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美女が魔蟲  作者: 森山明
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よろしくお願いします

 前方では雷電が賊からの攻撃を凌いでいる。剣を打ち付けるたびに弾きかえされて通じてるようには見えないのだが、万が一がある、早くいかねば。


「雷電、お疲れさま!」


 雷電の頭の横に降り立ち労いの言葉と共に頭を撫でる。虫とは思えないほどの太い肢を踏み鳴らしている、いささか嬉しそうだ。


「んああ? なんだてめ……は……」


 先頭にいたモヒカン男が威勢よく威嚇してきたのだが、私の姿を見て言葉を失っていった。なんかしたっけ? 少なくとも私は見覚えない。


 先頭の男は呆然としていたが、他の男どもは私のほうをチラチラと見てなにか話している。ようやく我を取り戻したのかモヒカン男が話しかけてきた。


「お、おい女。てめぇこの前、アメリアで暴れた蟲人じゃねえのか?」


 ああそっか、あの時にその場にいたのか伝聞かはわからないが、私の暴れっぷりを知っているようだ。


「たぶんそうだと思うけど、そんな事よりさぁ、あんたらあの子たちになんか用? お友達って感じじゃなさそうだったんだけど」


「うるせぇ、てめぇには関係ぇねぇだろうがよ! どきやがれ!」


 モヒカン男の挑発的な言動に驚いたのか手下の男たちが急いで窘める。


「頭ぁヤバいですよ。あの女、化け物なんですぜぇ、もうあいつらの事諦めたほうがいいっすよぉ」


 化け物って失礼な。化け物っぽくなるだけだから、化け物じゃないんだから、失礼な野郎たちだ。


「おい蟲女! どかねぇなら、わかってんだろうな!? 野郎どもやっちまえ!」


 いやいやながらも命令に従い剣を構える手下たち、士気は最低だな。そしてこちらは士気は高い……はず、少なくとも私はやる気満々ですよ。


「まあどっちでもいいけどさ。とりあえず眠っとけ! スリープミスト!!」


 敵の周りに白い霧が立ち込める。バタバタと倒れはじめる手下たちだが、お頭のモヒカン男は歯を食いしばりギリギリのラインで耐えている。


「くぉの野郎、卑怯だぞ、正々堂々戦いやがれ」


「嫌だよ、疲れてるしもうそろそろ帰らないと、晩御飯に間に合わないからさ。じゃあ、バイバイ、スリープミスト!」


 一層霧が濃くなり、最早モヒカン男の姿が見えなくなってしまった。霧の中からモヒカン男の倒れる音が聞こえてきた。どうやら終わったようだな。


 霧が晴れ、倒れている男たちの姿を確認し、男たちの荷物を漁る。大したものはないな、ロープを持っていたからこれでこいつらを縛り上げてしまおう。男の緊縛姿なんて興味はないけど。


「う~ん、結ぶのって結構疲れるね。……まあこれでいいかな、もしかしたらモンスターに襲われるかもしれないけど、運が良ければ助かるかもね」


 後ろを振り向く、先程のお姉さんたちがお礼に訪れているかもしれないからね。うん、いないみたいだね、影も形もないな。さて、帰ろうか。


 飛んで帰ろうか、今まではそこまで高いところを飛んだことがないので、今日はある程度高度を取って帰るとしよう。


 気持ちいい、安易な感想だが実際そうなのだ。風を切る感覚、風になるってこういうことだったんだ。夜中とかアホみたいな音をさせて走っていくバイクの集団とかいるけど、あの人たちもこういう感覚が好きなのかね?


