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「戦 〜黄巾賊 波才〜」

 兵士が呼びに言ってすぐに関羽と張飛がやってきた。


「兄貴! 何か良い策を思いついたのか!?」


 俺は、関羽と張飛の前に諸葛亮を押し出た。


「関羽、張飛。今日からこの子が俺達の軍の軍師だ」


 いきなりのことにさすがの関羽と張飛も驚きを隠せなかった。そして、同時に俺の考えに否定してきた。


「兄貴。なに考えてんだ。こんな子供に軍を任せられるわけないだろう?」

「兄者。私も益徳と同じ意見です」


 二人とも諸葛亮が言った通り、否定をしてきた。こうなることは予想していたので、俺は冷静に二人に向けて言った。


「これは、俺の決定だぞ。今回は諸葛亮に任せる。もしそれが出来ないのなら、俺達にこの戦、勝利はない。それともお前達に、何か必勝の策があるとでも言うのか?」


 関羽も張飛も反論はしなかった。実際に必勝の策が二人にはなかったからである。しかし、心の中で諸葛亮のことを認められない二人は、条件を出してきた。


「兄者がそういうのなら、諸葛亮とやらを一度は信じます。しかし、この戦でもし敗れるようなことがあれば、今後、諸葛亮の命には従いませぬ」


 まぁ、良いだろう。ようは勝て良いのだ。


「よし、決まった。じゃあ、諸葛亮。頼むよ」


 諸葛亮は机の上の地図に置いてある駒を動かし説明を始めた。


「では、まず関将軍は兵一千を率いて敵の前線部隊と交戦して下さい。そして、時期がきましたら、この谷間に逃げて下さい。しかし、相手の兵の中には前回の戦で逃げ延びた兵がいることから、波才に陳言し、一時軍の進行が止まるでしょう。ですが、波才の性格から部下の陳言を聞かずに向かって来るはずです。そして、谷間の上には兵士を潜ませ、波才の軍勢が全て通り過ぎたのち入り口を岩で塞ぎます」


 ん? 入り口だけ? 前回のように閉じ込めてしまった方がいいんじゃないのか? しかし、今回は諸葛亮に全てを任せたんだ。きっと何か考えがあってのことだろう。

 場の空気は先ほどまでより、一層ピリピリして来ていた。


「そして、入り口を塞がれた波才の軍勢は、前回の敗戦の記憶から、指揮が乱れ、急ぎ谷間の道を進むでしょう。ここで張将軍には、谷間の道を出て来た波才の軍勢を五百の兵で攻撃をして頂きます。すると、波才は被害を避けるためこの森へ進路を取るしかなくなります。この森には、僕と木葉様が残りの兵を率いて、波才の軍勢が森に入ったのを確認したのち、森に火を放ちます。関将軍、張将軍は、森に火の手が上がりましたら、全力で波才の軍に攻撃を仕掛けて下さい。関将軍と張将軍なら、ここで波才を討ち取ることが出来るでしょう」


 さすがとしか言い様がない。この短い時間の中で、よくこれだけの策が練れたものだ。さすがは、諸葛亮といった感じだ。


「策は決まった! 関羽! 張飛! 出陣だ!!」


 関羽も張飛もこの時すでに、諸葛亮の中に眠る大きなものを感じ取っていた。





 その日の夜、敵の目に注意しながら、俺、諸葛亮、張飛は部隊を率いてそれぞれの潜伏場所に向かった。

 城に残った関羽は、城壁の上から敵陣をじっと監視していた。やがて月は水平線の彼方に沈み、太陽の光が刻一刻と迫る決戦の時間を示していた。

 関羽は青龍偃月刀を持ち、城門の前に兵を集合させ兵たちを鼓舞した。


「皆! 己が力を信じるのだ! 我らが敗れたら奴等はまた欲の限りを尽くす。我らに負けは許されん!! 死力を尽くして戦うのだ!!」

「応~!!」


 関羽の鼓舞の後、ゆっくりと城門が開かれていった。

 目に映るは黄巾軍一万。なびく黄色の布が風に揺れ、不気味に行進をしていた。まるで地獄への使い達が迎えに来ている様だった。

その軍の一番先頭には、真っ黒な男が一人。とても人間とは思えない姿だった。むしろ獣といった方が表現的には正しいのかもしれない。

 その黄巾軍に向かい関羽は、一歩、また一歩と馬を進めていった。

 そして、関羽軍と黄巾軍の距離が約一里程になった時、空に響く大音声とともに戦の幕は上がった。


「命のいらぬものはかかってこい!! 我こそは、関雲張なり!!!」


 関羽に近づこうとする敵兵は、きらりと太陽の光を浴びて輝く青龍偃月刀の餌食となっていった。関羽が青龍偃月刀を一振りすれば、敵兵がまるで玩具の様に一人、また一人と地面を赤く染めていった。

