「戦 〜黄巾賊 張角直属軍 参〜」
孫堅の後を追って陣に着くと、そこはすでに敵味方入り乱れての大混戦となっていた。俺は早く孫堅軍を助けなければと、手を高く上げて突撃の合図を送ろうとした。
その俺の行動を見た諸葛亮が慌てて止めに入った。
「待って下さい! 今、あの混戦の中に我々の軍が突入すれば、敵も味方もさらに混乱致します」
「なら、どうするんだ?」
諸葛亮は混戦となっている中の右翼と左翼を指で指し示した。
「我等が軍を二つに分けます。そして、右翼、左翼共にこちらから戦いには行かず、銅鑼を鳴らし続け、戦う素振りをして下さい。そうすれば、敵の方から我等を迎撃するために兵を割いて来るので、我等が混戦の中に加わる事なく、迎撃出来るでしょう」
さすがだ。やっぱり俺なんかとは、頭の回転が違う。
俺は諸葛亮に言われた通り、軍を二つに分けた。右翼には、関羽を大将とした兵一千。左翼には、俺と諸葛亮と張飛が同じく一千の兵を率いた。
そして、それぞれの場所に急いで移動をした後、ありったけの銅鑼と叫びで自分達をアピールした。
大混戦の中、何処かから聞こえる大音響を不思議に思い、黄巾の大将が兵に問い掛けた。
「なんだ!? 何が起こった!?」
「左翼と右翼に敵援軍が現れました!! その数およそ二千!!」
敵の援軍だと!? だが、今退いてしまってはあの方の行方がますます分からなくなってしまう。
「左翼。右翼の兵は、迎撃をしろ! ただし、勝てなくても良い。少しの間、時間を稼ぐのだ。その間に、我々が敵を打ち破る!!」
「敵が向かって来たぞ!?」
諸葛亮の言っていた通り、敵がむこうから俺達の方に来た。向かって来た敵の数は、俺達と同じくらいのおよそ一千。
「迎撃の準備です!」
「わかった。張飛! 頼んだぞ!!」
「任せとけ、兄貴!! よっしゃあ! かかってこい!!」
そのまま一気に戦闘開始かと思ったが、敵は一定の距離を保ち、なかなか攻撃に出ようとしなかった。
「どうゆうことだ? 何で奴等は向かって来ない?」
俺は諸葛亮に尋ねた。ちなみに兵士の報告によれば、関羽の方も同じ様な状況だと言う事だ。
「諸葛亮、どうすればいいと思う」
このままでは孫堅達が心配だ。まるで孫堅軍を倒す時間を稼がれてるみたいだ。
「……そうか!? 諸葛亮、もしかしたら奴等時間を稼いでいるだけじゃないか?」
俺の言葉に諸葛亮は小さく頷いた。
「それは僕も思っていました。しかし、今、我々が下手に動けば先ほども言った様に危険があります」
動きたいのに動けないってことか。あの諸葛亮でさえ良い策が出てこないんだ。どうする?
俺が悩んでいると、後ろの方から俺を呼ぶ声がした。
「お~い!!」
そこには、病気で床に伏せていたはずの男が馬に乗って走って来たのである。
「そんな身体で何しに来たんだ!?」
「動きたくても動けなくて困ってるんだろ? なら、俺に任せな!」
そう言うと、男は武器も持たず、丸腰のまま敵味方が入り乱れている戦場に向かっていった。
「お、おい! あんた、そんな身体で何をするつもりだ!?」
俺は男を見殺しにするわけにもいかなく、後を追いかけた。
「誰か向こうから向かって来ますよ」
戦わず時間を稼いでいた黄巾賊に向かって、一騎の騎馬が向かって来た。
「一騎だと? 何かの罠かも知れん! 気をつけるのだ」
騎馬は真っ直ぐに向かって来るが、どうやら騎手は武器を持っていない様だ。黄巾賊の指揮を取っている男は、この騎手に対してたくさんの疑問が浮かんできた。
だが、こちらが動かなければ敵の罠も意味をなさない。だから、動かずにじっと騎馬が近付いて来るのを待っていた。
「はぁ、はぁ…………」
今までで一番胸が苦しい。
一歩進む度に、まるで一つ命を吸い取られている様だ。
男は胸に手をあて、呼吸を乱していた。
しかし、自分の役目を遂げるまでは、何があっても俺は倒れちゃいけないんだと言う思いが、男の身体を支えていた。
男は黄巾賊の前で止まると、両手を空に掲げてありったけの声で言った。
「すぐに軍を退くのだ!! 我等が目的は、官軍との戦にあらず! 民の平和こそ、我等が望み!!」
一方、この様子を見た黄巾賊達は、何故かしきりに近くにいる兵とぼそぼそと話していた。
そして、この黄巾賊をまとめていた指揮官がすぐに伝令を出す様に指示を出した。
「伝令! 伝令!!」
その頃、孫堅軍と戦闘中の張曼成に伝令が届いた。周りは戦場のため、耳打ちの様な形で伝えられた。
その報告を聞いた張曼成は、すぐに軍に指示を出した。
「退け! 退け!! 我等はこれから、後方の部隊と合流する!!」
突然の指示に兵士達は戸惑っていたが、指示通りに動いた。
「何やってんだ!? 早く退かないと殺されるぞ!?」
俺はやっと男に追いつき、すぐに弓の届かない距離まで下がる様に言ったが、男は動こうとしなかった。
「早く下がるんだよ! 相手の援軍が来たらどうする!?」
そう言っている間に、敵黄巾賊の後ろに大きな砂煙があがっていた。
「兄貴!!」
「兄者!!」
「張飛、関羽。二人ともどうしたんだ?」
「諸葛亮殿が軍は任せて、私達に兄者を護衛しろと」
ありがたい。
正直、敵が襲って来たら俺だけではどうにもできない。