「名参謀 〜賈ク 文和〜」
諸葛亮は玉の間を後にすると、すぐに文官達を集めた。
「皆さん。すでに噂は聞いていると思います。朝廷からの使者がいらして、我々に韓遂討伐の命が下りました」
それを聞いた文官達は各々の意見を述べ始めたが、どれも諸葛亮が望んでいる答えではなかった。そんな中、一人の文官が他の者の意見を聞いて大声で笑い始めた。
「はっはっは!!」
「何がおかしい!?」
「これが笑わずにいられるか!!」
笑い続ける男に諸葛亮が尋ねた。
「そなたは何故笑っている? 今の状況をわかっているのであろう?」
この諸葛亮の言葉に文官達も頷いた。
「諸葛亮殿ならすでに気付いていらっしゃるはずです。今回の戦の敵は韓遂にあらず、朝廷内の腐った重役達だと。それなのにお主達は軍がどうこう言いおって。今回、戦をするのは兵士ではなく、我等なのだと何故わからんのだ!!」
その言葉を聞いた諸葛亮はにこりと笑った。
「貴方の名前は?」
「はい。私、姓を賈、名をく、字を文和と申します」
「それでは賈く。貴方に重役を担って頂きます。朝廷に使者として赴き、討伐命令を董卓将軍に移して下さい」
「有り難きお言葉。この身命を持って必ずや良いご報告を」
そう言って、賈くは部屋を出て行き、その日の内に都へ出発した。
次の日、俺は昨日のことが気になって諸葛亮に尋ねた。
「諸葛亮、昨日の事だが……大丈夫なのか?」
「心配はいりません。賈くと言う優れた人物を使者として、朝廷に向かわせました」
「賈く!?」
「如何致しましたか?」
「一応聞いておくけど、字はなんて言うんだ?」
「字ですか? 字は文和と申しておりました」
間違いないな。参謀として、名を残しているあの賈くだ。
しかし、何故その賈くが俺の配下に? ……まさか!?
「諸葛亮! すぐに賈くを連れ戻すんだ!!」
「いきなりどうされたのです? 賈くでしたら、私の目から見ても、問題なく今回の任をこなすでしょう」
「違うんだ! 賈くは董卓につく可能性があるんだ!」
「それはありません。私が見るに、彼は忠義の士。裏切りなどありません」
諸葛亮がそう言うのなら、賈くはその様な人物なのだろうが、事実、今まで順序や方法が違うにせよ、史実通りに事が起きているんだ。
なら、今度も賈くは何らかの理由で董卓につく可能性があるんだ。
「これは兄者と諸葛亮殿、如何致しましたか?」
たまたま通りかかったのであろう関羽が声をかけてきた。そして、俺は簡単に事情を説明した。
「なるほど。では、兄者は賈くと言う者が董卓の配下になってしまうと……」
「そうだ! だから早く止めないと大変な事になる!!」
「諸葛亮軍師。今までも何回かありましたが、兄者がこの様なことを言う時は不思議と、兄者が言った通りになっているのです。ですから今回も」
諸葛亮はその場で悩むと、すぐに賈くを連れ戻す様に、近くにいた兵士に指示を出した。
(木葉様のおっしゃる事がもし起きてしまったら、我等に取って強大な敵になる事は間違いないだろう。それは絶対に避けなければ……)