「戦 〜 謎の参戦者 〜 」
「敵が退却していく? まさか、後陣で何か起こったのか?」
「いずれにせよ、今が好機。今まで、やられた借りを返す時!」
先鋒軍の馬騰、公孫さんは、敵が引き上げていく様子を好機と見て、全軍に追撃の命を出した。
しかし、関羽達に追いついた俺はこの状況を見て、諸葛亮が言っていた事を思い出した。
だが、止めようにも、既に動き始めてしまった軍を止めるのは容易ではなかった。
「木葉様!」
「諸葛亮!? 無事だったか!?」
敵が引いた事で動けるようになった諸葛亮が、兵を率いてやってきた。
「私の事よりも今は馬騰将軍、公孫さん将軍の追撃を止めなければ!」
「だけど、今から止めても敵の軍は巳水関に入るのを阻止できないぞ」
「いいえ、まだ、間に合います。巳水関の周りは山に囲まれ、補給路も限られてしまいます。そこを敵に抑えられれば、我らはもう手を出せなくなります。しかし、この場所でしたら補給路も確保できる」
諸葛亮の言う事は理解できる。でも、既に馬騰も公孫さんも追撃の命を出している。俺の軍じゃないのに止められるわけが無い。
「まだ、諦めるのは早いですよ」
そう言った諸葛亮の一言が、俺の中に光を作り出した。
「この様な事が起こった時の為、巳水関の細い道に入る前に伏兵を潜ませてあります。彼らには、敵軍を見逃し、味方の軍の進行を止めるように言ってあります」
「本当か!? それなら、そいつらに任せるしかないな」
「張僚、止まるんだ!」
全軍退却している中、賈クが張僚に、突然、止まるように言った。
「――っと!? なんだ? どうしたんだ、賈ク?」
「静か過ぎます。私が諸葛亮の立場なら、この辺りに伏兵……!? すぐに周囲を探るんだ! もしかしたら、伏兵が潜んでいるかもしれない。いや、潜んでいるはずだ!」
賈クはそう言い、兵士達に辺りを探らせ始めた。賈クのそんな様子に張僚は心配し過ぎではないかと思ったが、黙って賈クを信じ、見守っていた。
暫くすると、捜索に行った兵士が戻ってきた。
「申上げます! この先、巳水関に行く細い山道にて、敵の伏兵を発見! その数、およそ500!」
「やはり伏兵を隠していたか。しかし、500では我らを足止めするには少な過ぎる。あの諸葛亮がその様な策をたてるはずは…………」
すると、今度は後方から兵士が声を張り上げ走ってきた。
「報告!! 敵の追軍が後方に迫っております!!」
「来たか…………!? なるほどな」
何を思ったのか、賈クは一人、納得した様に頷いていた。
「どうしたんだ、賈ク?」
「諸葛亮の狙いがわかったんだ。伏兵は我らを攻撃するためのものではなく、味方が巳水関までの細道に入るのを阻止するためのものだ。細道に入れば補給路は限られるからな」
「なるほどな。なら、こちらから伏兵に攻撃をするか?」
賈クは顎に指を置き、策を考えていた。
「いや、こちらから攻撃をして排除するのは簡単だ。今回は奴等を利用しよう」
賈クは各将軍達に指示を飛ばした。
「まだか!? まだ、奴等に追いつかないのか!?」
追撃をした馬騰、公孫さんは敵を追い、全力で馬を走らせていた。
「馬騰殿。敵は既に巳水関に入ったのでは?」
「例え、巳水関に入ったとしても、勢いは我等にある。幾ら強固な物であろうが、問題はない」
「ふむ、確かに馬騰殿の言う通りだ」
馬騰と公孫さんの軍が、巳水関に続く細道に入ろうとした時だった。左右に生い茂る草木の中から、伏兵が現われた。
「なっ!? 伏兵だと!?」
「――!? いや、お待ち下さい、馬騰殿」
伏兵の姿を見た公孫さんは、剣を取ろうとする馬騰を制した。
「待って下さい、馬騰殿! あの兵は味方の兵です」
そう言って、公孫さんは兵に近付いて行った。
「その方ら、木葉の軍の者であろう。このような所で何をしておる?」
「我等、巳水関への道案内として、将軍様達にご協力するよう、命を受けて、ま、参りました」
公孫さんはどこか兵士の態度に違和感を感じたが、隠れていたのが見つかり、困惑しているのだと思った。
「しかし、巳水関への道は、この細道を真直ぐに行けばよいはずだが?」
「我々がこの先に裏道を発見しましたので、敵の油断をつき、攻撃をするには最適だと思い、将軍様を案内させて頂こうと」
「ふむ、よかろう。では、その場所に案内致せ!」
「はっ! こちらでございます」
公孫さんと馬騰は兵士の後に続き、横道に進んで行った。暫くすると、左右を木に囲まれた見通しの良い一本道に出た。
「ここだな?」
公孫さんが案内役の兵士に話し掛けようとした時、道の奥から声を上げ武器を片手に馬を走らせる三つの人影が見えた。
「そなたらは何者だ!?」
公孫さんはまだ距離のある場所から、三つの人影に向かい声を上げた。
「人に物を尋ねる時は、自ら名乗るべきだろう!!」
「我が名は、公孫さん!!」
「私は涼州の馬騰だ!!」
「公孫さんに馬騰?」
三つの影が二人の名を耳にすると、その内の一つが持っていた武器を頭上で振り回し、公孫さんと馬騰に向けて構えた。
「大将首か!? やっほう! 今日は、俺の番だからな!?」
「わかってる。勝手にしろ!」
そんな会話が終わると同時に、三つの影の内の一つが、突然、武器を持ち、公孫さんと馬騰に向かって行った……………………。
その頃、既に巳水関に到着している賈クと張僚の下に、妙な情報が入ってきた。
「何!? それでは、我らの伏兵3000が、何者かによって全滅させられていたと!? その者の正体はわかったのか!?」
「いえ。しかし、僅かに息のあった兵士が、相手の数は三人と死の間際に言っておりました」
賈クの頭の中は混乱状態であった。
相手の軍を潰すために仕掛けた伏兵が、僅か三人によって全滅させられ、さらに近づいてきていた公孫さんに馬騰の軍も壊滅していたと言う。
そんなことの出来る武将が世の中にいるのか?
賈クの知っている限り、敵方にそれを出来る武将が思い当たらない。呂布であれば可能かもしれないが、それは呂布が三人いた時の話だ。
「そやつらの特徴は何か無いのか!?」
痺れを切らした張僚が叫ぶように兵士に言った。
「それが、情報は現在ありません」
「くっ! どこのどいつだ、俺達にケンカ売っているのは!?」
その時、兵士が何かを思い出したように言った。
「そ、そういえば…………」
「何か思い当たる節でもあったのか!?」
「情報と言うには、あまりに大雑把でしたので忘れておりましたが、死の間際、兵士はこうも言っておりました。長い髭、っと……」
「確かに、髭ならば生やしている奴は何万といる」
あまりの情報のなさに張僚も賈クも手を打つことが出来ず、被害だけを出したこの件については保留にすることにした。
それよりも、今は目の前の連合軍との戦いに集中しなければ、それを考えることも出来ないかもしれない。しかし、既に巳水関に入ったことにより、連合軍の補給路を立つ策を考えれば、勝利は目前と言う状況でもあった。