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よろしくお願いします
目の前でリリーと重位が手合せしている。腕が増えたおかげで以前に増してパワーが増しているようだ。はやいとこ慣れてほしいな、私はそれまでに武器と防具を作らねば。
武器は刺又にしようかな、刺又で抑え込んで薙刀で斬るみたいな。これだけだと対多数戦では不利な感じだからもう一つ、長巻を作ろう。
防具はどうするのかというと、僧兵チックにしようと思う、なぜかというと薙刀を持ってたからと言うだけなんだけど。新しく作る武器もそれにあわせて考えていたりする。
まず何を作ろう、武器からかな。僧兵の格好なんてだいたいのことしか分からない、頭に何か巻いてたなぁってくらいだ。
まずは刺又からだな、刺又っていうと学校なんかにあったものがすぐに思い浮かぶけど、今回作るのはガチの刺又。棘がいっぱいの抑えてるだけなのにダメージが入っちゃうようなやつを作ろう。
柄にはシヴァの短槍と同様に樫の木を使おう、まあそれしかないからね。刺又の又の部分は何にしようかと考えたが、血狂い蟷螂の棘鎌が余ってるから使ってしまおう。切れる刺又、斬新というかもはや捕具の範疇を飛び越えて別の武器になっているような気がするが気にしないことだ。朝食までに作ってしまおう。
〔銘:沫血 棘付き刺又〕
フウカ作 刺又
レア度:B 品質:B
攻撃力:25+7 耐久値:100
重量:4
特殊効果:捕縛(微)
棘付きの刺又
刺又だが刃がついていて、敵を抑え
込みつつダメージも与えられる
こんなもんだろう。柄には堅蛙の皮膚を巻き付けて補強して、敵が柄を掴めないように刺々しく先のほうには血狂い蟷螂の棘殻を使っている。
気付けばリリーは朝食を作りに戻っていた。ちゃんと蟲化を解いてから行ってんのかな、朝起きたらリリーがいきなり四本腕になっているなんて、どんなホラーだ。
次に作るのは長巻だ、これは太刀の柄を長くしたもので、誰にでも使え戦うことができる武器だ。問題は刃の部分なのだが、これにも血狂い蟷螂の棘鎌を使った。この棘鎌しか使えるのもがないから仕方ない、鍛冶も出来ないしね。【シェイプチェンジ】を使ってできるだけ刀っぽく伸ばしていく、棘も邪魔なんで取ってしまおう。こんなんで武器として使えるのかね。
〔銘:圧切 血狂い蟷螂の長巻〕
フウカ作 長巻
レア度:B 品質:B
攻撃力:28+8 耐久値:70
重量:3
柄が長く誰にでも扱いやすいが
防御には適していない
刀と言うより鉈のような使い方が
好まれる
柄にも鞘にも堅蛙の皮膚を巻く。使い勝手がいいのだ、ゴム質で防御力も上がるし滑り止めにもなる。一応長柄武器に属しているようだが、薙刀や刺又よりはリーチは短い。懐に潜られたときに対処しやすくなるだろう。
リリーの腕は四つあるのだがひとつは武器は持たせないでおこう。臨機応変に対処できるようにするためだ。
防具の僧兵のやつとかは一度ログアウトしないと外部にアクセスできないので明日作ることにしよう。今日はこれから里の改修だ、クシナ様にもらったもうひとつの種族特性を使ってね。
誰か後ろにいるような気配がしたので振り返ると頭にツノを生やし四本腕のリリーが近づいてきていた。余程気に入ったのか、まだその状態なんだ。
「あの~フウカさん、ご飯の用意ができましたよ。皆さんお待ちです」
「おお、ありがと。リリーの新しい武器出来たよ、あとで使ってみてね」
みんなこのリリーを見てどう思ったんだろうか、スミンちゃんとかは泣いたりしちゃいそうだけどね。
その後はいたって普通の食事となった。みんなリリーの状態に食いつきすぎるわけでもなく、嫌悪するわけでもなく、スムーズに説明できた。おそらく朝食を食べる前にリリーが説明していたのだろう。そしてやりたい人は気軽に私に言ってね、と宣伝もできた。
みんな改蟲には肯定的だ、なぜなら普通の状態に戻れるのも大きいがついでに襲撃者の話もしておいたからだと思う。手っ取り早く強くなれるからね。
ウルちゃんにも襲撃者のことについて聞いてみた。ウルちゃん曰く誰か悪意のあるものが侵入しようとしていたのは事実だが、結界を破れるほどの実力もなかったしもう少し相手の実力を見極めてから言うつもりだったらしい。
謝られたけど別にいいか、失敗は次に活かせばいいってことで。
