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「知略戦 」

「何!? 華雄が打たれただと!?」


 賈クの下にその報が届けられた。その場にいた張遼はその報を聞き華雄の死を受け入れられずにいた。


「呂布、何故……何故、お前がいながら華雄を……」

「止めるんだ、張遼! 呂布には何の責任もない」


 そんなことは張遼自身にもわかっていた。だが、わきあがる感情をどこにぶつけて良いのかわからずにいた。


「チョウ、すまない。私、守れなかった……」


 消えそうな声で言った呂布の頭を張遼がぽんぽんと叩いた。


「わるかった、呂布」


 そう言って、張遼はその場を立ち去った。


「呂布、あいつも辛いんだ」

「……わかってる。私、カーの仇をとる」

「そうだ。それが私達の出来る華雄への手向けだ」


 賈クの言葉に呂布は黙って頷いた。






「伝令!! 敵将華雄将軍が何者かに討ち取られました!!」

「何!?」


 華雄戦死の報は、俺の元にもすぐに届いた。


「木葉様。僕は華雄将軍の戦を見た事があります。関羽将軍、張飛超軍には劣りますが、そこらの将と比べれば一つも二つも飛びぬけた豪傑です。その華雄将軍が打たれるとは、相当な豪傑に違いありません」


 諸葛亮の言うことはもっともだ。


「……でも、華雄将軍を討ち取ったって事は、そいつらは俺達の仲間なのか?」

「いや、そうとも限りません」

「どうしてだ?」

「僕が見た限り、連合軍の中で関羽将軍、張飛将軍に並ぶ豪傑は、僕らの軍にはいませんでした」

「だったら、誰だって言うんだ?」


 そこで話しは元に戻ってしまった。


「確かな事は言えませんが、馬騰将軍、公孫瓚将軍を襲った者達の可能性もあります」


 諸葛亮がそう言った時、扉の近くで人が倒れる音が響き渡った。


「な、何だ!?」


 急いで駆け寄るとその武将の顔に俺は見覚えがあった。


「す、すみません…………木葉殿は……どちらに……」

「俺ならここにいる」


 俺がそう言うと武将はじっと俺の顔を見た後、慌てて後ずさり片膝を地面につけ頭を下げた。


「ぶ、無礼を致しました! この度、木葉様の軍に加えて頂きたくお願いに参りました!」

「仕官をしたいってこと? それはわかったけど、君はひどい怪我をしている。早く治療しないと……」


 俺がそう言って武将の手を引こうとした時、後ろから関羽が驚いたようにその武将に近づいていった。


「馬超……? 馬超殿ではありませんか!? そのお姿いったいどうしたのです!?」

「か……関羽将軍……」


 馬超が関羽の顔を見ると、とたんに大粒の涙を流し始めた。


「……くっ……わ、私が……私がついていながら……父上を……父上を…………」

「貴殿の父君の事は伺っています。ですが、あまり悲しむと身体に良くありませんよ」


 関羽の言葉を聞いた馬超は俯いた顔を勢いよく上げて、精一杯腹に力を入れていった。


「私は父の敵を討つため、この身を粉にして働きます! どうか木葉様の一兵として、軍にお加え下さい!!」


 そう言うと、馬超は気を失ってしまった。


「馬超!?」

「すぐに医者を呼んでくれ!!」






「ふぁ~~……」


 俺は大きくあくびをしながら、月明かりが照らす廊下を歩いていた。


「……ん? あれは…………」


 ふと目に飛び込んで来たのは、一人の武将の姿だった。


「馬超か…………?」

「え!? こ、木葉……様……」


 突然声を掛けられた馬超は、その相手が俺だとわかると慌てて振り返り頭を下げた。


「あ、うぅ……こ、この度はご迷惑をお掛けしました!」

「あ~、良いよ。別にお礼なんて。それに俺はどうも皆に頭を下げれるのは慣れないんだ。それより身体の方は大丈夫?」

「はい。この程度の傷、問題ありません」

「そっか、よかった」


 二人はしばらく夜空を照らす月を見上げていた。


「……あ、あの……し、士官の件なのですが……」


(そう言えば、そうだった)


「うん。馬超みたい強い人は大歓迎だよ。これからよろしく」


 あっさりと士官を許された馬超は、じっと俺の表情を見た。


「……い、いいのか……?」

「だから、良いって言ってるじゃない」

「私の目的は私念だ。父の敵を討つ為なら貴方達を裏切るかもしれない」

「うん。構わないよ。馬超がそうしたいなら、そうすればいい。誰にだって目的や夢がある。それがあるから強く生きていける。だから、馬超は馬超でいいよ」

「……ふ、ふふふ」


 馬超は驚いた表情を見せた後、小さく笑った。


「……面白い方だ。――気に入りました。この馬猛起、只今より身命を持って貴方をお守り致します!」

「ありがとう。じゃあ、改めてよろしく、馬超」






 次の日。木葉は巳水関攻略のため、各将軍達を集め、軍儀を行った。


「さてと、皆を呼んだのは、巳水関への攻撃についてなんだけど…………諸葛亮」

「はい」


 諸葛亮は一礼をして話を始めた。


「巳水関攻略について、華雄将軍がいなくなった事により、我々が優勢になっている事は確かです。しかし、関羽将軍、張飛将軍、馬超将軍の三人と互角に戦った豪傑呂布と知略に長けた賈貢は健在。この二人を相手にするには、我が軍の被害も相応な覚悟をしなければいけません。そこで、先ずはこの二人を引き離します」

