「戦 〜黄巾賊 張角直属軍 肆〜」
激しい砂煙をあげ、駆け付けた張曼成は、そのままの勢いで一番先頭まで進んだ。
「はぁ、はぁ……ま、間違いない。外見は少し変わっていらっしゃるが、張角様に間違いない」
張曼成が軍の前で叫んでいた男を見て、言葉を漏らした。
「何をしている! 張角様をお迎いに行くぞ!!」
「な!? こっちに向かって来るぞ!」
黄巾賊が俺達に向かって来たが、何故か数人だけであった。
「やっと気付いたか」
男が胸を張りながら前に進んだ。
そして、不思議な光景が俺の目の前に写し出された。
それは、こっちに向かって来た黄巾賊達が男の前で馬を降り、地面に膝をついて、男に深々と頭を下げていたからである。
「お捜ししました。今までどちらにおられたのですか、張角様」
ちょ、張角だって!? こんなおっさんが!? ……っと、今のはまずいな……
この人が張角!?
でも、それだったら名前を名乗れなかったのも納得出来る。
「張角様。我々と共にお戻り下さい。皆、張角様を心配しています」
そう言われた張角は俺の方を振り返った。
「悪かったな。隠すつもりはなかったんだ。ただ、俺の命は残り短い」
「何をおっしゃいます!?」
「本当の事だ。だが、俺はこいつらの大将だ。こんな俺に今までついて来てくれたこいつらを残していけない。だから、俺は捜していたんだ。天下人となりうる人物を。こいつらを任せられる奴を」
「それで、見つかったのか?」
張角はにこりと笑顔を作った。
「3人程、見つかった。一人は、官軍の将、曹操。同じく、孫堅。そして、お前だ」
「俺!?」
それは過大評価をし過ぎだ。俺はただの学生だったんだ。天下なんて……
「ほう、貴様が黄巾賊供の頭か。孫堅と木葉の顔を見に来ただけだったが、とんだ収穫のようだ」
いつの間に俺達の側に来たのかわからないが、格好からは何処かの将だと推測出来た。
「誰だ!?」
「くくく……余の顔を知らぬとはな」
「そ、曹操……」
張角の口から驚きの余り、そいつの名前が出た。
曹操、この男が!?
この世界に来て、見てきた奴等とは比較にならないほどの威圧感があった。
「さて、それでは張角の首を頂くとするか。夏侯惇!!」
何の前口上もなく、後ろにいた将に曹操は命じた。そして、曹操から命を受けた夏侯惇は躊躇することなく刀を抜いた。
「悪く思うな」
夏侯惇は抜いた刀を張角に向けて振り下ろした。
ほとんど一瞬の出来事だったので、俺は全く反応が出来なかった。
だが、関羽だけはしっかりと反応していた。
振り下ろされた夏侯惇の刀が張角の首を跳ねる前に偃月刀で受け止めていた。
「貴殿のその行為、関心せぬな」
「これは……そうか、お前が関羽か」
夏侯惇は関羽の偃月刀を見てにやりと笑った。
「どけ、関羽!! 退かねば、貴様も切る!!」
「ほう、この関羽を切るとは……殺れるならやってみるが良い」
二人は同時に距離をとった。
「関羽!!」
「こちらは私に任せて下さい! 兄者は早く張角殿を!!」
「わかった。頼んだぞ!!」
俺は張飛、張曼成と共に張角を連れて自軍に向かって走った。
「夏侯惇! 関羽はそちに任せた。余は軍を率いて張角を追う!」
「早く行け、猛徳!! 大物が逃げちまう!!」
そして曹操は、自分の軍に合図を送り、張角を追いかけた。