「義勇軍」
俺と関羽は、暫く襲われた街の被害を見て回っていた。そして、その途中で俺は殺された人たち、一人一人に手を合わせながら歩いていた。
「兄者。黄巾賊のやつらはきっとまた、この街を襲ってくるに違いない」
「それは、確かに考えられるな。関羽や張飛が追い払ったことから、きっと次はもっと大人数でくるだろう」
すると、情報収集に行っていた張飛が遠くから手を振ってこちらに走ってきた。
「お~い、姉者! 兄貴! 向こうの酒場に生き残った街の人たちが集まっているらしいぞ」
「それは本当か、益徳!? 兄者。そこで、義勇兵を募ってみては如何でしょうか?」
確かに、黄巾賊の大群と戦うにはこちらも準備をしておかなくてはいけない。特に今の俺達には兵力がまったくと言ってない。これでは、いくら関羽と張飛が強いからと言っても戦うのは無理だ。
「張飛。その酒場に案内してくれ!」
「はいよ! こっちだ!」
張飛に案内されて行った酒場の中に入るとそこには傷ついた人々や、次の襲撃に恐れて俯いている街の人たちの姿があった。
「兄者……」
「あぁ、大分まいってるみたいだな」
重たい雰囲気が店全体を包み込む中、張飛が大声を上げて人々に呼びかけた。
「てめぇら!! こんな所でうじうじしていても黄巾賊の奴等はまた攻めてくる!! 自分達の街を自分達で守るんだ!!」
しかし、張飛の叫びは虚しく店に響き、人々はあちらこちらで、勝てないとか死んだ方がいいなどと、ネガティブな感情を口に出していた。
それを見た張飛が、怒りを表情に出して前に進もうとした。その時、関羽がそれを制した。
「皆の気持ちはよくわかる。我らは幾度となく黄巾賊に街を襲われ、略奪を受けた。我々がどれ程苦しんでいるか朝廷の役人にはわからない。だからこそ、今、我々は自分達で立ち上がり、自分達の大切な物を守らなければならない」
「はっ! 馬鹿か! そんな事しても何にもならない。俺達は殺されるだけだ」
「今を逃したら、機を失う。我々には天がついているのだ」
関羽は俺のことを示した。しかし、当然ながら人々はそれを信じようとはしなかった。
「天だと? 嘘つけ! 食料も何もかも奪われちまって、何が天だ!」
「皆は知らないかもしれないが、都では今この方の噂で持ちきりだ」
関羽がそう言うと、人々の間で本当なのかと、関羽の言っていることを信じようとしている人々が出始めた。
「この方の着ている服を見たことのあるものはいるか!? この方は天からこの乱れた世を沈めに来た使いだ! 恐れることはない! これは、黄巾賊を認めぬ天からの意思! 我らは決して負けはしない! 皆、今こそ立ち上がる時だ!!」
「そうだ。今まで、俺達は散々奴等の顔色を伺って生きてきた。そんな事をしていても朝廷は見てみぬふり。――俺達には天がついてる。黄巾の奴等に仕返ししてやろうぜ!!」
すると、人々の間から先ほどまでの雰囲気は消え、拳を高々と突き上げて声を上げた。
「さすが、関羽の姉者だ。簡単に皆を説き伏せちまった」
俺も張飛と同じように関羽の弁舌に感服していた。なんにせよ、これで少しでも兵力が出来た。後は、黄巾賊の奴等をどう向かえ討つかだ。
それから、俺達は再びやってくるであろう黄巾賊の奴等を迎え撃つための作戦を協議した。
人々は各自武器になりそうなものを持って再集結した。その数、およそ500人。
それから、何日か立ったある日、ついにその日がやってきた。
「兄貴~~!! 黄巾賊の奴等が約10里先(約40km)に陣を張りやがった」
「数は!?」
「およそ3千」
「3千!?」
俺達の6倍もの兵力。正面からぶつかっても負けるのは目に見えている。俺は、関羽と張飛を呼び、作戦を考えた。
俺の知識は全部本で読んだものだ。実践で使えるかわからない。でも、今はそれに頼るしかない。
「兄者。敵の兵力は我らの6倍。正面からぶつかっても数で押されてしまう」
「それは俺も考えていた。そこで今回、俺なりの策を考えてみた。これを見てくれ」
そう言って、俺は机の上に周辺の地図を広げた。
「まず関羽には200の兵をもって、敵の正面から交戦してもらう」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! それじゃあ、姉者が…………」
「大丈夫、まともに戦ってもらうわけじゃない。関羽には少し戦って退いてもらう。そして、そのままこの細い谷間の道に入ってくれ。その後、相手の先鋒隊が谷間に入ったのを確認し、入り口と出口を岩で塞ぎ、閉じ込める。俺と張飛は残り300の兵を率いて、関羽が先鋒を谷間に閉じ込めた後、後方の部隊を叩く。その際に俺の部隊には森の中で多くの旗を持たせ銅鑼や声を上げされる。相手に俺達の兵を多く見せるんだ。張飛は相手が動揺している隙に相手の指揮官を叩いてほしい。やつらは所詮烏合の衆。指揮官をやられれば混乱をして逃げ出すに違いない。――この策の鍵は、張飛、関羽の武力に全てがかかっている。二人とも頼む」
そこまで自分の考えを述べた俺の顔を、関羽と張飛が目を丸くさせて見ていた。
「すげぇ~…………さすが兄貴だ」
「見事な策です。では早速準備にかかります」
関羽と張飛は、それぞれ青龍偃月刀と蛇矛を持ってその場を後にした。
俺は今、心底書物を読んでいて良かったと思う。もし読んでいなければ、俺達は可能性を掴む間もなく全滅していただろう。