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「戦 〜 散りゆく者 〜 」

 賈ク達に情報が入った時刻と同じ時、木葉の下にも同じ様に情報が入ってきていた。


「何だって!? それじゃあ…………」


 守れなかった事への無念から俺は肩を落とした。

 そんな俺とは対照的に、諸葛亮は表情を強張らせた。


「木葉様。今回の件、捨て置けません。聞けば相手は三人。その様な者達に戦場をかき乱されては、使う策も限られてしまいます」


 諸葛亮の言葉に俺は気を引き締め直した。


「そうだった。俺達は今、戦をしているんだ。そして、俺は皆の命を預かっている。――何かそいつらについての情報はないのか?」

「それが、三人の内、一人は長い髭を生やしていると」

「情報はそれだけか…………」


 この時、想像出来ない出来事が既に起きようとしている事を誰も知らなかった。






「はっはっは!! 大量、大量!!」


 身長が2mはあろう大男は、先ほど打ち取った、馬騰、公孫瓚の首を持ち、ご機嫌な様子で馬に跨がっていた。


「たまたま、大将首だっただけだろう」


 その隣りを同じ様に馬に跨がり、立派な髭を生やした大男に負けず劣らずの体格をした男が、なだめるように言った。


「何だよ? あっ!? もしかして、悔しいのか?」

「何言ってんだ。そもそも、お前と競ってなどいない!」

「二人とも止めろ!!」


 他の二人に比べれば体格は劣るが、その雰囲気からはどこか気品が感じられ、二人を取りまとめる将の様だった。


「次の獲物だ」


 そう言って指をさした先には、要塞、巳水関があった。


「巳水関か……いいねぇ~、あそこには、大将首がたくさんいるんだよな!!」

「ちょうどいい、腕試しだな。先ほどの軍は、手応えがなさすぎたからな」

「さて、じゃあ早速行くぞ。続け!!」


 三人は一斉に巳水関に向けて馬を走らせた。






「ええ~い! まだ敵を倒せないのか!?」


 連合軍の大将として後軍から見ていた袁紹は、なかなか決着のつかない事に腹を立てていた。

 そこへ、大斧を片手に顔良がやってきた。


「袁紹様! 情けない先鋒の変わりに私が言って攻め落として参りましょう!」


 自信たっぷりに言った顔良の言葉に、袁紹は表情を戻して指示を出した。


「おぉ、顔良。頼もしい。よし! おぬしに任せる。行って参れ!」

「ありがとうございます。この顔良、必ずや敵将の首を袁紹様の前にお持ち致しましょう!」


 顔良は深く頭を下げた後、踵を返し、意気揚々とその場から立ち去ろうとした時、袁紹が背中越しに顔良に言った。


「顔良。ついでにあの木葉とか言う奴も連れて行け。弓避けくらいにはなるだろうからな。はっはっはっ!!」

「はっ。かしこまりました」






「皆、準備はいいか?」


 俺は戦の準備を整え、周りの者に言った。


「兄者。私は今回の出陣には不満です」


 準備を整えた関羽が俺の側まで来て、他の兵に聞こえないように言った。


「関羽将軍、それについては僕も不満はあります。しかし、総大将の命令です。逆らえば僕達が逆賊として討伐されてしまいます。ここは出陣するほかしかたありません」

「そんな事はわかっている。わかっているが…………」


 どうも関羽はこの戦に関しては、集中力を欠いているようだった。


「関羽、もし嫌だったら来なくてもいいんだぞ? 張飛も諸葛亮もいるからな」

「何を言っているのです! 兄者の命は私が死んでも守ります!」

「ありがとう。でも死ぬのは無しだ」


 俺は笑って関羽に言葉を返した。

しかし、俺自身も今回の戦は正直嫌なものであった。自分達が先行して巳水関に向かうという事は、弾除けになれと言われているようなものだった。後ろからは別の軍が来ているため引き返すことも出来ない。

 だが、俺もこの戦いで自分について来てくれている者達を死なせたくは無かった。






 その頃、巳水関に入り、籠城の準備をしていた賈クの下に緊急の報が入って来た。


「敵の軍は一万か……」


 賈クの下に入って来たのは、敵の軍が攻めて来たといった報だった。


「華雄将軍に伝えよ! 華雄将軍は兵一万を率いて応戦。今回は兵の士気を高めるため、城外にて応戦せよと!」


 それを聞いた兵士は、すぐににその場を立ち去った。






「華雄将軍、その格好は出陣ですか?」


 華雄は重厚な鎧に身を包み、愛用の武器を手に持っていた。


「おぅ! 張遼か! 敵兵一万が攻めて来たらしい。初戦に勝って、兵達の士気を上げよと軍師からの命があった」


(賈クから?)


