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よろしくお願いします
午後、虫くんたちは解体作業、みんなは蟲化した身体に慣れるために我が眷属を交え模擬戦闘をしていた、ウルちゃんは雷電の背に乗りお茶を飲んでいるけどね。一方私はと言うと解体作業の現場監督と言う大義名分を掲げて休んでいた。
暇だ、解体作業も私が手を出したら逆に足手まといになるくらいに滞りなく進んでいる。狩りにでも行くかな、他のみんなは蟲化を解けばいいのだが、ここは私ひとりでフィールドに出てみようと思う。
考えてみれば純粋に私ひとりで戦闘をしたというのは一回もない。それは仕方のないことではあると思うのだが、ここ『深森』のモンスター相手に私がひとりでどのくらいまで通じるのか、興味はある。
久しぶりに弓でも使ってみるか、<弓>と<二刀流>のスキルを入れ替えよう。スキルがなきゃ弓が撃てない、武器が二本持てないと言うわけではないが今回は一人なので、遠くから弓での射撃で先手を打ちたい。少しでもダメージを底上げしておきたいし、物理攻撃と魔法攻撃の両方を駆使して臨機応変に対応したい。いつでも魔法を使えるように片手は杖を持っていたほうがよいだろう。まあ私も<蟲化>するし、攻撃面では不安はない。
「リリーちゃん、ちょっといいかな。いまから外出るから、すぐに戻るよ」
「分かりました、では眷属たちは模擬戦闘中なのでもう少しお待ちください」
「あぁいや、今回は一人で出るよ、腕試しだね」
「それは……少々危険なのでは? いくらなんでもお一人で行かれるのは賛成しかねます」
やられたとしてもプレイヤーなので死に戻るだけなのだが、ここに住む人たちは違う。殺されたら終わり、私たちとリリーちゃん達とでは命の重みが違う。今後彼女たちを率いていくには肝に銘じておかなければいけないことだ。
「たしかに危険ではあるけどさ、今の私の力がどのくらいか、ここの敵たちにどれほど通用するのか、知っておきたくてね。それに里の入り口のすぐそばでやるから」
「はぁ、わかりました、危ないと思ったらすぐに戻ってきてくださいね」
「うん、わかったよ。ごめんね、心配かけて」
「そこは、ありがとうって言ってほしいですね、フフッ」
「っはは、そうだね、ありがとう。じゃあ、行ってくるよ!」
フィールドに出て、いつものように木に登り周りを見渡す。油断はできないので<蟲化>しておく。いつ見ても私の肩から生えてくる鎌は戦慄するほどに切れ味よさそうだ。
前方にうごめく影発見。あれはオークだな、木の根元を掘っているのを見るとなにか食料を探しているのだろう。あいつら、あれでああ見えて肉はたまにしか食わないらしいな、しかもどちらかというと魚のほうが好きだとか。意外だ。
そんなことを考えながら私は弓に矢をつがえ、狙いを定める。オークまではさほど遠くなく、風もほとんど吹いていない。
「エンチャントポイズン……」
紫と黒のエフェクトを纏った弓矢。毒に掛かるかは確率次第なのだが、距離もあるし近くに来るまでには毒状態になってるだろう。生命力が高いから弓だけでは仕留められないだろうが、最初に毒状態にしておけば後々楽になるだろう。
「……くらえっ!……良し、次!」
初撃は見事にオークの横っ面に命中。フギョーー! と醜い悲鳴を上げ、武器を手に取りこちらへと走ってくる。当たるのであればどこでもいい、とりあえず連射しよう。
立て続けに毒矢を食らったオークは毒の効果か口から泡を吹き目を血走らせ、おそらくオーク自身は走っているつもりなのだろうが少しだけ早く歩いてる状態だ。
ここは新しい雷魔法の呪文を使ってみよう。結構前から使えたのだが魔法自体使う機会が少なく、雷魔法と言えばサンダーバードを使っていたので、忘れていた。
「サンダープリズン!」
杖の先から放電し、振り下ろす。オークの頭上から十数本の雷の柱が奴を囲むように降り注ぐ。それぞれの柱が放電し電気の網によって囚われる。触れるたびに皮膚が焦げダメージが入っているので毒も合わせて直にくたばるだろうが、時間がもったいない。仕留めてしまおう。
「サンダーバード!」
電気の小鳥がオーク目がけて飛んでいき、吸い込まれるように奴の頭に突き刺さる。一際大きく放電すると口や鼻、耳から煙を出して力なく倒れていった。
終わったか、オーク一匹ではレベルアップするわけもないな。さてと、次だ次。
それから一人での狩りにはまってしまい、完全に日が暮れるまで続けてしまった。
一人と言うものは案外いいもので、味方を気にせず攻撃できるし強そうな敵にはこそこそと時間をかけて対処できる。獲得できる経験値も一人のほうが多いのだ、そのぶん危ないけど。
十匹近くモンスターを狩って、レベルも二つも上がった。血狂い蟷螂を倒せたのは大きいな、ほとんど魔法だったんだけど。サンダープリズンが非常に有効だった。暴れれば暴れるほどダメージが入っていく、もちろん何度か破られそうになったが、ギリギリ耐えていた。
種族
<蟲人(蟷螂)Lv.40(+2)>
種族特性
<生命力自動回復(小)>
<生命力・魔法力吸収(小)>
<鎌系武器補正>
<不意打ち時クリティカル率上昇>
<眷属>
<飛翔>
<木偶作成>
<蟲化>
<改蟲>
<創虫>
ステータス
<生命力> 450
<魔法力> 150
<筋力 > 34(+2)
<防御力> 15
<智力 > 15
<素早さ> 23(+1)
<器用さ> 31(+1)
<精神力> 15
<運 > 148
スキル
<鎌 35(+1)>
<弓 16(+4)>
<隠密 35(+2)>
<奇襲 30(+2)>
<投擲 24>
<軽業 34(+1)>
<看破 15>
<雷魔法 27(+2)>
<毒魔法 29(+1)>
<回避 10(+1)>
<消費魔法力軽減 30(+2)>
里へと戻るともう暗いからかリリーたちはおらず、虫くnたちが未だにせっせと働いていた。だいぶ片付いたな、見晴らしが良い。今日はもう遅い、虫くんたちは朝から働きづめだ、ということで、集合ー!
