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美女が魔蟲  作者: 森山明
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よろしくお願いします

 気が付くと目の前には祠が。手の甲に残るクシナ様のプルンとした唇の感触を噛み締めつつ、祠の中にある拳程ある勾玉を手に取る。凝視するが何も情報が表示されない。そういえば<鑑定>のスキルは取っていなかった。最初スキル選択の時のリストにチラッと見たんだけどね。


 まぁ、使えばわかるよね、クシナ様曰く種族特性が得られるとのことだし、ということで早速使ってみようかね。


「ふぅ~、では参ります」


 深呼吸後、勾玉を胸へと押し当てる。翠の光が溢れだし、辺りをつつむ。光が収まったのを確認すると、目の前に、


 《新たに種族特性を獲得しました》


と出ている。


「おし、確認しようかね。って、何気にここに来て初めてステータス見るなぁ。ついでに色々見てみようか」


 本来なら最初に確認すべきではあったのだが、あまりにショッキングな事態に陥っていたため、忘れていた。


 先にアイテムボックスとかから見てみることにしよう。


 初期の持ち金は〔3000イェン〕となっている。イェンが通貨か。まあいいだろう。


 アイテムボックスの中には、〔初心者用回復薬×10〕と〔最低級裁縫道具〕そして〔ペットの卵〕とあった。


 〔ペットの卵〕は、プレイヤーにひとつずつ配られるものでログアウトできる場所でしか召喚できない。これはこのゲームの特性上生き物と戦うが多く、攻撃される恐怖や痛みを癒すための精神安定剤のようなものらしい。また、倫理観の低下を防ぐため何かを育てさせ愛でさせようということとのこと。


 そのため出てくるペットは現実にいる動物がほとんどだ。プレイヤーの情報をもとに幾つか候補を選抜し、あとはランダムで決めるらしい、コンピュータが。


 アイテムボックスからバスケットボール大の卵を取り出すと、


 《羽化まで、あと10秒》


 どんなペットが出てくるんだろうか、ドキドキする。


 卵にヒビが入る。加護が加護だけに少し不安だが、中からキューキューと鳴き声が聞こえる。期待大。頑張って生まれてこーい。


 時間がゼロになると同時に卵が左右に割れ、中から勢いよく何か紫色の生き物が飛び出してきた。地面に着地したそれを見ると、なんと、紫色の虫だった。


「ここでも虫かぁ。ってデカッ……これはカミキリムシかね。」


 虫だったことはまあ、心のどっかでそんな気もしていたのでいいとして、ただデカい。六十センチはある。


「デカすぎてよくわからなかったけど、キミはあれか、ムラサキアオカミキリだよね」


 どうやら合っているらしい。キューと鳴き頭を上下させる。なにこれ、意外とカワイイ。


 その大きな複眼と、スリムな胴体。なによりその光沢のある少し青っぽい紫の体色が美しい。私が採取したことのある虫の中でもタマムシ、ハンミョウ、カラスアゲハと並んで美しかった。


 当時この四種の虫を私の中では四天王と呼んでいた。なんだか中学生時代に戻りたくなってきたよ。


《名前を付けてください》


 気付かなかったが名前を付けねば。なんにしようか、う~ん、どうしよう。


《リーラ》


 リーラとは、ドイツ語で紫を意味している。厳密には薄い藤色なのだがカワイイから良しとしよう。


 なぜドイツ語かといえば一時期、ドイツ語って超かっこいいと思い密かに辞書まで買って調べまくっていたからだ。その名残が出てしまった。


「よろしくね、リーラ」


 キュッキューと鳴きながら体を上下させるリーラだが翅を広げ私の左腕へと飛びついてきた。そこから肩に背中に頭の上にと移動し結局は最初にとまった左腕へと収まった。そこが気に入ったらしい。