「そうか。死ぬなよ」

「はっはっは! 心配はいらん。今回は呂布も一緒だ。帰ったら、俺の武功を肴に酒を飲もう!」


 華雄の言葉と武芸に秀でた呂布が一緒と聞いた張遼は、少し安堵の表情を浮かべながら返した。


「楽しみにしていますよ」






 巳水関に入る吊り橋が降り、華雄、呂布を初めとする、兵一万が城外に出て敵との戦闘に備えていた。


「カー、これから来る敵は強いのか?」

「強いぞ。だから気を抜くなよ」


 そう言って、華雄は呂布の頭をくしゃくしゃと撫でた。


「カーのいたい…………」

「はっはっはっ、そう言うな! 戦場の中、いつ死ぬかもわからん身だ。だが、まだ死ぬ気はないがな。さて、行くか」


 華雄は自らの武器を上げて兵達に合図をした。


「皆の者、出発だ! 我らの武勇を示してやろう!」

「……カーは私が守ってあげる」


 その瞬間だった。先頭の華雄目掛けて一本の矢が放たれた。


「カー!!」

「これは!?」


 呂布は矢を叩き落とし、放たれた矢の先に視線を送った。






「ひょー!? あのお譲ちゃん、俺の弓を弾いちまったぜ!? ありゃあ、今までの奴より楽しめそうだな!」


 馬に跨った大男は弓を納め、愛用の武器を手に取った。

それに合わせ、他の二人も同じ様に武器を手に取り、馬の腹を踵で蹴って一万の軍勢の中に三騎で突撃をしていった。






「なんだ、あの者達は!?」


 華雄も呂布の視線を追い、三人の男達を見つけた。そして、三人の男達は驚くことに、たった三人で一万の兵に戦いを挑んできた。


「……カー、来た」

「全軍、戦闘準備!! 三人だからと言って油断するな!! 行くぞ!!」


 一万対三人の誰が見ても明らかな戦いが火蓋を切った。






「きたきた!! 行くぜ!! おぉぉぉぉりゃゃゃゃ!!」


 大男は愛用の武器、蛇茅を振るった。その音は、全ての風を巻き上げ、兵士の鎧など関係無しとでも言うように、鎧ごと叩き潰していた。


「さすが、大軍相手だと戦いも面白いな!!」


 そのすぐ側では、立派な顎鬚(あごひげ)を生やした大男が、自慢の武器、偃月刀を振るっていた。その男の攻撃も、兵士の鎧など関係無しに、鎧ごと真っ二つに切り裂いていった。