 関羽軍は、二人、もしくは三人が一つに固まり、波才軍に向かっていた。

 そして、この戦の目的は波才軍をおびき寄せる事。そのため、関羽軍は敵将波才を無視していた。その関羽軍の行動に波才は身を震わせ、怒りを露わにした。


「この雑魚供が!!」


 怒り狂った波才は、一騎で関羽軍の中に突っ込んでいった。


「この腰抜け供の将はどいつだ!! 儂と勝負しろ!!」

「私がこの軍の将だ! その勝負受けてたつ!!」


 波才は目の前の関羽の姿を見た途端、声を上げて笑った。


「が~ははは! 貴様がこの軍の将だと!? 道理で腰抜けが多い訳だ! 命が惜しかったら降伏するんだな。そうすれば毎日可愛がってやるぞ?」


 波才の挑発的な言葉に関羽は冷静だった。この戦を勝利することに全神経を注いでいたからである。


「戯言を言うな!! もし私がお前に負ける様な事があれば、私を好きにするがいい」


 関羽のその言葉に、波才は最初にあった怒りを忘れ、関羽を自分のものにする事で頭が一杯になった。

 そして、そんな波才と一、二合撃ち合った後、関羽は諸葛亮の作戦通り、波才との一騎打ちを中止して、谷間の道に向かった。


「ぐわぁははは! 待て、待てぃ!!」

「は、波才様! お待ち下さい!!」


 制止する部下の声を無視して波才は関羽を追いかけた。そして、その後ろを関羽軍の兵士達が統率を整えながら追いかけていった。

 やがて波才が谷間の道に入ろうという瞬間、必死に後を追ってきた波才軍の兵士が声を上げて波才に言った。


「お、お待ち下さい!! 敵兵の様子が変です!!」


 その言葉に波才は一時馬を止めた。


「何が変だと言うんだ?」

「あれを見て下さい。先ほどまで逃げていた兵士達が、いつの間にか隊列を整えております。それに前回の戦、この場所に敵は罠を張っていました」


 部下の陳言に、波才は大声で笑うと全く無視するように関羽を追いかけていった。


「そんな事でいちいちビビるんじゃねぇ!! あの女、捕らえたら隅々までじっくり味わってやる」

「は、波才様!!」


 波才に続き、後を追ってきた一万の黄巾賊達も谷間の道に突入した。


「関将軍、敵将波才とその軍一万全てが谷の入り口を通過致しました!」

「よし! 合図を送れ!!」


 一人の兵士が赤い旗を高く掲げて左右に振った。

それを見て入り口には岩が落とされた。


「は、波才様!! 谷の入り口が岩によって塞がれました!!」


 周りでこの報告を聞いた兵達に動揺が走り、前回の敗戦を経験している兵は、我先にと谷の出口に向かって走り出した。


「早く行け! 閉じ込められるぞ!!」


 この時、波才は兵の言葉を全く聞かずに、ただ関羽を追いかけていた。

そして、谷間の道を出た所で波才は関羽の姿を見失った。

その後ろでは、谷間の道から早く出ようとする兵が前の兵を押し、前の兵はさらにその前の兵を押して、大混乱状態になっていた。


 ジャーン!! ジャーン!!


 そこに、やっと暴れられるといった感じに、威風堂々と姿を表した張飛が、有無も言わさず、混乱している波才軍に攻撃を仕掛けた。


 「やっと俺様の出番か。行くぞ、お前ら!!」


 これを見た波才は兵達に迎え撃つ様に檄を飛ばすが、兵達が混乱しているのでうまく伝わらなかった。

仕方なく張飛軍と逆にある森の中に逃げ込んだが、兵達の士気は度重なる攻撃で落ち込んでいた。


「ちくしょう! あの野郎、次に会ったらぶっ殺してやる!!」


 森の中を進んでいた波才軍の兵が後ろの方から大声で叫んだ。


 「火攻めだ~!!」


 波才が後ろを振り返ると、真っ赤に燃え上がる炎が波才軍の後方から迫ってきていた。波才は思いっきり馬を飛ばし森の中を駆けた。その後ろを黄巾兵が追った。

そして、逃げ遅れたものは、皆、炎に包まれていった。


「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」

「助けてくれ~!!!」


 炎に包まれていく仲間の悲痛な声を聞きながら、波才は必死で逃げた。黄巾の兵達はすでに生きた心地はなく、とにかく逃げることで精一杯だった。

 一方、森に火の手が上がったのを確認した関羽と張飛は、敗走してくる黄巾軍に向けて突撃した。

すでに戦意を失い、逃げることで頭が一杯の黄巾兵達はなすすべもなく関羽軍と張飛軍の前に屍の山を築いた。


「この時を待ちわびたぞ! 私を侮辱したことの重み、身を持って知るがいい!!」


 波才の前に立ち塞がった関羽は、青龍偃月刀を空高く振り上げ、力一杯波才に振り下ろした。波才は通常の三倍はある刀でそれを受け止めようとするが、関羽の青龍偃月刀は波才の刀ごと波才を真っ二つにしてしまった。


「敵将波才!! この関雲張が討つ取った!!!」


 その言葉を聞いた黄巾賊の兵は、逃げ切れないと思ったのか、その場で足を止め降伏の意思を示した。

 関羽が波才を討ち取った知らせは、すぐに俺や諸葛亮、張飛にも伝達された。


「申し上げます!! 関羽将軍が敵将波才を討ち取りました!!!」


 これで残すは黄巾の残党だけだ。

しかし、ここでも俺は無駄に血を流させたくないという思いから、張飛、関羽に逃げる敵は殺さず捕らえてほしいと伝令を出した。






 そして、戦開始から数刻。俺達は勝利を収めて街に凱旋した。

 捕らえた黄巾の兵は解放してやり、逃げる者もいれば、仲間にしてくれと願い出る者もいた。

そして、俺がここに来て一番気になっているのは、黄巾賊の指揮者、大賢良師 張角の事だ。張角の最後は病での死。そして張角の死で黄巾の乱は静まる。

 そう、俺達が何もしなくても、この黄巾の乱は自然と収まってしまうはずなのだ。だが、俺はこれ程までに大きい反乱を起こした張角という人物に会ってみたいと思うようになっていた。


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