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愛は世界を救うby魔王  作者: りぼんず
そして少女は旅に出る
8/8

天へと投げる問い

 「すまぬ、皆よ。失敗した」


 「はっ。しょせん貴様など我らの中で最も最弱。元より期待などしていない。それより問題はこっちだ」


 「そうだ。ーーおい馬鹿ウル、お前何しに行ったんだよ!」


 「こっちは終始見てたんだからな! くっそ羨ましい事してやがって…!」


 卓を囲む彼等の視線は彼等の上に立つ魔王。気持ち悪いぐらいニヤニヤしているウルに向けられている。

 ウルの調子はダンジョンから戻ってからずっとこれだ。理由は分かっている。ダンジョンの中の内容はそこに搭載された魔具で見ていたのだから。


 「ふふっ。流石勇者と言ったところか…。よもや俺の思惑をこうも越えていくとは。ーーアイリかっこ良かったよー!!」


 「そこには同意だけど。アイリちゃんの可愛さには同意だけど! でも、てめー本当に何してたんだよ! 何膝枕なんてしてもらってんだよ!!」


 「ざっけんなよ、糞ウル! お前アイリちゃんと入ったのそれが理由かよ!!」


 「そ、そ、そんな事ねぇよ! あれだよ? ちゃんと最初は何もせず見守るつもりだったよ? でも、思いのか暇だったんだもん!」


 「だもん、じゃねーよ! お前がやっても可愛くねぇんだよ!」


 怒声は止まる事を知らない。卓をバンバンと叩き、誰もがウルへ嫉妬をぶつける。

 そんな妬み恨みの視線をぶつけられたウルは…。


 「ふっ。フハハ、羨ましいかろう、妬ましかろう! だが、これが魔王にのみ許された特権だ!!」


 鼻で笑って。幹部との格の差を示した。その瞬間何かが切れる音が全員から聞こえた。


 「お前と言うやつは! 今日という今日は許さん!! 今日が魔王の最後の日と知れっ!!」


 「上等だ、この糞魔王様がよぉ! てめーなんかアイリちゃんに討たす前に俺が討ってやんよ!!」


 「本当だ、馬鹿野郎! 俺の初めての大役に、アイリちゃんと二人きりで行えたのに…! この怨み思い知るがいい!!」


 「はっ! 嫉妬に狂った馬鹿共が、良いだろう俺自ら躾直してやるっ!…ま、まて! ジョージ、魔法は使うな! ここでそんな事したら駄目だ!!」


 知ったものか。怒り狂った彼等にはそんな自制心はない。大丈夫魔王の城など滅んでも問題ない。今日魔王はここで討たれるのだから。


 各々が極めし力を魔王へとぶつける。だだっ広いこの部屋と言えど彼等にとっては手狭。ましてやその力を振るおうものならものの一分で跡形もなく吹き飛ぶ。


 ーー草木も眠る時間に、他者に分からぬこの場所で、爆音は鳴り響き続けた。


ーーーーーー


 ーー魔王が眠りに着きました。


 それがあの後の結果で、あれだけ魔法をぶつけ続けたのにしぶとく生き伸びた魔王の生命力の高さだった。

 今はもう荒れ果てた部屋の中で、古城と貸した魔王の城のその部屋で、幹部達は自身の椅子をお越し座っていた。


 「全く。魔王様には困ったものよ…」 

 

 ジョージが魔王の代わりとなって、今は議題の主を勤める。その表情には今回の計画が失敗となった憂いがあった。


 アイリが出した決意は彼等にも理解できた。成る程まだ彼女が勇者ではない、故に生死を奪う行為が出来なかった。それは分かる。だが、それは彼等にはして欲しくなかった行為だった。