 飛行能力の関係上、今はティルダ・飛梅・尚香・グロリア・重位での編成。飛梅は私の頭にしがみつき空の旅を楽しんでいる。


 しばらく楽しんでいたが、草原をひとつの影が移動している。あれはさっきのお姉さんじゃないのかな。ちょっと行ってみようか。


「お~い! さっきのお姉さ~ん!」


 私の声に気付いたのか後ろを振り向くが私の姿が見えずにきょろきょろと周りを見渡している。残念だが上だよ、上。


 徐々に近づいていき、お姉さんの横に付ける。私に気付き驚いたのだろう、少しバランスを崩し転びかけるが急いで肩を抱き体を支え、なんとか転ぶのを免れた。それを機に速度を落とし、ここまで余程無理して走っていたのか、肩で息をし膝をついてしまった。


「おっと、ごめんね、驚かせちゃったかな。大丈夫? ほら、ゆっくりと呼吸して」


「ああ、すまないねぇ。……ふぅ、もう大丈夫だよ、それよりもさっきの奴らはどうした、倒したのかい?」


「あのモヒカン野郎たちは縛って放置しておいたよ、だから安心してよ」


「そうか、ありがとうよ。いつもだったらあいつらみたいなのに、背を向けて逃げ出すなんてことしないんだけどねぇ」


「ごめん、セキ姉。ボクがこんな病気じゃなかったら、あいつらなんかに負けないのに」


 背に担がれていたもうひとりの存在。少し忘れていたが改めてみると、白いというよりも銀色に近くモコモコしてそう。レザー装備に身を包んでいる。こちらも獣人だろうか、顔はまだ見えないが尻尾を見るにキツネかな、さっきはボクと言っていたが声は女の子だ。


「はっ、スミン、お前のせいじゃねえさ。それよりスミンもこの人にお礼言いな」


 お姉さんの言葉に従い、スミンちゃんがこちらに顔を向ける。その顔はキツネそのもの、いやキツネよりも若干人っぽいがほぼほぼキツネだ。獣度が高いな。


「あ、あのありがとうございました」


「いいよ、それよりもスミンちゃんだっけ、病気なんでしょ、うちの子だったら治せるかもよ」


「おお、本当か!? 治るんだったらそうしてもらいたいが」


「よし、じゃあグロリア先生! よろしくお願いします」


 ぶぅ~んと、羽音を響かせ現れた巨大なハエ。心なしかスミンちゃんの顔色が悪いように見えるのはきっと病気のせいだろう。


「あのボクは何をされるのでしょうか?」


「大丈夫だよ、寝てるだけでいいから。そこらへんの医者よりはこのグロリアのほうがよっぽど優秀だよ」


「ぁあ、まあ大丈夫だスミン! 信じて任せようじゃないか」


 未だ表情は引きつっているが、静かに寝転がってグロリアの診断と治療を待っている。なんというかシチュエーション的にちょっとエロい。ちなみにレザー装備は外している、これって裸扱いになるのかな、獣人は別なのかね。


 グロリアがスミンちゃんの上を飛び回る。診断が終わったのかスミンちゃんの腹部の上に降り立ち、その場で羽ばたき始める。スミンちゃんを囲むように魔法陣が現れ、光に包まれる。


「ん? どうなったんだ、嬢ちゃん大丈夫なのか」


「大丈夫だよお姉さん。じきに終わるから」


 光が収まりはじめ、グロリアにスミンちゃんの姿が見えてきた。グロリアが飛びあがり私の元へとやってきた。どうやら成功したようだ。


「どうかなスミンちゃん、たぶん治療できた筈なんだけど」


 むくりと体を起こし、静かに深呼吸をし自分の手のひらを見つめる。


「すごい、体が軽くなったみたい。ありがとうお姉さん!」


 こちらへと無邪気な笑顔を向ける。まぶしすぎるその笑顔、穢れた心には耐え難いが目が離せない。可愛い、まさしく小動物系女子。


「す、すげぇな、ありがとよぉ嬢ちゃん、助かったぜ。良かった、本当に、良かったなスミン」


 スミンちゃんを抱き寄せ頭を撫でるお姉さん。スミンちゃんは尻尾がちぎれるくらいに振っている。今気づいたが尻尾が二つもあるのだが、それが普通なのかね。


 ひとしきり感涙にむせぶとこちらを向き、口々に感謝の言葉と頭を下げてきた。普段であれば褒められるとか感謝されるとか慣れていないし、私の性格の悪さからか何か企んでいるんじゃないかとあまりいい気分にはならないのだが、今回は素直に受け止めることができた。こういうのも悪くないな。