「それはともかく、皆はさ、どんな蟲になりたい? 私はこれから里を改修するつもりだから、何にするか決まったら教えてね」
「では、私はフウカさんの手伝いをしましょう、一人では大変でしょうから」
有難い、<創虫>で創れる虫ってのがどんな奴か分からないから甘えることにしよう。我が眷属たちも見本としておいているので使うことができないしね。
「<創虫>! 」
庭に出てとりあえず唱えてみると、創虫で創ることが可能な虫の一覧が出てきた。
・アリ
・ハチ
・クモ
・ミミズ
・ケムシ
ざっくりとした一覧だが、分からないことがいくつかある。それはどれだけの種類創れて、どれだけの数創れるのかと言うことだが、やってみよう、少し楽しみでもある。まずはアリでいろいろ試してみよう。
「す、すごいですね、虫の大群を率いる女王みたいですよ、フウカさん」
「う、うん、壮観だね」
目の前にはそれぞれの種類ごとに整列している巨大な虫たちが静かに私を見ている。ちょっと怖い。クロアリにミツバチ、ジョロウグモ、クマケムシ。ミミズの種類は分からないが普通のミミズだ。クマケムシは毛がフサフサしてて気持ちいい。
いろいろやった結果、聞こえは悪いがお金で解決できる。各種一匹から百匹まで、一匹創るごとに<5イェン>請求され、大きさも十センチから百センチまで、十センチごとに<10イェン>ほど請求された。全然高くはないので大盤振る舞いさせてもらった。使ったお金はどこにいったんだろう。
改めて私の前には各種十匹づつ最大まで大きくさせた虫たちがいるのだが、これ全部で<5,250イェン>なのだから安いものだろう。
みな引き連れて、とりあえず里中央の武器・防具屋、病院を取り壊そう。取り壊して使える柱や板などは取っておいて、跡地は畑にしよう。なぜかというと、ミミズの活用はこれしか思いつかなかったのだ。
そこまで建物は単純な造りなので昼前には取り壊し自体は終わった。中のものは貴重なものは無いのだが武器・防具屋からインゴットや鉱石が見つかった。そしてなんと、いくつかスキル原石も手に入れることができた。
ゲームを始めたばかりに行った探索でも見つけられなかったのは、おそらく大事に隠されていたためだ。崩した後に見つけることができたからね。
<診察><調合><装飾>この三つを見つけたわけだが、正直<診察><調合>はグロリアがいるからあまり要らないんだけど、取れるものは取っておこう。
「よし、ではミミズ君たちはこのまま畑を耕して! あとは民家の中を整理して荷物を運び出そう!」
私の号令にもぞもぞと動き出し、各々民家へと散らばっていった。リリーはもう昼食の準備をするために家へと戻っている。私も戻るとしよう。
家の庭ではセキ姐とユーラちゃんが戦っていた。セキ姐は本気で打ち込んでいるように見えたが、さすがに霊皇様の護衛だユーラちゃんはまだ余裕なようだ、剣もカットラス一本しか使っていないし。
それを部屋の中から微笑ましく見守る巫女姿のウルちゃんとその隣にシヴァに抱きかかえられ二人に撫でられウトウトとまどろんでいるスミンちゃん。気持ちよさそうだ、両方とも羨ましい。
私に気付いたのかウルちゃんが手招きして私を呼んでいる。
「どうしたの、なにかあった?」
ウルちゃんに近づき一緒になってスミンちゃんを撫でまわす。気持ちいい、舐めまわしたい。イカン、一瞬思考が気持ち悪くなっていた。
「フウカ殿、妾は決めたぞ。妾は昔から蝶が好きでのぉ、空を優雅に飛んでみたかったのじゃ」
ウルちゃんは蝶になると決めたらしい、イメージとぴったりだし、きっと可愛いに決まっている。しかし残念ながら飛ぶには<飛翔>の種族特性の原石が必要になる。まあ、もうじきアメリアに行くことだし、そこで見つけよう。
「わかったよ、それじゃあまずは、その巫女装束のままだと翅が出ないから、この腹掛けを着てね。そしたら翅がちゃんと出るはずだから」
さっき見つけた腹掛けと短パンを渡し、ウルちゃんは着替えに部屋へと戻っていった。腹掛けとは前掛けみたいな金太郎がつけてるやつだ。
「着替えてまいったぞ、ではよろしく頼む」
ウルちゃんの透き通るような白い背中を目に焼き付ける。眼福、眼福。
「じゃあ、はじめようか、ティルダはウルちゃんの隣に。……<改蟲>!」
リリーの時と同じようにティルダを魔法陣がスキャンしていく。砕けた魔法陣の欠片がウルちゃんへと降り注ぐ。
こちらの作業は終わり、目でウルちゃんに合図し、<蟲化>を促すとそれに気付き静かにうなづく。