 なんだかいろいろあったが早速本題の種族特性を確認しよう。とその前に時間を確認せねば。


「ゲーム時間は午前八時十分か。結構過ぎてるね。現実世界ではっと、え~だいたい午後六時三十分かな」


 現実の十五分がゲームの一時間。分かりやすい。夜ご飯が運ばれてくるまでには一旦ログアウトしなければならないから、諸々確認を終えたらやめるとしようか。


「どんな能力を覚えたのかな~」


キャラクター名

 <フウカ>


性別

 <女>


種族

 <蟲人(蟷螂)Lv.1>


種族特性

 <生命力自動回復(小)>

 <生命力・魔法力吸収(小)>

 <鎌系武器補正>

 <不意打ち時クリティカル率上昇>

 <眷属>      


ステータス   

 <生命力> 300

 <魔法力>  30

 <筋力 >  20

 <防御力>   9

 <智力 >   5

 <素早さ>   9

 <器用さ>  22

 <精神力>  10

 <運  >  25


スキル

 <鎌1>

 <二刀流1>

 <隠密1>

 <奇襲1>

 <防具(布)1>

 < >

 < >

 < >

 < >

 < >


装備

 武器

  右1<初心者用ショートソード>

   2<初心者用枯れ木の杖> 

   3< >

  左1< >

   2< >

   3< >


 防具

  頭 <初心者用薄い皮の兜>

  胴 <初心者用薄い皮の鎧>

  手 <初心者用薄い皮の腕当て>

  腰 <初心者用薄い皮のズボン>

  足 <初心者用薄い皮のブーツ>


 装飾

  耳 < >

  首 < >

  指 < >< >


加護

 <蟲女神の偏愛>


称号

 <孤高の蟲姫>




 新しく装備の欄が追加されていた。職業制ではないので武器や防具はみんな一緒。


 さて本命と行きますか。


 種族特性の欄に<眷属>の文字が。


<眷属> 

眷属を召喚してパーティーへと加えることができる

最大召喚登録数は自身のレベルアップにより増加する



 おぉう、これはこのボッチな状況にはありがたい。渡りに船というやつかな。ちょっと違うかもしれない。


 なにやら、称号もついているが、<孤高の蟲姫>ね。まんまだな。


<孤高の蟲姫>

独りぼっちの蟲姫さま

あまりにかわいそうなので周りの蟲系モンスターから助けてもらえるかもしれない

しかし、油断は禁物



 ほう、説明に少しムカつきはしたが、便利かもしれない。最後の一文は不気味だが。


 確認を終えたのでログアウトをしようか。まあ、ご飯と入浴が終わったら戻ってくるだろうがね。


 二時間後、再度ログインしてゲーム時間で午後六時ちょっと前。さっきまで明るかったのにもう暗くなり始めている。まだ見えるのでとりあえず里のなかで一番大きな里長の家へ向かおう。


 里長の家に向かう途中で、街灯のようなものが一斉に灯りだす。ちょっと安心した。


「お邪魔します」


 誰もいない家へ夜入るのは結構怖い。リーラがキューキュー腕を甘噛みしている。励ましているようだ。しかしリーラよ、そのアゴで噛まれるほうが怖いのだが。まあいい、愛いやつめ。


 街灯からの灯りでなんとか見えるが、何が照明なのかが分からない。こういう時のための<鑑定>スキルなのだがあいにくと持っていない。ちきしょうめ。


 どうしようか考えていると、リーラが左腕から飛び立ちテーブルの上にあった水晶の結晶のようなものの前に降り立つ。キューィとその結晶をつつき、私とそれを交互に見る。


「もしかして、これが灯りになるの」


 キュキューと頭部を上下させるリーラ。


 おおぅ、できる子だ、でかしたリーラ。お礼に撫でて進ぜよう。愛いやつめ。


 水晶の結晶のようなものも手に持ってみたはいいものの、どうしたら着くのか分からない。何やら真ん中の一番大きさ結晶が回せるようだ。


 早速左へと回してみると、部屋の中が少しオレンジがかった光にあふれた。しかも部屋中の灯りが着いているのを見るとこの部屋にある灯りのスイッチはこれらしい。


 一旦座りメニュー画面でマップを表示する。今日はもう遅いしログアウトするとして、明日はなにしようかとマップを見て予定を立てる。


 クシナ様はこの里内のものは何でも使ってよいと仰っていたし、ここはその言葉に甘えてみようか。いや、そうしないと私はここから出られないような気がするな。まあ、それを見込んでのあの発言だったのだろうね。


 この里がどこにあるのか分からないし、世界地図はあるけど現在地の表示や地名の表示は出ないので全然分からないのだ。そとは高レベルのモンスターがうじゃうじゃいたりしていたら確実に詰むんですがね。


 とりあえず、スキル屋へと行こうかね。珍しいものはないかもしれないが、行ってみる価値はあるだろう。せめて<鑑定>や敵の情報を見ることができる<看破>は欲しい。生産系もあったらいいな。


 他のプレイヤーがここに辿り着くまで生産し続けてみるのもいいかもしれない。どのくらい掛かるのかも分からないが。材料は死に戻り覚悟で取りに行こう。


 ペナルティは持ち金の半減と一時間の経験値獲得量減少なので大丈夫だ。お金は使わないし、経験値もそこまで気にしない。まあ最後の手段だけどね。


 明日はスキル屋行って商店巡りだね。ログアウトしようかな。っとその前にリーラとスキンシップをば。


 リーラを撫でまわした後、ログアウトしたが現在午後九時五十分。軽く足のマッサージをしていると部屋のドアをノックされる。この声は香子さんだ、何か用かな。


「入るわよ、あら意外、ゲーム中じゃないのね」


「こんばんわ。ええっと、いま出てきたところです。というか、私ってそんな風に見えますか」


「いや、あんなに楽しみにしてたんですもの、初日はひたすら入っていると思っていたわ」


「そうですか、まあいろいろありましたし、濃い時間を過ごせましたよ」


「そう、ゲームの世界はどうだったの。足に違和感とかはあったかしら」


「いえ全然なかったです。現実とおんなじでしたよ」


「なら安心ね、よかったわ。マッサージ中だったかしら」


「ええ、血行を良くしようと思いまして」


「うつ伏せになりなさい、私がしてあげるわ」


「い、いいんですか、ありがとうございます」


「いいのよ、もうこれから帰るところだったからね」


 なんという幸運。これからハッピータイムが始まるよ。


「ふぅ、なかなか大変ね、マッサージって」


「あ、ありがとうございました。このご恩は一生忘れません」


「なぁにそんな大袈裟に言っちゃってんのよ、これくらい暇があればやってあげるわ」


 こんなに幸せなことはない。事故に遭わねばこんなことを経験することもなかっただろうな。足ももしも動かせることができていたら耐えられずに抱き付いていたかもしれない。いや、抱き付いていた。というか抱き付きたい。


 あ、良いこと思いついた。


「あの、お疲れじゃないですか、もし宜しければ肩でもお揉みましょうか」


「ありがとう、でもごめんね。せっかくだけど帰ってから美空に揉んでもらうのが日課なのよね」


「そ、そうですか」


「それじゃそろそろ帰るわ。ちゃんと寝るのよ」


「はい、ありがとうございました。おやすみなさい」


 おやすみ~と言いながら出ていく香子さん。


 ドアが閉まるのを確認すると、深く深く深呼吸をし、大きな幸福感と少しばかりの悔しさを胸に毛布を被る。


「寝よ」



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