「不思議な世界」
「……ん?」
眩しい光に当てられ、俺は目を覚ました。
起きた俺の目の前に広がるのは、広大な大地。道路も民家もない。
「……は、ははは……夢か。そうだ夢なんだ!?」
俺がもう一度寝ようとすると、馬のヒヅメの音が近付いて来た。
「おい! 止まれ!」
そう言うと、馬の嘶きとともに俺の側で、ピタリと止まった。
「なんだ? この辺じゃ見ねぇ服を着てやがる」
三人組みの内の一人が、まるで品定めでもするかの様に俺の周りを回り始めた。
三人組みはコスプレでもしているのかと思う様な服装に、頭と首に黄色い布のようなものを巻いていた。
「な、なんだ。あんたたちは!?」
「なんだぁ?俺達のことを知らないのか?」
知らないのか? って言われても、今初めて会ったんだからわかるわけがない。俺が答えないでいると、三人の内の一人が痺れを切らした様に言った。
「こいつ!ふざけてやがるのか!?」
そう言って、腰にさしていた刀を抜き、俺の首に突き立てた。
「まぁ、待て」
三人の中のリーダー格の男がそれを制した。
「なぁ、兄さん。悪いことは言わねぇ。身に着けている物を置いていけ。でないと、本当に首と胴体が離れるぜ」
いきなり出て来て、カツアゲか? と、首に突き立てられた刀に触れた。
「イッ!」
すると、指からはジワリと血が滲み出て来た。それを見た俺の全身から冷たい汗が流れた。何故こんな状況になったのかわからないが、今自分の首に真剣が突き付けられている状況は理解出来る。
俺は相手に悟られない様に、周りに武器になりそうな物がないか探した。すると、あの夜に持っていた木刀が、先ほど寝ていた場所のすぐ近くにあった。
「わかった。身に着けている物は全て置いて行くから、命だけは助けてくれ」
「最初からそうすればいいんだよ」
勝ち誇ったように、男は俺の首に突き立てた刀を引っ込めようとした。その瞬間、俺は男を思いっ切り蹴り飛ばし、落ちている木刀を拾った。
「ぐわっ! ……て、てめぇ」
蹴り飛ばされた男はすぐに起き上がり、俺に向けて刀を構えた。
(こいつ、ど素人か? 構えが目茶苦茶だ)
普段から稽古をしていた木葉にとって、相手の力量は構えを見ただけである程度想定できた。
「死ねー!」
男の振り下ろした刀を木刀で受け止めたが、それはやってはいけないことだった。普段真剣を使っていないから出てしまうことだが、真剣を持った相手の攻撃を木刀で受ければ、 当然木刀が切られてしまう。今回は奇跡的に、半分程切られただけだった。
しかし、いずれにしても刀を受け止めることが出来ない分、こちらの不利には変わりない。その後、連続して繰り出される刀を紙一重で何とか躱していたが、そんな事が長く続くはずもなかった。
真剣を相手にしている重圧で、精神的にも身体的にも疲れが出始め、段々とかわした刀と自分との距離が縮まってきていた。そしてついに、刀を躱しきれなくなった俺は、木刀で真剣を受け止めてしまった。もちろん、先ほどとは違い、俺の木刀はスパッと真っ二つにされてしまった。
「さぁ、もう逃げられねぇぞ。逃がす気もないけどな。がはははは!!」
(くそ! こんなわけわからない所で、俺は殺されるのか?)
男が刀を振り下ろそうした時、馬の嘶きとともに勇ましい声が響き渡った。
「待てぃ! 貴様ら、黄色い布を巻いているということは、黄巾賊に間違いないな」
「なんだ、お前は!?」
「貴様らのような者に、名乗る名など持ち合わせておらぬ!!」
ほんの一瞬だった。先ほどまで目の前にいた三人組みの首が、ただの一振りで中に舞っていた。
「お怪我はありませぬか?」
その時、俺は初めて助けてくれた奴の顔を見た。すると驚くことに、そこには女の子の顔があった。差し出された手は俺よりも小さく、腰下まである髪を後ろで結び、何よりその瞳はまるで黒曜石をはめ込んだ様に黒く美しかった。
「どうしたのですか?」
「いや、なんでもない」
つい見とれてしまっていたことに、恥ずかしくなり顔を背けた。するとその子は、俺の手を握り立たせてくれた。
「あ、ありがとう」
こんなに綺麗な子は、今まで見たこともなかった。しかしその子をよく見て見ると、着物の様な見たこともない衣装を纏っていた。
「あの……」
っと、俺が言いかけた時、遠くで黒い煙が空に向かって伸びているのを見た。彼女もそれを確認したようで、その煙に鋭い視線を送っていた。
「まさか!?」
彼女は慌てて馬に飛び乗った。
「待ってくれ! あれはなんなんだ?」
「あれは、先ほど貴方を襲った奴等の仲間が街を襲っているに違いない。私はあの街の人々を助けに行く!! はっ!」
そう言った彼女は馬にまたがり、風の様に駆けて行った。
「なんなんだ? ここは?」
立て続けに起こる理解しがたい出来事に、俺は混乱していた。しかし、そんな中で今走り去った彼女を思い出していた。
「……さっきの奴等の仲間って言ってたな? もしかしたら、そいつらも真剣何じゃ? だったら、彼女一人だと危険じゃないか!?」
俺は急いで彼女の後を追いかけた。