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「江東の虎」

 それから俺と関羽は、仲謀と一緒に北数里の所にいると言う仲謀の仲間の元に向かった。道の途中では何もなく、一刻程で仲謀の仲間の陣にたどり着いた。


「此所まで来れば安心だな」


 俺は仲謀を馬から降ろし、その場から立ち去ろうとした。


「待って!!」


 仲謀の突然の声に、俺は手綱を引いて止まった。


「此所まで連れてきてくれたお礼がしたいの。是非、父上と兄上にも会っていって欲しい」


 関羽は俺と仲謀の間に入ろうと馬を動かした。それに気付いた俺は関羽の目を見て小さく頷きそれを制した。


「仲謀がそう言ってくれるなら、是非会って見たいな」


 そう言って馬から降りて、仲謀の仲間の陣に近付いて行った。

 陣の入り口には二人の門番がいた。門番達は孫権の顔を見ると飛び上がる様に驚き、陣の中に駆けて行った。

 暫くすると、陣の奥から貫禄を漂わせ立派な鎧を着た男と、不思議な雰囲気を持った青年が姿を表した。


「父上! 兄上!」


 二人の姿を見た仲謀は、勢いよく抱き付いた。


「おぉ、権よ。そなたが無事でよかった」

「あのね、父上。あの方達が、私を此所まで連れて来てくれたの」


 父上と呼ばれた男は、俺と関羽の顔をじっと見た後、何がおかしかったのか笑い始めた。


「権を助けてくれたこと、お礼を申し上げる。私はこの軍を指揮する、姓を孫、名を堅、字を文台ぶんだいと申す。そしてこっちにいるのが、私の息子の」

「姓を孫、名を策、字を伯符はくふと申します。妹を助けて頂き感謝致します」

 

 孫堅。三国志の中では、十七歳のときに父親に付き従って海賊を退治しその名を馳せ、江東の虎と言われる男だ。

 

 孫策。孫堅亡き後、亡き父の残した三千の兵を“伝国の玉璽”をかたとし、袁術から譲り受け出兵する。途中、幼馴染みの周瑜を幕下に入れ、会稽の厳白虎をあっという間に撃破する。その孫策の勇猛さから、秦末期の楚の武将、覇王・項羽の名を借りて“小覇王”と呼ばれる人物だ。

 

 どちらも三国志の中では英雄だが、孫堅、孫策ともに、若くして命を失っている。でも、この三国志の世界は、俺が来たことによってなのか、何かがおかしくなっている。それが何かはわからないが、ひょっとしたら孫堅、孫策の運命にも何かしら影響があるのではないか?

 

「俺は、清水木葉。で、こっちが義兄妹の関羽です」


 ここで俺はあることを思い出した。

 そう、城を留守にすることを誰にも言っていないことだ。きっと今、城では張飛や諸葛亮が必死に探しているに違いない。


「あの、来て早々で申し訳ないのですが、誰にも言わずに城を出てきたので早めに戻らないと皆が心配しているかもしれません」


 俺はそう言って頭を下げ、急いで城に戻ろうとした時、仲謀が俺の手を握り顔を近づけ、そのまま俺の頬にキスをした。


「な…………!?」


 言葉にならなかった。いきなりだというのもあるが、孫堅の目の前でというのが一番恐ろしかった。しかし、その仲謀の行為に何も言わなかった。


「へへへ……今回助けてくれたお礼」


 仲謀は顔を真っ赤にして恥ずかしそうに言った。不覚にも俺はそんな仲謀に見とれてしまっていた。すると、関羽が後ろから俺の腰の辺りをギュッとつまんだ。


「ッ!!」

「兄者。早く戻らないと、皆が心配しています」


 関羽の表情は見えないが、何か恐ろしいオーラを感じる。まるで俺の周りだけに、死神が取り付いているような…………


「……そ、そうだな。じゃあ、仲謀。またね」


 そう言って、俺は関羽と共に馬の腹を足でこつんと蹴って城に向かった。


「権。良い男に目をつけたな」


 俺達の背中を見ていた仲謀の頭を孫堅が撫でた。


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