【姿の見えない死に神】
2015年6月4日に書いた三題噺を元に書いた短編です。
後書きに実際に使ったキーワードを載せています。
「敵の本拠地の迂回ルートは、最短でも一日かかる。」
森の中を進みながら隊長が今作戦のおさらいをする。今回は少数部隊を敵の本拠地の裏から進入させ、敵陣内部が混乱したところを本軍が叩くという作戦だ。隊長が続ける。
「裏からの奇襲だから、こちらの動きは絶対にバレてはいけないが、優秀なこの部隊ならまず大丈夫だろう。ただ問題があるとすれば…」
「『姿の見えない死に神』ですか?」
スナイパーのウリワリが言うが、声が少し萎縮している。
敵の中に頭一つ抜き出たスナイパーが居るという噂があった。以前、両軍が激しくぶつかった市街戦で、先行して情報を送っていたスナイパー部隊から突然連絡が途絶え、二次先行部隊がその後、スナイパーを警戒して後を追ったのだが、その部隊が定時連絡をすることはなかった。
そして激戦区で次々と自軍の兵が死んでいき、その時の戦いは敗走という形になった。隊長を含め、自軍の兵はみな頭の隅に見えない死に神の影がちらついているに違いない。
「『姿の見えない死に神』には注意しなくてはいけない。しかし作戦は変わらん。今度は我々が裏をかく番だ。」
「大丈夫ですよ隊長!奇襲は任せてください!」
眼帯をした小柄な男が威勢よく言う。
「お前は調子に乗って前に出すぎだ!その右目に誓って前に出すぎるな!」
眼帯をしたヒラーノが苦笑して頭をかく。こう見えても実際には切り込み隊長としてかなり優秀だ。彼が前に出て、敵を引きつけ釣ったところを仲間達が殺すという戦術はよく使う。実際にかなり救われていた。
「もうすぐ予定していた休憩ポイントの廃村に着く。気を引き締めろ。」
敵の本拠地には一日かかる。迂回ルートの休憩ポイントとして廃村を選んだ。まず安全を確保し、制圧する。死に神のこともあるので普段よりも慎重になっていた。
ライフルのスコープから覗く外観は、何年も人が居た形跡のない廃村だった。森が隣接しているため家の中にまで木が生えているのが遠目でも確認できた。。
「敵、確認できません。」
街を俯瞰できる位置でスナイパーライフルを構えたウリワリが言う。隊長を含めた三人が家を死角にし、一軒一軒敵が居ないことを確認していく。
「隊長、この分だとここには敵は居ないでしょう。てきとうな家を壁にして休憩しましょうよ。」
気怠そうに眼帯のヒラーノが言う。死に神に関してどうでもいいように聞こえるが、隊長はやる気のなさそうなヒラーノが、こう見えても周囲の警戒をしての発言と言うことを知っていた。ウリワリに合図して合流するか…
そう思った矢先、前方をもう一度確認するために家の壁から目を光らせたヒラーノの頭が吹き飛んだ。
瞬時に狙撃位置を確認し、射線に入らないように家を壁にしながら生き残ったもう一人を連れて位置を変えていく。そのまま留まれば別の位置から狙撃され兼ねない。走りながらウリワリに無線を入れる。
「ウリワリ!敵は確認できたか!?」
しかし、無線の先に居るであろうウリワリからの応答はなかった。イヤな汗が背中を染めていくのを感じていた。
「銃声はあの一発だけのはず…なぜウリワリから通信が来ない…!」
狙撃された位置から離れ、窓から高く木が生い茂る場所で足を止める。
「た、隊長っ。もう二人やられたんですか!?」
生き残った兵はパニックを起こしている。なんとか落ち着かせなければ…
「ドッ」
頭上から小さな音かしたと思うと、葉の塊が目の前に落ちてきた。
「わあああああ!!」
パニックになった兵は上に向けてライフルを連射した。
「バカ、落ち着け!位置がバレる!」
そしてその場から逃れようと、背にしていた家から離れた瞬間に兵の頭が吹き飛んだ。
狙撃位置から死角を選び、廃村を離れ、森の中へ走った。確証はないが、おそらくボウガンのような音の出ない武器で葉の塊を打ち落としたようだった。音もなく、どこに潜んでいるのかを探るために……
奇襲作戦は隠密部隊に一時間ごとに定時連絡を入れる決まりになっていた。しかし、作戦が開始されて十時間後、部隊から連絡が入ることはなかった。
終わり。
三題噺のキーワード。
【ヤドリギ】【眼帯】【合図】