ミミズ君たちを除いた四種の虫くんたちが私の周りを取り囲む。何をするかと言うと、レベルも五の倍数と言うことで新しい眷属を召喚しよう。
「来い! 我が眷属!」
魔法陣が輝き、そこから出てきたのは。
棘油蟲 「コクロ」LV.1
頭部、胸部、肢に鋭い棘を持つゴキブリ
大変臆病で索敵能力、危機察知能力、加速力に優れている
スキル
<体当たり>
<火魔術>
<回避>
<直感>
<索敵>
<加速>
ステータス
<生命力> 450
<魔法力> 200
<筋力 > 8
<防御力> 12
<智力 > 14
<素早さ> 20
<器用さ> 12
<精神力> 12
<運 > 10
出てきたのは棘のついたドデカいゴキブリ。コクロって名付けた、なぜならゴキブリだから。こうしてみると普段、家などで見た時に感じる不快感と嫌悪感はそれほど感じない。やはり奴は小さくてコソコソしててギトギトしてるのがダメなのだろう。大きさはゴールデン・レトリバーくらい、デカい。デカい虫はもう慣れたので今更気持ち悪いとも思わない。
虫くんたちを引きつれて家へと帰る。ケムシさんたちは毛が気持ちいいので家の中へと連れ、あとは庭で待機している。フサフサ、ぶよぶよ、クマケムシ最高! ウルちゃんもきっと気に入ってくれるはず。
次の日、私はリリー用防具のために僧兵の装束をネットで調べた。外部のデータを持ち込むことは出来ないので、できるだけ重要なところをひたすら覚えた。これでも記憶力には自信がある。ログインしたら速攻で何かに書き写したらいいだけだ。それに形さえ覚えていれば何とかなるだろう。
ログインして、みんなの様子を見回る。ウルちゃんはケムシさんに囲まれ、幸せそうな顔をして寝息を立てていた。昨日も触った途端に恍惚とした表情をしていた。良かったね、ウルちゃん。あとスミンちゃんも。
最初に作るのは裏頭っていう頭巾。別名、弁慶頭巾って言うらしい。そして今までなぜ試さなかったのか不思議だが、木偶子と一緒に制作活動をすることにした。彼女には布の裁断と仮縫いをしてもらおう。昼までにどれくらい済むのかな。
〔銘:鬼若 蟲糸の裏頭〕
フウカ作 頭巾
レア度:C 品質:B
防御力:10+ 耐久値:100
重量:1
特殊効果:防御力上昇(微)
刺繍:クリティカル率上昇(微)
僧兵が頭に巻く頭巾
風通しが良い
〔銘:鬼若 蟲糸の裳付衣〕
フウカ作 僧衣
レア度:C 品質:B
防御力:22+ 耐久値:100
重量:2
特殊効果:防御力上昇(微)
刺繍:クリティカル率上昇(微)
僧侶が身に着ける衣
中に胴を着こみ防御面も安心
しかし袖がない
〔銘:鬼若 蟲糸の括袴〕
フウカ作 袴
レア度:C 品質:B
防御力:15+ 耐久値:100
重量:1
特殊効果:防御力上昇(微)
刺繍:クリティカル率上昇(微)
袴の裾を上くくりにし、脛巾をつける
ことで動きやすくした
〔銘:鬼若 蟲糸の手甲〕
フウカ作 手甲
レア度:C 品質:B
防御力:10+ 耐久値:100
重量:1
特殊効果:防御力上昇(微)
刺繍:クリティカル率上昇(微)
厚手の手甲
血狂い蟷螂の棘殻で補強されている
〔銘:鬼若 蟲糸の足袋〕
フウカ作 足袋
レア度:C 品質:B
防御力:10+ 耐久値:100
重量:1
特殊効果:防御力上昇(微)
刺繍:クリティカル率上昇(微)
厚手の足袋
血狂い蟷螂の棘殻で補強されており
蹴りの威力が微増
よし、ただいま昼前、二人でやったので製作時間が短縮された。裳付衣の袖はほぼなくした。見た感じ荒々しくなっているがこれをリリーが着てるのを想像すると、大変素晴らしいことになるだろう。なにしろ袖がほぼないのだ、腕を動かすたびに見えるはずだ、魅惑の腋が、神聖なる横乳が! これぞ、萌えってやつだね。なにげに括袴がカボチャパンツに見えてしまう。
全て着込んで、武器を持てば、萌える弁慶ちゃんの出来上がりだ。
我ながら恐ろしいものを作ってしまったようだ。