 「まぁ、正しいと言えば正しいけど。ジェネを討たなかったのは。…でも、その甘えを、その甘えも踏み越えなきゃ行けなかったんだけどね」


 「……区別して欲しくはないな。今は皆と同列な俺を」


 「ヒヒ。それは武人として死にたかった君の願望だろ? 別に私達としては君の生死なんてどうでもいいんだから。結果が全てなんだよ」


 「何だとっ!」


 「やめよ! ジェネもサイも下らぬ事で揉めるな。ジェネよ、主は確かに我が同胞だ。今さらその事に是非は問わん。だが結果は結果だ、それは認めよ!」


 白衣を羽織る軟弱な男と、巌の鉄人はジョージのその言葉を聞いて諍いを止める。それは事実だと二人ともが分かっているから。今さらこの場で言及することではない。


 「第一、魔王様は何も言わなかった。それが答えで、これ以上それを我らが追求する権利はない」


 あの時ウルは何もジェネを責めなかった。求めた結果と違えど、ウルはアイリの決意を認めあの時受け入れたのだ。


 だが、その答えはいつか彼の悲願の足枷となる。アイリの決意は悲願の過程で頓挫する。その可能性を示してもいた。


 ジョージのその言葉に誰も何も言えなくなる。しょせん彼等は魔王の幹部。意見を申せる立場ではあるが、魔王の意見を変える事のできる立場ではない。


 「……で、どうする?」


 誰も何も言わなくなり、静寂が包み始めたこの部屋を切り裂いたのはアルだった。別に彼がいの一番に口を開いた理由はない。ただ、この場で解決しておかなければならないのだ。きっとアルが口を開かなければ違う誰かがこの言葉を言っただろう。


 だが、アルの言葉に誰も答えれない。まだ考えが纏まっていないし、出てもいないのだから。再び静寂になりかけた部屋の中でアルは更に一歩踏み込んだ。どちらにしろ言い出しっぺなのだ、最後まで言葉は繋ぐ責任がある。


 「あのままじゃ、絶対アイリちゃん途中で死んじゃうよ? 分かってるでしょ。彼女には本当に特別な力はないの」


 「分かっておるわ!」


 問われたそれにも誰かが答えなければならない。だから暫定とは言えこの議題を開いたジョージが答えた。その顔に苦渋を浮かべて。


 「そんな事今更言われなくとも分かっておるわ! そんな事を分からぬ程、魔王様も馬鹿ではない!」


 「じゃあ、どうすんだっ!」


 どうするかなんて分かる筈がない。だから今こうやって悩んでいるのだ。

 本当に特別な力があればアイリのあの甘さは貫けるだろう。いつか同じ境遇に立とうとも、その力で解決出来るのだから。けれどアイリにはその甘さを抱いたまま進んでいける力はない。


 アイリの覚悟を蔑ろにする訳ではない。確かにあの場所でまだアイリは勇者じゃなかった。だけど勇者になったとしても、必ずその覚悟を覆せる訳ではない。あの覚悟は美しいが、同時にどうしようもなく儚いものなのだから。


 「どうしようもないじゃろ…」


 力でどうにか解決など真の意味で出来る筈などない。それが彼等には分かっている。それがどうしようも無いことだとウルは解っている。だからアイリに勇者になって世界を悲しみから解放して欲しいのだ。


 力では解決出来ない問題に、どうしても力が必要になる。ましてや甘えを抱いたまま行けるほどアイリは強くない。

 無論絶対にアイリの力では解決出来ない問題も元から在るだろう。しかし、それは陰ながら見守る彼等が解決すればいい。けれどアイリの目の前に立ってしまえば、そこに必要なのは力ではなく覚悟になる。その覚悟がアイリには無いのだ。


 「……もういい。これ以上話しても解決なんか出来ないよ」


 「……」


 「僕らにはどっちにしてもそれを果たせる事なんか出来ないしね。責任は陛下がとるしかないんだし」


 アルはそう言って退席する。自分達で解決する議題では無かったのだ。それが分かっただけでもう十分だった。後の事は魔王に任せるしかない。


 アルを切っ掛けに続々と席を立つ。他の者も同意見なのか、席を立つ際に何か言うことはなかった。


 残ったのは議題を持ち出したジョージと計画を果たさせなかったジェネの二人だけだった。


 「……申し訳ない…! 俺が死ななかった為にっ」


 「よい…。どちらにしろ何時か起こる問題だったのだ。それが早まっただけだ。…そう魔王様も思っているだろう」


 沈痛そうなジェネに対して、ジョージも同じ表情を浮かべる。そうだどっちしろこの問題は出るのだ。それが早かっただけだ。ただ、それが最初の一歩目だっただけなのだ。出て欲しく無いと思っていても。


 「あぁ…。どうしたものか」


 天井を仰ぎ、天へと問いを投げ掛けるが、その答えが出る筈などない。自分達は天に見放された存在なのだから。

 


 

 

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