がなくなってしまうのは嫌です!


 それに、わたし、ここに来てまだ一日目ですし! アパートが潰れたら困ります!


「みなさん! 晩ご飯を食べたら、オバケ退治をしましょう!」


 わたしは席をガタリと勢いよく立ち、こぶしをふりあげてさけびました。


 みんな、わたしの特大級の大声に耳がキーンとなり、両耳をおさえています。


 オバケの存在に悩まされてネガティブになっているより、ここはポジティブ・シンキング! オバケのせいで住人が逃げちゃったのなら、オバケを退治しちゃえばいいだけの話! 恐いのを我慢して、オバケ退治といきましょう!


「オバケ退治って、どうやってするの?」


 椿ちゃんがそう聞くと、わたしはキリリとした表情で答えました。


「根性です! みなさん、オバケになんか負けちゃダメです! 前向きに……前のめっていきましょう!」


 おぼろ荘に、わたしの「えい、えい、おーーーっ!」という気合の声がこだましました。



            ☆   ☆   ☆



 その夜、わたしたちは、オバケ退治のために管理人部屋の前に集合しました。


 オバケなんて少しも信じていない青葉先輩ですが、「女の人たちだけで危険なことはさせられない」という理由で、オバケ退治につきあってくれるそうです。やっぱり、先輩は優しい人です。


 ……でも、何だか具合が悪そうで……。


「ぐっ……。お、お腹が痛い……」


 どうやら、先輩が食べた晩ご飯のハンバーグが生焼けだったらしく、お腹を壊してしまったみたいなのです。


「光くん、本当にすまないねぇ。あたし、料理が苦手だから……」


「い、いいえ。お気になさらずに。オレがただ不幸体質なだけですから……」


 椿ちゃんの話によると、おぼろ荘の食堂で出される料理は、昔は静子さんのご主人がつくっていたそうで、静子さんの料理の腕はからっきしだとか。


 ちなみに、わたしが食べたハンバーグは、焼きすぎて黒こげでした……。


「それで、どこからアパートを調査する?」


 かぐやお姉ちゃんが、メモ帳に何ごとかを書きながら、わたしに聞きました。


「お姉ちゃん。そのメモ帳は何ですか?」


「オバケ退治とか、小説のネタになりそうでしょ?」


「ああ、なるほど。さすがはお姉ちゃん。素晴らしい創作意欲ですね!」


「えへへ~」


 わたしがポジティブ・シンキングでほめると、お姉ちゃんはうれしそうに笑いました。


「かぐやさ~ん。このオバケ退治はおぼろ荘の運命がかかっているんだから、もうちょっと真面目になってくださいよぉ~」


 そう注意している椿ちゃんの服装は、巫女服。


 ちなみに、わたしとかぐやお姉ちゃん、静子さんも、椿ちゃんによって同じかっこうを、青葉先輩は神社の神主みたいなかっこうをさせられていました。


「この服装のほうが、よっぽど不真面目だと思うんだが……」


 青葉先輩が、お腹が痛くて真っ青な顔で、冷静にツッコミを入れました。


「悪霊を退治するんだから、それらしいかっこうをするべきじゃないですかぁ。何ごとも形から入れって言うでしょ~?」


 わたしたちが、そんなふうにワイワイと話していた時のことです。突然、


 カリカリ……。カリカリ……。カリカリ……。


 と、どこからともなく、何かがけずられているような、不気味な音が聞こえてきたのです。


「ひっ……! お、オバケ……!?」


 幽霊が苦手なわたしは、ビクッと肩を震わせ、かぐやお姉ちゃんに抱きつきました。


「だ、だだだだだ大丈夫! お、おおおおおお姉ちゃんがついているから……!」


 かぐやお姉ちゃんも小刻みにガタガタと震えています。そういえば、お姉ちゃん、わたしと同じで怪談とかホラー映画が苦手でした……。


「単なるウワサだと思っていたけれど、本当に聞こえてきたな。音は……食堂のほうからしているみたいだ。行ってみよう」


 さすがは男の子というべきか、青葉先輩はほとんど動揺せず、わたしたちの先頭に立って、懐中電灯で暗い廊下を照らしながら歩き始めました。


 い、言いだしっぺのわたしがビビッていたらいけません! いざ、オバケ退治!


 ほっぺたを両手でぺしんぺしんとたたき、自分にカツを入れて、わたしはかぐやお姉ちゃんと手をつなぎながら青葉先輩の後に続きました。すると、背後から、


 ぎぃ……。ぎししぃぃぃ……!


 という、地の底から聞こえてくる悲鳴のような音がして、わたしとお姉ちゃんは、


「ふんぎゃーーーっ!」


 と、抱き合いながら小さくジャンプしました。


「あっ、ごめん。さっきのは、あたしのせい」


 わたしたちの後ろを歩いていた椿ちゃんが、テヘヘと舌を出しながらあやまりました。


「ど、どういうことですか?」


「おぼろ荘の廊下、あっちこっちが傷んでいてさぁ。その傷んでいるところをわたしが踏んじゃって、あんな音が出たの」


 つまり、廊下がきしむ音だったんですね。な、なんだぁ~!