「では参ろうか。……<蟲化>」
お馴染みの翠と黒の光に包まれ、次第に光が収まっていく。
そこから現れたウルちゃんの姿は、まず目に付くのはその大きな翅。キアゲハのような三角に近い翅を持っている。頭には二本の触角、喜ばしいことに手足に増減はなかった。そのすべてが真っ白で瞳だけが赤く、翅を羽搏かせば鱗粉が舞い神々しくもある。
「おぉ~、ウルメお姉ちゃんきれい」
スミンちゃんは気に入ってくれたようだ。当の本人はと言うと自分の変化に驚いているようだ。リリーの変化よりはだいぶ控えめではあるが、本人にとっては相当な変化だろう。
「ほお、すごい、すごいぞフウカ殿! 霊力が漲るようじゃ」
「気に入ってくれてよかった、それにしてもよく似合ってる、きれいだ」
本当にきれいだ、なぜかわからないが、翅と触覚が付いただけなのだが、可愛さ三割増しだ。
「そ、そうかえ、そう言ってもらうとうれしいのぉ」
ちょこっとだけ頬を赤らめる、褒められると誰だって嬉しいからな。
「いいなぁ~、ねえ、ボクもやってよ!」
「そうじゃな、やってみるといい。して、成る虫は決まったのかえ?」
「う~ん、あっそうだ、シヴァちゃんと一緒がいい!」
実際、スミンちゃんとシヴァは仲がいい。シヴァと一緒が良いと言われてにっこりと笑っている。
「おっサソリか~、早速やってみるか。シヴァもよかったな。ではでは、二人並んで……<改蟲>!」
いつもの魔法陣が出現し、砕け、降り注ぐ。
「できた? じゃあいくよ! <蟲化>!」
いつもの演出、そこから現れたスミンちゃんは、私と同じように肩のところからごついハサミをもった腕が生えていた、そして二本のしっぽがサソリの尾になっている。
「おお! カッコイイ! すごいけどシヴァちゃんのハサミとは結構違うね」
しゃがんでハサミ同士を見比べるサソリな二人。やっぱ仲いいな。
「よかったのぉ、スミン。しかし残念じゃのしっぽがこれでは、もふもふ出来ぬではないか」
「たしかにそうだね、でもほとんど前のままと変わらないし、<蟲化>を解けば元通りだからいいじゃないか」
姫様には不評なようだったが、そう言いつつもスミンちゃんのアゴ下を撫でまわしている。なんだかんだでいつも通りだ。
「皆さ~ん、お昼の準備ができましたよ~。ってあら? ウルメ様もスミンちゃんもやったんですね、とてもお似合いですよ」
「そうじゃろ、しかし妾はリリー殿やスミンと違いあまり変わらなかったのう。本当は妾も腕が欲しかったんじゃが……皆が羨ましい」
マジかよ、お姫様と私は少し美的感覚がずれているようだ。虫の肢が生えるのと、人の手が生えるのとは気持ちの悪さが全然違う。美女に無闇矢鱈と手を生やしてはイカン。
こちらが蟲化で盛り上がっていたので気付かなかったが、庭先で戦っていたはずのユーラちゃんとセキ姐がこちらを呆然とした様子で見ていた。それもそのはず、自分の主が、自分の妹がいつの間にか虫混じりになっていたのだから。
「ウ、ウルメ様、いつの間にそのようなお姿に……」
「スミンが、スミンが……なぜサソリに」
近づいてみたがいっこうにこちらを見ない、なにやらブツブツ呟いてアブナイオーラを感じる。
「え~っと、二人もする?」
私のその発言に静かに頷く二人だった。
「ふはははっ! どうですかウルメ様、このユーラ、新しき力を手に入れましたぞ! 」
「見ろスミン! これでどんな奴が来ても、串刺しにしてやるぜぇ、がっはっは!」
私の目の前で、多眼で六本足の蜘蛛女と翅と腹部の生えた蜂馬女が高笑いしている。こうしてみるとユーラちゃんの異形感がすごい。いっぱい目があるし、いっぱい足生えてるし、ちょっとキモイ。足は蜘蛛のものになっているが本人が嬉しそうだからいっか。でもあれってお尻から糸出せるのかな、もしそうならかなり変態チックな衣装にしないと活用できないんだけど。
セキ姐はなんか混沌としてるな。人と馬と蜂が混ざってる。腰の部分から蜂の腹部が生えていて針を何度も出し入れしている。おそらく毒もあるだろうから強力な武器を手に入れたはずだ。
みんな一気にこんなになってしまったのだが、人によって変化の度合いが違うな。なぜなのかは分からないが、こうして全員の蟲化した姿を見ると同族意識というものが沸いてくる。自分と同じ蟲人とはまだ会えておらず少しだけ孤独を感じていたが、クシナ様によって新たな道が見えてきた。
いないんだったら、作ればいいじゃん。