「あまりはしゃぎすぎるなよ!! また、兄者に怒られるぞ!!」

「大丈夫、大丈夫!! 敵将の首を取れば問題ないって!!」


 そんな会話をしている内にも、二人の周りには次々と兵士の死体が積みあがっていった。


「お~い、兄貴!! 敵の大将はいたか!?」

「そんなものしらねぇよ!! 自分で探せ!!」

「へいへい……あらよっと!!」


 ぐしゃ!! っと、耳障りな音が響く。地面はまるで人の生き血をすすっている様に赤く、赤く、色を染めていった。


「お前ら、そこまでだ!! 我らを董卓様の軍と知っての事か!?」


 兵士達の後ろから立派な鎧を来た将が馬を進めてきた。


「おっ!? やっぱり、あんたがこの軍の大将か!! それにそのちっちゃいのは、なかなかやるみたいだな?」

「ぬぅぅ……、貴様、俺と一騎打ちをしろ!!」

「あんたと? 構わないよ」


 大男は一騎打ちの申し出を受けると、向かい側に馬を移動させた。


「我が名は、華雄!! いざ尋常に勝負!!」


 響き渡る金属音。幾重となく、交わる二人の武器。

 しかし、大男の方が力で勝っていたのか、華雄はだんだんと防戦をしいられていった。


「どうした、どうした!? もう終わりか!? こんな実力で一軍の将を名乗るなんざ、一万年はえぇんだよ!!」


 華雄の武器が弾き飛ばされ、大男の蛇茅が華雄の首目掛けて唸りを上げた。

 だが、大男の蛇茅は華雄の首に届く前に止められた。


「呂布?」

「……お前の相手、私がする」

「へぇ~、この男の変わりにお譲ちゃんが俺の相手をするだって? おもしれぇ、泣いてもしらねえからな!!」


 大男と呂布の激しい打ち合いが始まった。


「結構やるじゃねぇか。あの男より楽しめそうだ!!」


 何十合も打ち合う中で、次第に武力で勝るものなしと言われた呂布の攻撃が大男を押し始めた。


「おっ? おっ? おっ?」


 すると、大男は呂布との打ち合いを止め、一度、距離を取った。


「本当にやるじゃねぇか。ここまで俺が押されたのは初めてだ」


 その時、後ろで戦っていた二人も大男に合流してきた。


「なんだ、まだ決着をつけていないのか?」

「うるせぇ! あのお譲ちゃん、見かけによらず結構やるんだよ!!」

「ほぅ、それは面白そうだ。どれ、俺にも一勝負やらせろ」

「あっ!? 待てよ! 今は俺との勝負の最中だぜ!?」


 仲間の言葉などお構い無しに、髭の大男は呂布に突進してきた。


「ほぅ、これは本当にいい腕をしている」


 何合か打ち合った後、髭の大男は一旦下がった。


「さて、どうする、兄貴? 大将首は目の前に二つだぜ?」


 髭の大男はリーダー格の男に話しかけた。


「そうだな。お前達が手こずる姿を久しぶりに見れたのは楽しかったが、大将首を持ち帰らないのはまずいな。この際、贅沢を言わず一つだけ持ち帰るか」


 そう言ったリーダー格の男の視線は華雄に向けられた。


「なぁ、あいつはどうだった? 俺一人でもやれそうか?」

「あぁ、俺が痛めつけといたから、兄貴一人で十分だ」

「そうか。なら、お前達はあのちっこい奴を足止めしておけ」

「わかった!!」


 そして、三人の男達は一斉に馬を走らせた。大男二人の振るった武器を呂布は受け止め、その横をリーダー各の男が通り抜けていった。


「あっ!? カー!!」


 呂布は男達の狙いに気づき、すぐに通り抜けた男を追おうとしたが、その前に二人の大男が立ちふさがった。


「おっと、ここから先は行かせねぇぜ!!」

「…………じゃま……どけぇぇぇ!!」






 その頃、呂布の横を通り抜けた男は華雄の姿を見つけ剣を抜いていた。


「その首、もらった!!」

「ま、まだ、この首をやるわけにはいかん」


 ぎりぎりのところで、華雄は自らの腰にある剣を抜き、男の攻撃を防いだ。


「まだ、そんな力があったか。だがいつまで持つかな?」


 先ほどの大男との一騎打ちで、華雄の手は既に剣を握ることもままならないほど痺れていた。次の攻撃は間違いなく防ぎきれない事はわかっていたが、プライドが引くことを許さないでいた。


「カーーー!!」

「呂布!?」


 その時、華雄に向けて剣を構える男の後ろから呂布が駆けつけてきた。

 しかし、呂布の後ろからは大男二人が呂布を追って来ていた。


「カー、頑張れ!! 今、行く!!」


 懸命にかけてくる呂布の姿が華雄の瞳に強く映った。それと同時に、後ろから呂布を狙うように弓を引く大男の姿も飛び込んできた。


「呂布!! 後ろだ!!」


 華雄は叫ぶと同時に馬を走らせた。


「勝負の最中にどこを見ている!? その首もらった!!」


 華雄の首目掛けて振り下ろされた男の剣を、華雄は自らの右腕を犠牲にしてそのまま男の横を通り抜けた。


「呂布!!」

「…………カー?」


 呂布は華雄の事で頭が一杯になり、自分を狙う矢の存在に全く気づいていなかったため、華雄が必死に向かってくる理由もわからなかった。

 華雄は自分の馬を捨て、呂布の後ろに飛び乗った。そして、呂布の身体を覆うように覆いかぶさった。

 その瞬間、華雄の身体を通じ呂布に鈍い振動が伝わった。


「ぐぅぅ……」

「……カー?」


 そして、華雄の身体は馬から転げ落ちていった。


「カー!?」


 呂布は慌てて馬を降り、華雄の側に駆け寄った。


「カー! カー!!」

「……ざ、残念だ……お前達と一緒にもっともっと、戦場を駆け巡りたかった…………」


 そう言って、華雄は震える手で呂布の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。


「……俺の子もお前と一緒くらいの年だった…………呂布、お前は生きろよ……死ぬんじゃ……ない……」

「カーー!!」

「――!?」


 華雄は抱きつこうとした呂布を突き飛ばした。

そして、次に呂布が華雄の姿を見た時、何かを掴もうと伸ばされた華雄の手と痙攣をする身体があった。


「よっと! これで大将首、一つ頂き」


 男は華雄の首を手に取ると呂布を無視するように、引き上げて行こうとした。

「…………待て…………カーを、どこに連れて行く?」

「あーー? どこにって、決まってんだろ? 晒すか、俺達の名を上げるための道具になってもらうのよ」


 その言葉を聞いた呂布は、方天画戟を持って男に襲い掛かった。

 しかし、方天画戟の刃は男に届かず、二人の大男によって止められてしまった。


「どけぇぇ!!」

「ふんっ!!」


 感情に任せた攻撃では、いくら呂布と言え二人の達人相手に敵うわけもなく尻餅をつかされた。


「何をやっている。二人とも、行くぞ」

「わかったよ」

「ま、待て!! お前ら、名前、教えろ」


 呂布の言葉に男達は馬を止め、振り返った。


「俺か? 俺は、劉備、字を玄徳」

「俺は兄貴の義兄弟(おとうと)で、張飛、字を益徳だ」


 リーダー各の男に続いて、大男が名を名乗った。そして最後に、髭を生やした大男が名を口にした。


「俺の名は、関羽、字を雲長」


 三人は名を名乗るとそのまま歩き始めた。


「私は呂布! 呂布奉先だ!! 絶対にお前らを許さない。許さないからな!!」


 そう言った呂布の言葉は、三人の背中越しに響いていた。


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