「うっかり強く踏みこむと、床がぬける場合があるから、気をつけておくれ」


 静子さんがそう注意してくれました。わたしが「分かりました」とうなずいた直後、青葉先輩が少し緊張した声でわたしたちに呼びかけました。


「みんな! 食堂に、何かがいる……!」


「え!?」


「ついに現れたね! にっくきオバケ! 覚悟~!」


 オバケのせいでたくさんの住人を失い、オバケに対して恨みつらみがたまっていたのでしょう。静子さんは、木刀(そんなもの、いつの間に持っていたのでしょうか!?)をふりかざし、食堂の中に突撃していきました。しかし、


 シュッ!


 静子さんと入れちがいに、何か白いものが食堂から飛び出し、走り去ってしまったのです。


「何なの、あれ!? 超すばしっこい!」


 椿ちゃんが何だか楽しそうな声でさけびました。椿ちゃんは好奇心旺盛な性格らしく、突然現れた謎の白い物体(?)に興味津々、目をお星様みたいに輝かせています。


「庭のほうに出ていったみたいだ! 追いかけよう!」


 青葉先輩がそう言って走り出し、廊下の床を強く踏みこみました(・・・・・・・・・)。そして、


 先輩は、わたしたちの視界から一瞬で消えましまったのです。


「ゆ、床がぬけたーーーっ!!」


 床下から、青葉先輩の絶叫がしました。


「あ、青葉先輩! 大丈夫ですか!?」


 わたしが心配して呼びかけると、床下の青葉先輩は弱々しい声で返事をしてくれました。


「だ、大丈夫だ。こんな時にオレの不幸体質が発動してしまった……。面目ない」


「そんなに落ちこまないでください、先輩! わたしが必ずオバケを退治して、先輩の仇をとってみせます!」


「うん。オレは自滅したんだけれどな……。とにかく、気をつけるんだぞ」


 走ることをドクターストップされているわたしは、急ぎ足で玄関から庭に出て、さっきの白い物体はどこにいるのかきょろきょろと見回しながら探しました。


「絵里。右足をかばって歩いたりして、まだひざが痛むの?」


 わたしを追いかけて来たかぐやお姉ちゃんが、不安げに聞きました。すると、


「え? 絵里ちゃん、足をケガしているの?」


 と、椿ちゃんまでわたしのことを心配そうに見つめました。


「もうほとんど治ったんですけれど、右足をかばって歩くクセがついちゃって……」


 い、いけません。つい、右足をかばってしまうクセが……。


 どれだけポジティブになっても、ケガをした時の恐怖心はなかなか消えないのです。


「みんな! 何をぼさっとしているんだい! オバケをやっつけるよ! きえーーーっ!」


 わたしたちが立ち止っていると、静子さんがパワフル全開で玄関から踊り出て来て、木刀をふり回しながら、ジャングルのように草木が鬱蒼と生い茂る庭に飛びこみました。


「ぎゃーーーっ! た、助けておくれ~!」


「ば、ばあちゃん!?」


 ジャングルの中に消えた静子さんの悲鳴を聞き、椿ちゃんが先頭となって、わたしたちも草木ぼうぼうの庭の中を分け入ります。


 な、何だか、ゾウさんとかがパオーンと鳴きながら出て来そうな庭ですね……。


「ごぼ、ごぼ……。お、溺れる~! 助けておくれ~!」


 静子さんは、泥沼のように濁った池の中でジタバタと溺れていました。


「ばあちゃん! 落ち着いて! そこ、足が着くでしょ!?」


「え? あれ? わおっ! 本当だ!」


「今、助けるから待っていて」


 椿ちゃんが静子さんの腕をひっぱり、ドロドロの池から静子さんを救い出そうとします。わたしも手伝おうと、池に近寄ったのですが、


「きゃっ! な、何か白いものがわたしの股をくぐりました!」


 毛むくじゃらの謎の物体が、さわさわとわたしの足をなで、かぐやお姉ちゃんがいる方角に走っていったのです!


「お姉ちゃん! そっちに行きました! 捕まえてください!」


 わたしは振り返り、そうさけびました。かぐやお姉ちゃんは、


「ええ!? わ、わたし?」


 と、あたふたとあわてながら、腰をかがめて両手を広げ、自分に向かって走って来るオバケ(?)をキャッチしました。


「やったー! オバケを確保しましたぁ!」


「すごいや、かぐやさん!」


「よくやった! かぐやちゃん! 今月の家賃、タダにしてあげる!」


 わたしたちが口々にかぐやお姉ちゃんをほめると、お姉ちゃんは「ええと~……」と、苦笑しながらオバケ(?)を抱き上げ、こう言ったのです。


「オバケってさ……。この子のことだったみたい」


「ほえ?」


 よく見ると、かぐやお姉ちゃんの腕の中にいるのは、長い耳をぴょこぴょこ、鼻をひくひくさせている、白くて可愛らしい……。


「う、ウサギーーーっ!?」


 だったのです……。

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