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「天才軍師」

 そして、俺達は一先ず街に凱旋した。

 俺達が凱旋すると、皆笑顔で溢れていた。そう、俺はこんな風に皆が笑えるようになってほしい。そのために戦うしかないんだ。

 俺は改めて決意を固め、すぐに次の戦いに向けての準備を関羽、張飛と共に行った。






 一方、先の戦で逃げ延びた黄巾の兵達は、黄巾の大方(たいほう)波才(はさい)の元に集まっていた。(大方(たいほう)とは、黄巾党内での将軍を意味している)


「お前ら、義勇軍に敗れてのこのこ逃げてきたのか!?」


 波才が逃げ延びてきた部下に背を向け、目の前にある肉を噛み砕きながら言った。その威圧感は、まるで獣の様な匂いをかもし出していた。


「ひぃぃ! お、お許し下さい!」


 必死で命乞いをする兵士に、波才は食べていた肉の骨を投げつけた。骨の先は針のように尖っており、兵士の頭を貫いた。


「おおおぉぉぉ……お許しを!!!」


 その光景を見た兵士達は、皆びくびくと体を震わせ、神に祈るように命乞いをしていた。

 波才は最後の肉を食べ終えると兵士達の前に立ち、空に響くような大音量の声で言った。


「いいか、てめぇら!! 次の戦いでも逃げ出したら、この俺様が直々に噛み殺してやる!!! 死にたくなくば戦え!!! 戦って相手の生を奪い取れ!!!」


 立ち上がった波才の姿はまさに獣そのものだった。

髪はボサボサで、上半身は服を着ておらず、伸びた毛が服の代わりのように体に巻きつき真っ黒くなっていた。そして、その腰には、通常の兵士が持つ3倍はあろう刀をたずさえて、一万はいるであろう黄巾の兵を率いて行軍を始めた。






 初戦を見事な勝利で飾った俺達は、次の戦の準備を急ぎ進めていた。

 関羽と張飛は、それぞれの兵の訓練に時間を割き、俺は近くにいる官軍に援軍を求める書状を送っていた。


「初戦から約一月か……そろそろだな」

「な~に、心配すんなよ。兄貴は俺達が絶対に守ってやるからよ。なっ、姉者!」

「もちろんです。この命に代えてもお守りします」


 俺はそんな関羽、張飛の言葉を頼もしく思いながら、不安でたまらなかった。城壁の上から見える空はあんなに澄み切っているのに、この大地には人々の血が流れ、弱きものが強きものに怯えながら毎日を過ごしている。

 すると、一人の兵士が息を切らしながら、必死に走ってきた。


「ほ、報告致します!! 敵、黄巾賊、城外三里の位置に確認!! その数、約一万!!」

「一万!?」


 予想通り、仲間の敵討ちにやってきたな。しかし、一万はちょっと予想外だ。


「兄貴!!」

「兄者!!」

「関羽、張飛! すぐ出陣の準備を整えてくれ!!」






 関羽と張飛はすぐに兵をまとめ、出陣の準備は整った。

 しかし、問題は前回と同じ兵力の差だ。今回は俺達の兵が、前回の戦いで降伏した兵を入れて約二千。援軍の要請は出しているが、未だに官軍からの返答はない。


「せめて、援軍が来てくれるなら望みはあるが、それが望めない今、俺達だけで何とかするしかない」


 考えても妙案が浮かんでこない。前回と同じ策が相手に通用するとは思えない。それに、前回とは兵の規模が違う。

どうする、どうする……

 俺が悩んでいると一人の兵士がやってきた。


「報告致します! 城外より怪しげな者が近づいて来て、木葉様に会わせろと言っておりますが、如何致しましょう?」

「こんな時に一体誰だ!? 追い返せ!!」


 すると、兵士は言いづらそうに口を数回もごもごしながら言った。


「し、しかし、自分は天に昇る竜を助けに参ったと言って、城門前から動かないのです」

「天に昇る竜? ……わかった、会ってみよう。その人をここに案内してくれ」


 天に昇る竜という言葉に何かを感じ、俺はその人物に会ってみることにした。

 暫くして兵士が一人の青年を連れて戻ってきた。


「君が俺に会いたいって言ってる人?」

「そうだ」

「名前を聞いても言いかな?」


 すると、少年の口からはとんでもない人物の名前が出てきた。


「性は諸葛、名は亮、字を孔明と言います」


 諸葛亮だって!? あの三国志史上天才と言われた軍師が何故ここに? 確か、諸葛亮が劉備の陣営に加わるのは、もっと後のはず。しかし、この少年が本当に諸葛亮ならこの戦に勝機が見えてくる。


「それで、諸葛亮は何をしにこんな所まで来たんだ?」

「そんなの決まってる。僕の学んで来たことを人々の役に立てるためだ」


 諸葛亮は、あどけない少年の外見とは裏腹に、その瞳には強い決意を秘めているようだった。


「わかった。それじゃあ諸葛亮は俺達に力を貸してくれるって言うんだね」

「だからそうだと言ってる!」

「なっ!? 兄者に向かって無礼な!!」

「いいから、いいから」


 俺は心の中で大きく拳を握ってガッツポーズをした。そして、自分の前に広げてある地図を指差して現状を諸葛亮に伝えた。


「……現状はこんなところだ。俺達が圧倒的に不利ってことだ」


 俺の説明を聞いた諸葛亮は、うんうんと相槌を打ちながら、顎に指を当てじっと地図を眺めていた。そして暫く考えた後、一つの答えを導き出した。


「こちらの方が不利って感じだけど、それは圧倒的じゃない。いい? この地図を見て」


 そう言って諸葛亮は地図を指で指した。


「ここの城は、東に谷があり、西には大河がある。敵が攻めてくるとすれば北、もしくは南の二箇所。そして、今回の敵の大将は波才と言う獣です。こちらが智を持って策を練れば、勝利を収めることが出来るでしょう」


 諸葛亮の言葉は、まさに真っ暗になっていた俺の心を光で照らしてくれた。


「よし、すぐに関羽と張飛を呼ぼう!」

「待ってください! 関将軍、張将軍は、多分僕の意見を聞き入れてくれないと思います」

「大丈夫。俺が何とかするよ。誰か! すぐに関羽と張飛を呼んできてくれ!!」


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