「趙子龍 〜壱〜」
公孫さんのさんと言う漢字が、表示されないようでひらがなになっております。
すいませんが、ご了承ください。
では・・・・・・
孫堅の陣から城を目指して出発した俺と関羽の間を、何となく冷たい空気が流れていた。
「あ、あのさ。関羽?」
「なんですか?」
ぶっきらぼうに関羽は返答を返した。
「何か怒ってない?」
「私は怒ってなどいません! 兄者こそ、孫権と別れてよかったのですか?」
関羽の奴、完全に機嫌を損ねてるな。しかし何をそんなに怒っているんだ?
そんな雰囲気の中、暫く進むと見晴らしの良い場所に人が倒れていた。俺は馬を走らせ近付いて行った。
「おい! 大丈夫か!? どうしたんだ!?」
男からの返事はなかった。男は、ぼさぼさの髪と伸びきった髭、近くで見ると浮浪者かと思う様な風貌だった。
「うっ……」
「おい! 大丈夫か!?」
男はゆっくりと目を開け、喉を痛めているせいか、ガラガラした声で話した。
「大丈夫だ。どうせ俺の身体はもうすぐ病で死ぬ」
男の言葉を聞いた俺は、病気なら城にいる医者に早く見せなければと思い、男を馬に乗せて急いで関羽と共に城に向かった。
城に着くと、すぐに医者を連れてきてもらい、男の容体を見てもらった。
「どうだった?」
俺の問いに医者は首を横に振った。
「木葉様が連れて来ましたあの男、病気の進行進んでおり、すでに手遅れです。あの男の命もそう長くはないでしょう」
医者の言葉を聞いた俺は、あの男がすでに自分の命が長くないことを知っていたのだとわかった。
俺は男のいる部屋に行った。
「あんた知ってたんだな?」
「まぁな。自分の事だ。自分が一番よくわかる」
「名前は何て言うんだ?」
男は俺の目を暫く見続けた。
「俺の名前か? 名乗れる名じゃねぇよ」
男は少し笑って言った。
その時、勢いよく部屋のドアが開けられた。
「誰だ? もっと静かに……」
「す、すまねぇ、兄貴。でも、大変なんだ!!」
張飛が血相を変えて、息も整えずに話しを続けた。
「城の南、約五里の場所で黄巾賊と官軍が戦っているらしい!!」
官軍と黄巾賊が!? 城の南三里ってことは、もし官軍が敗れれば次は必ずここに攻撃をしてくる。
「それから兄貴。本当かわからないが、報告をしてきた兵士によれば、黄巾賊の本当の目的は俺達の城で、官軍はそれを阻止するために突撃をしたって話だ」
「それは本当か?」
張飛の言う事が本当なら早く援軍に行かなくては手遅れになりかねない。
俺は各将軍に至急出陣の準備を整える様に言った。そして、俺自身も出陣の準備をするため部屋を出ようとした時、床に横たわっている男が呼び止めた。
「あんたに頼みがある。その黄巾賊と官軍が戦っている場所に、俺も一緒に連れて行ってくれ」
「何を言ってるんだ! そんな身体で戦場に行くなんて無理だ」
「いいんだ。無理は承知している。それでも俺は行かなくちゃならないんだ」
男は精一杯の力を振り絞り、床から身を起こして俺を見てきた。俺はその目に男の強い思いを感じた。
「わかったよ。何だかあんたにとってはすごく大切なことみたいだからな」
そう言って俺は男を床から起こすと、出陣の準備に向かった。
約一刻後、各将軍達は出陣の準備を整え、出陣の合図を待っていた。
「兄貴! 準備は万全だ!いつでもいいぞ!」
「よし! 出発だ!!」
俺達は兵四千を引き連れて城を出発した。自分も一緒に連れて行けと言った男は、俺の側で馬に繋いだ四輪車に乗っていた。
官軍の事もあるため、進行の速度を速めながら官軍の陣に向かった。
そして、俺達の前に官軍の陣が現れた。俺は門番に、急ぎ官軍を指揮する将軍に取り次いでもらった。
「お前が義勇軍の大将か?」
「一応ね。俺は清水木葉。あなたは?」
「姓は公孫、名はさん(さん)、字を伯珪と申す」
公孫さん。白い具足をつけ、白馬に乗っていたため白馬将軍と呼ばれた人物だ。それ以外にも容姿美麗で美声の持ち主だったと言われている。
そう、俺の目の前にいる公孫さんは、容美端麗で見るからに美しい女性だった。
「ん?どうした?」
俺はどうやら、公孫さんの姿に見入っていた様だ。それも声を掛けられなければ気付かないほどに。
「いや、何でもない」
その時、俺の後ろから殺気を感じた。しかし、俺の後ろには関羽しかいないはず……
恐る恐る後ろを見ると、顔には出していないものの、青龍偃月刀を握りながら小刻みに震えていた。
「あ、あははは……それでは、俺はこれで。何かありましたら、呼んで下さい」
すると、公孫さんと比較しても劣らぬ容美端麗な、多分この軍の将であろう男が飛び込んで来た。
「公孫さん殿! 今、黄巾賊の奴等は油断しております。すぐに討って出て下さい」
「お主か。今日は討って出ないと先ほども申したはずだ」
「しかし……援軍も来た今だからこそ勝機! 何卒ご出陣を!!」
その若者のしつこさに苛立った公孫さんは、声を荒げながら言った。
「ええい、しつこいぞ!! そんなに戦いたいのなら、お主一人で行けばよかろう!?」
「わかりました。それでは……」
おい、おい。今の流れからだと、あいつは本当に一人で突撃していくぞ。
公孫さんがゆっくりと俺の方を向いていった。
「すまんな。少し取り乱した」
「あの人は?」
「あやつか? あやつはたしか、趙雲と言ったかな。腕が立つので我が軍に客将として置いてやったのだがな。どうも使い物にならん」
なるほど。今度は趙雲か。公孫さんの陣とわかった時から少し期待していたが、本当にいるとはな。……そうだ! このままじゃやばいんじゃないか!? いくら趙雲が強いからって、一人じゃ殺されに行くようなもんだ。
「公孫さん殿! 俺はあの趙雲と言う若者を助けに行く!」
俺の突然の言葉に公孫さんは驚いたようだったが、はははと笑って俺に言った。
「木葉殿が行くと言うのなら止めないが、あやつ一人のために軍を動かしても良いのか?」
「かまわないよ。俺は人が死んだりってのは嫌なんだ」
公孫さんは変わった奴だと俺の背中を叩いて奥の方に行ってしまった。
しかし、もしあの男が趙雲ならきっと俺達の仲間になってくれるはずだ。俺は急ぎ自分の軍の元に戻った。