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「黄巾の乱 〜終〜」

 森の中を逃げる木葉と張角は、馬のヒヅメの跡がつかぬ様に、草の生い茂った場所を通って逃げていた。


「大丈夫?」

「あぁ、なんとかな……」


 張角は、胸を押さえ、呼吸は荒く、見るからに苦しそうだった。


「木葉。お前は一体何を望む?」


 張角が唐突に話しかけてきた。


「何を望むって、どういう事だ?」

「決まってる。お前が天下を取った時、全てはお前の思うままだ。その時、お前は何を望むかって言ってんだ」


 望みって言われても、俺にはそんなものはない。この世界に来て、関羽や張飛達と出会って……


「……俺自身の望み、それは皆が幸せに笑っていられることだ。だから、皆の望む事が、俺の望みだ」

「自分の望みより、周りの奴等を優先させるのか!? ……く、くくく、はっはっは!!」

「なんだよ。そんな笑わなくても良いじゃないか」


 木葉は少しいじけた様に言った。


「悪い、悪い。そんなつもりじゃないんだ。ただ、余りにも予想外だったからな」


 そう言った後、張角は何かを悩んでいる様に考えていた。


「よし、決めたぞ!! 俺はお前にあいつらを預ける」


 どうやら張角は、先ほど言っていた自分の仲間達を預ける事で悩んでいた様だったのだ。

 そして、その結果俺に決めたらしかったが、もちろん俺自身は自分にその資格があるのかどうか迷っていた。


「張角、一つ聞いていいか? 何で俺なんだ? 俺より力のある、曹操や孫堅に預けた方が安心出来るんじゃないか?」

「確かに安心は出来る。――だが、安心できるのは俺だけだ。曹操は部下を道具の様に扱う。孫堅は良い君主だと思うが、感情に流される時がある。後はお前だが、仲間達の言う事を聞き、身分など関係なく誰にも同じ様に接している。それがお前の長所であり、短所でもある。なんにしても、俺がお前を気に入った。お前なら安心して仲間達を任せられる」


 そんなことを言われててもな……

 確かに三国志の書物では、黄巾の乱が終わった後の黄巾賊については書かれていなかった。

 しかし、それは予測は出来る。官軍などに捕まり打首となった者や、官軍などから逃げきれたが、捕まることを恐れて身を隠しながら細々と生きて行く者。どれも良いものじゃないことは、感じられる。

 それなら張角が言う様に、誰かに仲間達を預けた方がいいと思う。


「わかった。あんたの仲間達は皆、俺が預かるよ」


 俺が張角にそう返答をした時だった。


「木葉。貴様に今力をつけられては困る」


 ばっと振り替えると、そこには曹操と夏侯惇が刀を抜き今にも切り掛かってくる雰囲気だった。


「張角!! あんたは早く逃げてくれ! 俺が時間を稼ぐ!!」


 俺は腰に差してあった刀を抜いた。

 それがいかに子供騙しな事かは、俺自身もよくわかっていたが、今戦えるのは俺しかいない。


「馬鹿野郎! お前が死んじまったら、俺の仲間達がどうなると思ってんだ! あいつらが狙っているのは、俺だ。俺が行けばそれで……」

「うるさい! 俺の周りで死なれるのは嫌なんだ。だから俺は精一杯あんたを守る!!」

「お前……」


 張角は、その場を動けなかった。それは、自分がこの戦いを見ていなければいけないと感じたからだ。

お互いに相手の出方を伺う静かな時間が流れていた。

 そして、同時に動こうとした時、草むらの中から三頭の馬が飛び出して来た。


「兄者!!」

「兄貴!! 無事か!?」


 心強い援軍が来てくれた。関羽に張飛、そして、孫堅までも。


「途中、姿が見えなくなったので、もしやと思ってな」


 さすがの曹操もこの豪傑達を相手にするには、現在の戦力では無理だと思ったのか、すぐに退く様に夏侯惇に言った。


「まぁ良い。張角の首などのため、我が覇道を終わらす訳にはいかぬ。精々、力を貯えておくのだな」


 そう言うと、曹操は引き返していった。そして、暫くすると曹操軍も撤退をしていった。


「一時はどうなるかと思ったけど、何とかなったな」


 俺はほっと一息ついた。


「ぐ……」

「おい!? どうしたんだ!?」


 張角が胸を押さえ、その場にうずくまっていた。そして、口をぱくぱくと動かし俺に何かを言おうとしていた。

 俺は張角の口元に耳を寄せた。


「張曼成はいるかい?」

「張曼成。張角が話しをしたいって」


 すると、慌てて張曼成は張角の側に駆け寄った。


「いいか? 俺がくたばったら、黄巾党は解散させろ。そして、志しのある奴等をお前が選び木葉に力を貸してやるんだ」


 張曼成は頷いた。頷く事が精一杯だったのだ。


「木葉を呼んでくれ」


 張角がそう言うと張曼成は俺を呼んだ。


「木葉、俺がくたばったら、この首を持って手柄をたてるんだ」

「なっ!? 何を言ってるんだ!?」


 そう、張角の首を持って手柄をたてると言うことは、張角の首を晒し首にすると言う事だ。死んだ人間に対し、さらに辱める様なことを、俺には出来ない。

 そんな木葉の表情を見ていた張角が言った。


「いいか。今の世は力が無ければ、いくら志しを持とうが力によって潰されてしまう。だからお前もその力に対抗出来る、力を持たなくちゃいけねえんだ……」


 そこまで言い終えると、張角は気を失ってしまった。

 張角の言っていることはわかる。わかるけど、俺は……俺は……






 その後、俺達は孫堅と別れ、城に戻った。別れ際孫堅は、張角のことについて全て俺に任せると言っていた。

 城についてすぐ、医者に張角の病状を見てもらったが、結果身体はすでにぼろぼろで、生きているのが奇跡に近いと言っていた。

 

 

 その夜、張角は息を引き取った。民のために立ち上がって志し半ばで……

 張曼成は、張角に言われた通り、各地の黄巾賊達に解散の報せを出した。

 そして、俺は張角を丁寧に埋葬させ、張角が病死になったことを皆に伝えた。

 こうして、黄巾の乱という始まりは終わった。しかし、この騒動を利用しようと思う者達がすでに動き始めていたのを皆はまだ知らない……


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