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「趙子龍 〜弐〜」

 一方、趙雲はすでに出陣の準備を整えて、馬を黄巾賊の陣に向かって走らせていた。


「公孫さん殿には悪いが天下を取る器ではない」


 そして、黄巾賊の陣前まで来ても馬のスピードを落とさず、そのままの勢いで敵陣の中に突入していった。


「我が名は趙雲! 我が槍の餌食となってもらう!!」


 突然のことに初めは驚いていた黄巾賊も、敵が一騎だと知るとわらわらとアリの大群のように趙雲の周りに集まってきた。しかし、黄巾賊の兵がいくら刀を振るおうが趙雲の槍さばきの前になすすべなく屍を築いていった。


「どうした!? お前達は人一人も殺せないのか!?」

「野郎!!」


 次々と襲い来る黄巾賊を趙雲は見事な槍さばきで仕留めていた。しかし、やがて趙雲が倒した黄巾賊達の屍が積み重なり動きが制限されてきてしまっていた。


「おい! どんどんかかれ!!」


 黄巾賊の兵達はいくら仲間が死のうが攻撃をやめはしなかった。やがて趙雲の足元は黄巾賊の死体で埋まり動きが取れなくなってしまった。

それでもさすがは趙雲である。体を一つ動かさずに槍さばきのみで敵の攻撃をかわしていた。しかし、この状況ではさすがの趙雲も攻防を同時に行えず、防戦一方になっていた。


「くっ! これまでか……」

「やっと諦めたか。仲間の仇だ! 死ね!!」


 趙雲はその瞬間、死を覚悟した。武人として戦場で死ねるなら本望だと。しかし、趙雲に向かって振り下ろされた刀は、その戦闘に乱入してきたものによって止められた。


「趙雲殿! 大丈夫ですか!?」


 長い髪を風に揺らし、趙雲の目の前には青龍偃月刀を振るう、女が立っていた。


「貴殿は!?」

「私の名は関羽。兄者の命により趙雲殿に助太刀致す!!」


 そう言った関羽は、青龍偃月刀を横薙ぎに振るい、近くにいた黄巾賊の首を刎ねた。


「おお! 貴殿があの関羽殿か!? まさか関羽殿と一緒に戦えるとは!?」


 趙雲は再び槍を構えた。

 そして、関羽と趙雲はお互いの背を合わせ、襲い来る黄巾賊を次々と倒していった。その時の趙雲の胸は、武将としての喜びで一杯だった。

 暫くすると、遠くから銅鑼の音が響き渡った。それと同時に、黄巾賊の陣に木葉軍の兵士達が突撃を開始した。


「こ、これは!?」

「兄者達が来てくれた様だ。私達も急ぎ片付けてしまおう!!」


 そして、戦はあっと言う間に木葉軍の勝利で終わった。


「それにしてもあっという間に勝てたな? さすが諸葛亮だ!」


 勝利に喜んでいた俺の元に、関羽は趙雲と一緒にやって来た。


「えっと。趙雲でいいんだよね?」

「何故、貴殿は私を助けたのですか?」


 趙雲の唐突な質問に俺は悩みながら、思っていることをそのまま言葉にした。


「趙雲を死なせたくなかったからかな。もし、趙雲さえ良かったら俺達と一緒に戦ってくれないか?」


 趙雲は暫く考えた後、俺に言った。


「確かに拙者は公孫さん殿に愛想をつかしましたが、貴殿の陣に行くことはできない」

「なんで?」

「それは、拙者がまだ未熟ゆえ、この大地にて己を磨こうと思います。いずれ時が来ましたら、また会う事になるでしょう」


 趙雲はそう言うと槍を片手に、馬にまたがり、風の如く走っていった。






 その頃、木葉が指揮する義勇軍が、黄巾賊をあっという間に倒したと言う噂が飛び交っていた。

 しかし官軍の将達はこの知らせを良くは思わず手柄を横取りされたと思う者さえいた。

 そんな中、官軍の将である一人の男だけは、この知らせから、ただならぬ気配を感じていた。

 

 

「殿! お聞きになりましたか!? 木葉と言う男が率いる義勇軍が、またも黄巾賊を撃退したと!」


 男は陣幕の中で書物を読み、部下の報告にぴくりと反応した。


「その報は知っておる。それより今度はどのようにして、黄巾賊を撃退したのだ?」

「はっ! まず、敵陣深く二人の将が切り込み、その混乱に乗じて四方から攻め立てた様にございます」

「なるほど。将二人での突撃か……余程良い将がいると見えるな。夏侯惇。お前なら奴等と同じことができるか?」

「必ずや殿の前に敵将の首を持って参りましょう」


 部下の言葉を聞き、男は声を上げて笑った。そして、立ち上がり、部屋を出て庭に降りた。


「天に登る龍は、この曹操一人で十分。それを邪魔するのなら、例え天でも許さぬ」

 


 曹操そうそう字を孟徳もうとく

 

 宦官かんがい曹騰(そうとう)の孫に当たる。当時、宦官は世間から軽蔑されていたため、孫である曹操にもその冷たい視線は向けられた。しかし、曹操はそれをバネとし、武術・舞踊・音曲・兵法など、様々な分野で類まれな才能を発揮していった。そして、曹操の改革的な政治に、人々はいつしか始皇帝の再来と噂し曹操を恐れるようになっていった。また、曹操は才能ある者は身分にかまわず登用し、人を見抜くことにかけては誰にも負けなかったと言う。

 そしてここで少し、曹操と夏侯惇の奇妙な繋がりについて触れておく。

 実は曹操の父である曹嵩(そうすう)は、元々夏侯氏であったのだ。では何故、曹操は曹を名乗っているのか?それは曹操の父曹嵩が、中常侍・大長秋曹騰の養子となり曹氏を継いだためだ。

 この時代、高位の宦官に限り、養子をとって家名を存続することが許されていたのだ。そしてこのことから、曹操と夏侯惇は血縁上、従兄弟と言うことになるのだ。


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