「引き離すって、巳水関を守る要の武将をどうやって…………」


 諸葛亮は机に拡げられた地図を指でなぞった。


「現在、敵の兵力は巳水関に集中しております。このまま正面から攻めても巳水関を落とす事は難しい。しかし、こちらならどうでしょうか?」


 そう言って諸葛亮が指をさしたのは、巳水関と同様に堅固な関、虎牢関だった。


「巳水関に兵力が集まっている中、こちらの守りは手薄になっているでしょう。そこで我が軍が虎牢関に兵を向けたとあれば、敵は兵力を割かなければいけなくなります」

「ちょっと待ってくれ! どうして敵が兵を割くって言い切れるんだ?」


 俺は諸葛亮の話の間に割り込み聞いた。


「簡単な事です。虎牢関と巳水関は敵にとって守りの要。もしこれの一方でも落とされれば、周りを囲まれ、物資の補給を断たれ、死を待つ以外に無くなるからです」

「なるほど。話の途中で悪かった。続けて」


 そう言うと、諸葛亮は一礼をし話を再開した。


「先ずは張飛将軍」

「オウッ!」

「張飛将軍は、兵二千を率いて虎牢関を攻撃して下さい。しかし、戦いの戦況がよくなければ無理に攻撃は避けてください」

「わかった」

「次に関羽将軍」

「ハッ!」

「関羽将軍には、やはり兵二千を率いて頂き、巳水関の側に伏して、敵が虎牢関に救援に行こうと関の外に出ましたら、これを急襲して下さい」

「承知した」

「そして馬超将軍には、木葉様の本隊に加わって頂き、その武勇を奮ってもらいます」

「わかりました」


 諸葛亮は話を終えると一歩下がった。

 そして諸葛亮と入れ違う形で、俺は一歩前に出た。


「策は決まった。各自準備が整い次第、出陣してくれ!」

「ハッ!」






「賈ク!!」


 勢いを緩めず、張遼は賈クの部屋に飛び込んだ。


「張遼? 一体どうしたのだ?」

「はぁ、はぁ…………連合軍の奴等が虎牢関に兵を向けた」

「虎牢関にだと?」

「巳水関に兵を集めているから、虎牢関の守りは薄くなっている。急いで救援に!」


 報告を終えた張遼は出陣の準備をするため部屋を後にしようとしたが、賈クは張遼を引き止めた。


「待て、張遼!」

「なんだ? 早く救援に行かないと、そう長くは保たないぞ!」

「落ち着け! 敵の狙いはこの巳水関だ。我々が兵力を割いた時を狙っているのだ」

「だが、いくら巳水関を守ったって、虎牢関が落ちれば同じだ」

「張遼の言う通りだ。だからこそ、闇雲に動くのではなく、策を持って動くのだ。――張遼。すぐに呂布を呼んでくれ!」

「わかった!」






 張遼はすぐに呂布を賈クの部屋に連れてきた。


「張遼、呂布。時間は一刻を要する。早速、始める。敵は巳水関の守りが堅いと見るや、守りが手薄になっている虎牢関を狙ってきた。巳水関、虎牢関のどちらが落ちても我々の勝利はなくなる」


 賈クは机の上に地図を拡げ、それを囲む様に張遼と呂布は近付いた。


「先ずは張遼が兵一万を率い、先行して虎牢関の救援に向かってくれ。勝っても深追いはせず、虎牢関を守る事を第一とするんだ。そして呂布……」


 賈クの話の途中で、一人の兵士が慌てて部屋に入ってきて息も整えないまま報告をした。


「ほ、報告致します! 只今、巳水関前方の茂みに敵伏兵を発見! 数、およそ二千!!」

「何、伏兵だと!?」

「ハッ! 物見の者が何かが動いたのを見たとの事で調べましたところ、敵の伏兵にございました!」


 想像以上の敵の行動の速さに、賈クは再度頭の中を整理し、状況を冷静に分析した。


「…………そうか。敵の狙いは巳水関だけにあらず、また、虎牢関だけにもあらず、二つの関を一度に落とす事」

「どう言う事だ、賈ク?」

「張遼。今、敵の策が完全に読めた。虎牢関への攻撃は我らの兵力を割くため。しかし本当の目的は、我らを関から出し殲滅する事だ。伏兵もそのための配置だろう」


 賈クの言葉を聞いた張遼は今までよりも鋭い目付きで言った。


「なら、どうする?」

「敵の策が読めれば、あとは裏をかくのみ。先ずは呂布」

「……ん……」

「呂布には一万五千の兵を率いて、虎牢関の救援に向かってもらう。呂布の武勇があれば、そう簡単に落ちる事はないだろうが、十分に注意をするのだぞ」

「……わかった……」

「次に張遼には一万の兵を率いてもらい、巳水関の側にいる伏兵にあたってもらう。そして伏兵の殲滅後、すぐに敵本隊に向かい、攻撃をしてくれ。私も同時に一軍を率いて攻撃をする。予想外の攻撃のため、敵の戦意は落ちているはずだ。ここで敵を一掃した後、私達も虎牢関に向かい残りの兵を一掃すれば、我らの勝利だ」

「よし! 呂布、出陣の準備だ!」


 そう言って、張遼は意気揚々と出陣の仕度のため、部屋を出ていった。


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