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美女が魔蟲  作者: 森山明
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よろしくおねがいします

 落ち着け、ここはどこなのか、まずそれを調べねばならない。メニューをコールしウィンドウの右上にある現在地の場所を見る。そこには、「蟲人の隠里」とあった。確かに、U字型に窪んだ地形と鬱蒼と生い茂る木々をを利用して上手いこと隠れているようだ。入ってすぐの場所には立派なガジュマルの木が生えている。その四方にはベンチが添えられており、おそらくは住民の憩いの場であったことがうかがえる。しかしこうして見回していても人のいる気配がしない。


 ここは里の入り口で門付近にいるはずなのだが、その門が存在していない。ばらばらに破壊されている。なにが起こったのか、モンスターの襲撃でもあったのか。そんなことを考えながら崖沿いに左へと進んでいく。割と大きめのの建物がある。扉はなく中は薄暗く外からではよく見えない。


「入ってみようかな、それにしても誰もいない町って不気味すぎるよ。なんか私ひとりだけ違うゲームしてないかな、軽いホラーだよ」


 よし、と気合を入れ中へと足を踏み入れる。


「すみませ~ん、どなたかいませんか~。……いないのですか~、いないのかぁ」


 しーんとしている。ここまで見事なしーんは初めてだ。中の様子はおそらくご飯屋さんではなかろうか、四人くらいが掛けられる丸いテーブルがいくつもある。カウンターの席もあるようだ。出入口の正面には何やら受付のようなものが。宿屋なのかな、下ではご飯屋さんも兼ねているようだ。内部の詳しい捜索は後にしようかな、まずは里の中を散策してみようか。


 ひとまず左回りで里内部を調べることにする。声をかけながら廻っているのだがやはり人の気配はしない、それどころか生き物の気配がしない。


 左右の崖沿いには民家が連なり、里の一番奥には五メートルほどの塀で囲まれた場所がある。その向かい側にはこの里の中で一番大きな家が建っているが里長のいえだろうか。内側は商店が三列に分けて軒を連ねている。中央の列は比較的大きな建物が三つある。見た感じ武器屋と防具屋と病院っぽい。左右の列は道具屋、服屋、書店、スキル屋と他にもずらりと並んでいる。しかし、どの店にも人の気配はない。


「あ~、なんなんだいったい。バグってやつかな。どうすればいいんだよ~」


 一通り見て回ったが、気づいたのはここを襲ったのは魔物ではなくどうやら人である可能性が高いということだ。焼け落ている家屋も少なくない。どの建物の壁にも矢傷や剣戟の跡が見受けられる。盗賊にでもやられたのだろうか。それにしては荒らされている場所がほとんどない。店先に置かれている商品もほとんど盗まれてはいないようだ。むしろ武器や防具などは壊されている。もったいない。密かに期待していたのにな。

 

 この里の一番奥にある謎の塀で囲まれた場所に来ているのだが。


「怪しい、怪しすぎる。まさかここに住民が隠れているなんてことないよね」


 入り口を探していると、他と色がほんのわずか違う場所を発見した。


「ここかな、失礼しま~す」


 中には誰もおらず、心なしか神聖な空気が流れている。中心部にはキャンプファイヤーのような、なんだこれ。なんだか見たことのある気がするけども、ああ、護摩焚きするやつじゃないかな。奥には祠のようなものが一棟。ここはなにか儀式するところかな。地面は枯れ山水のように綺麗に整われている。もったいないきがするが、神棚へと向かうためには崩さなければならぬ。なぜなら物凄く気になるのだ。見えない何かに引っ張られているかのように進んでいく。


 祠の前につき、無意識に祠の扉を開く。中には勾玉がひとつあるだけだった。翡翠で作られたのか綺麗な翠の輝きを放っている。それに触れるや否や自分の視界が黒く染まった。




 

「――ぉ~い、起きて~。起きないとイロイロしちゃうぞ」


「ふぁはっ、あっあれ、どこよここ」


 目が覚め周りを見ると、さっきまでいた祠の前ではなくなんというか、神社の社の中なのか。


「はぁん、もうこれからがイイところだったのにぃ。まあいっか、やっと目を覚ましたわねぇ」


「えっと、どなたですか」


「私は蟲神。紅緑玉皇蟲のクシナよぉ」


「ち、蟲神ってことはあの加護の」


「えぇそうよぉ。あぁんやっぱり生で見たほうがステキよねぇ。ゾクゾクしちゃうわ」


 目の前で何やら要らぬ妄想を展開しているのは、蟲神クシナ。美しい妙齢のお姉様だ。シルエット的には市松人形といったところかな。黒髪のおかっぱ頭で、目はやや垂れ目で優しそうな印象を持つが、さきほどから絶やさぬ微笑みと目元にある泣き黒子が扇情的である。サイコーです。


 私の身長が百七十センチと割と高めなのだが、私とそう変わらない。足元を見ると花魁さんが履くような下駄のようなものをはいてる。百六十センチくらいか、それでも女性としては高いほうではないのかな。それにしてもスレンダーと言っていいのか結構ありそうなのだが、着物だからよくわからん。


そのお召し物は翠の鮮やかな着物だ。ところどころに紅いラインが入っている。グラデーションが素晴らしく美しい。


「あの、ここはどこですか、それよりもなぜ私をここに」


「ここは私の神殿よぉ。見た目的には神社なんだけどねぇ。」


「はぁ」


「ぅうん、その呆けた顔もいいわぁ。ああ、そうだったわ。なぜ貴女をここに連れてきたのかを説明しなきゃねぇ」


「あぁはい、なぜなんでしょうか」


「あの里にあるものは全部勝手に使っていいわよぉ」


「使っていいって、そんなこと良いんですか」


 ゲーム的に考えてそれはマズいんじゃ。


「使う人もいないしねぇ、それにあんまりランクの高いものは残っていないからねぇ」


 そう寂しそうに呟くクシナ様は、より一層美しく見えた。このシリアスそうな雰囲気でこんな風に見てしまう私の眼は腐ってるかもしれない。


「そういうことであれば有難く使わせてもらいますが、いったい何があったんですか」


「それは言えないわぁ、いずれわかるわよぉ。その時は、任せるわよぉ」


 任せた、とはなんぞや。


「任せたって何をですか」


「それも、い・ず・れ・ねっ」


 鼻先をその白魚のような指で軽くつつかれる。何かあるようだが、余計な詮索はやらないでおこう。いずれわかるのだし、今はそんなことよりも鼻に集中するのだ。感触と匂いを感じろ。考えてはいけない。


「伝えたいことはこれだけだけどぉ。頑張ってね、敵はモンスターだけではないからね」


「それって」


「さて、もう時間よ。祠の中の勾玉で新しく種族特性が覚えられるわぁ、使っちゃってねぇ」


「あれってそういうアイテムだったんですか。というか種族特性って追加で覚えられるんですね」


「一応はねぇ、激レアものなのよぉ」


「そ、そうなんですか」


そんなものを最初にもらえるのか、ってからだが淡く光り始めた、もうお別れかな。


「ぅふふ、それじゃあまた会いましょう。御武運を」


「はい、ありがとうございます。ではまたお会いいたしましょう」


 別れの言葉を交わすと光が一層強く輝きだす。するとクシナ様が私の手を取り、甲の部分に口づけを。


「ぬわぁ、クシ――」


 クシナ様と言い終わる前に光の粒となって霧散してしまった。一片の悔いなし。このまま昇天するならばしてしまえ。それほどまでに私は浮かれていたのでした。


「頑張ってちょうだいねぇ、見てるから、ずぅっと」

 

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