「初陣 〜黄巾賊〜」
俺は城壁の上から、相手の陣を見ていた。
さすがに5倍の兵力ともなると圧巻で言葉にならなかった。関羽と張飛はすでに出陣の準備を整えて門の前で出陣の合図を待っていた。俺も関羽と張飛に合流し、馬にまたがった。
「兄者はここで指揮をとって頂ければ大丈夫です。戦闘は私と益徳にお任せ下さい」
「いや、皆が命をかけて戦っている中、俺だけ高みの見物ってわけには行かないよ」
「そうですか」
そう言った俺を見て、関羽と張飛が笑った。そして、正門を開けていよいよ出陣の合図が鳴った。
「関羽隊! 行くぞ!!」
関羽の部隊が出陣をしていった。
黄巾賊も兵を出陣させて、お互い向かい合う形で動きを止めた。
「親分、奴等たった200ばかりの兵で俺達と戦う気ですぜ」
親分と言われた一番前で敵の到着を待っている男が、刀を掲げ、兵たちを鼓舞した。
「野郎ども!! 敵はたった200!! 城に残っている奴等もたかがしれている!! 奪え!! 殺せ!! 我等には、大賢良師 張角様がついている!!」
「応!!」
天に届かんばかりの大音響が響いた。
「突撃!!!」
その光景を見ていた関羽も兵を鼓舞した。
「皆のもの!! 決して一人で敵に向かうな!! 二人一組で戦えば、何も恐れることはない!! 我らには天の使いがついている!!」
「応!!」
「行くぞ!!」
そうしてついに戦いの火蓋は切って落とされた。
「我が名は関羽!! 命のいらぬものはかかって参れ!!!」
大勢の敵に囲まれる中、関羽は自慢の青龍偃月刀を振るった。青龍偃月刀の一振りで敵兵の首が2,3まとめて飛んでいた。しかし、敵兵は関羽を女だと油断して向かって行くため、関羽の周りには無数の死体が転がっていた。
そして、暫く戦い続けた後、関羽は軍全体に退却命令を出した。
「よし! 退却だ!! 退け、退け!!」
その命令と同時に関羽隊は一斉に退却を始めた。それを見た黄巾賊の指揮官は当然がごとく追撃の命令を軍に出した。
退却した関羽隊は、戦前に決めた作戦通り谷間に逃げ込んだ。谷間の上にはすでに何人かの兵を潜ませており、合図と同時に岩を落とすようになっていた。
そうとは知らずに、黄巾賊3千の先鋒が谷間の道に突入した。
「来たな。……まだだ…………よし! 今だ! 合図を送れ!!」
兵が合図を送ると、谷間の上から入り口を出口の二箇所に大きな岩が落とされた。
「しまった!? 敵の罠だ!?」
先鋒の指揮官が気づいた時にはすでに遅く、指揮官と数人の部下以外およそ1500の兵達が谷間に閉じ込められた。
「なんということだ」
その事態に困惑している指揮官と部下の前に、関羽が再び姿を現した。
「貴様が先鋒隊の大将か!? 我が名は関羽!! いざ参る!!」
すれ違い様の一瞬だった。一合もしないまま関羽の青龍偃月刀によって指揮官の首は刎ねられた。周りの部下達は自分達の指揮官の首が刎ねられると、戦意を失い武器を捨てて命ごいをしてきた。
しかし、関羽はその命ごいには耳を貸さず切り捨てた。
「ぎゃぁぁぁぁ…………」
一方この戦況を後ろで見ていた俺と張飛は、敵の先鋒隊が閉じ込められたのを確認すると潜んでいた林の中から飛び出した。
「行くぞ!! 張飛!!」
「おうよ! 兄貴!!」
「頭!! 先鋒隊が谷間の道に閉じ込められちまった」
「何だと!?」
すると続いて報告に来た部下が声を上げた。
「頭!!」
「今度は何だ!?」
「奴等の伏兵だ!!」
「数は!?」
「わからねぇ。でも、旗の数から1000~1500くらいだと思いやす!!」
「1500だと!? ふんっ! 所詮は、戦など知らぬ屑の集まりだ! 数が何だ! 切り殺せ!!」
そう命令を出した時、目の前に一人の女が現れた。
「おう! お前が大将か!?」
「その通りだ!!」
女はにやりと笑い高々と名乗りを上げた。
「我が名は張飛!! その首貰い受ける!!」
「ふん! 女の身で何が出来る! 返り討ちにしてくれるわ!!」
その男がもし張飛の実力を知っていたのなら、正面から受けてたつことはしなかっただろう。しかし、男は張飛の外見に囚われて、正面から向かっていった。
その結果、一合すらも交えることなく、張飛の蛇矛で一突きにされた。
「敵大将、張飛が討ち取ったり!!!」
俺の読みは正しかった。
自分達の指揮官が討ち取られた黄巾賊の兵は戦意を失い、我先にと逃げ出した。
「さぁ! 追撃だ!!」
張飛が追撃を開始しようと命令を出したが、俺はそれを止めた。
「待て! 追撃はなしだ!」
「兄貴! 今が勝機だろ!?」
「いや、相手の兵がいくら烏合の衆だからと言っても、兵の数ではまだ俺達よりも上だ。今回は混乱に乗じて何とかなったが、まともに戦ったら戦いの経験が少ない俺達の方が完全に不利だ。だからここはあいつらを追い返しただけでよしとしよう」
「……わかったよ。兄貴がそういうんなら……」
張飛は俺の言葉を渋々受け入れたが、まだ暴れたりなかった様でブンブンと蛇矛を回していた。