「わかったわかった、そんなに感謝されると困っちゃうなぁ」


 なんて返せばいいのか分からないんだよねぇ。


「でもよぉ、実際スミンの病気は酷かったんだぜ、最悪死んじまうかもしれねぇ病気だったんだ。そんな病気を治してもらって感謝の言葉の一つや二つ、行くら言ってもまだ返しきれねぇ、この恩はよ」


「そうです! 本当にありがとうございました、えとグロリアさんもありがとうございました」


 そんなに重い病気だったのか、それなのに私なんかに任せてよかったのかね。そしてグロリアにまで感謝の言葉を口にするスミンちゃん、良い子良い子してあげたい。


「まあそんなに言うならひとつお願いしてもいいかな?」


「お願いですか? ボクにできることならなんでもします!」


 なんでもします、と言った瞬間に思わず口角が上がりそうになった。それを見抜いてしたのか少し警戒したように私を見つめるお姉さん。そんないやらしいことしないよ、抜け目ないことで。


「いやね、そのぉ綺麗で柔らかそうで気持ちよさそうな毛並みだなぁと思ってさ。だからちょっとだけ撫でさせてくれない?」


「うん、いいよ!」


 その瞬間に私の胸へ飛び込んできた。


 これは、フッサフサのモッフモフだ。尻尾のフサフサ感は言わずもがなであるが、特にお腹の毛が予想以上に柔らかくて気持ちいい。欲しい、この子が欲しい。


「キャフン、クワァン。ハウゥ、どうですかぁボクの毛並、気持ちいいですかぁ?」


 夢中になってしまった、数分撫でまわしていたが全く飽きが来ない。あまりの霧中っぷりにお姉さんが引いているように見える。


「あ~、気は済んだかい? まあまだ撫でててもいいんだが、自己紹介がまだだったね。アタシは馬獣人のセキ・オトロ・テキロ。セキって呼んでくれよ」


 左手はスミンちゃんを抱えて離さず、右手で握手する。


「私は蟷螂蟲人のフウカ。転星者だっけ、まあそこは気にしなくていいよ。よろしくね!」


「おお! はじめて蟲人見たぜ。それにしてもアンタ綺麗だな、そして強そうだ」


 私を見る目が少し熱い。あれ、この人って私と同じ匂いがするような感じ。


「むう、あのあの! ボクはスミンって言うの! スミン・キュビア。見ての通りの狐獣人だよっ!」


 私たちの奇妙な雰囲気を察してかスミンちゃんが割り込んできた。私の腕の上で胸を張り二つの尻尾を振るスミンちゃん。何この子、チョー可愛いんですけど。


「ところでフウカ、お前今から時間はあるか。何もないが最低限のお礼ともてなしはさせてくれないか」


 今からはちょっと無理だな、みんなに何も言ってないから、心配されちゃうよね。心配してくれるよね?


「ゴメン、うちの仲間に暗くなるまでには帰るって言ってるんだ。良かったら家に寄ってく? ちょっと遠いけど」


「フウカの家か、アタシは良いけど、どこらへんなんだ」


「向こうの『深森』にある蟲人の里に勝手に住んでるんだ」


「やっぱお前強いんだな。それよりも勝手に住んでるってのは?」


「私がここに来た時には何かに襲撃された後でね、誰もいなかったんだよ、それで勝手にね」


「……そうか、あの噂は本当だったようだね。でもいいのか? アタシらが行ったんじゃ邪魔になるんじゃないかい?」


 なんで邪魔になるなんて思ったんだろうか、もしかして『深森』に入ったことがないから一緒についていっちゃ足手まといになる~とかってこと? それよりも襲撃の噂なんてあったのか、今度聞いてみようか。


「いや全然邪魔じゃないよ、是非来てちょうだい。それに安心してよ、仲間って言っても女の子だけだし。私の他には三人しかいないからさ、にぎやかなほうが良いよね」


 まあ断らないと思うんだ、セキ姐さん、この人私と似てるからね。女の子だけって言ったとき少しだけ肩が動いたしね。


「行く行く! ボク行きたい、良いよねセキ姉!」


「ああそうだな。まあスミンがどうしても行きたいらしいし、行ってみようか」


 なんかスミンちゃんが行きたいからしかたなくな感じで言ってるけど、違うよね、鼻の穴が膨らんでるよ。バレバレっすよ姐さん!

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