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美女が魔蟲  作者: 森山明
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よろしくお願いします

「ところでフウカさん、賭けの対象だった装備やらお金やらは手に入ったんですか」


「あ、そうだったね。ちょっと確認する……っと入ってるね。でも私は使わないからな、装備は全部売ろうかな」


「でしたら武器は重位に上げればどうでしょうか。新たに買うのも、作るのも大変でしょう」


「うん、そうしようか。無いよりはマシだしね、外に出たら渡してみようか」


 やっとのことでギルドに到着し、まずは買い取り用の窓口へ。防具や要らないアイテムは全部売った。全部で<610,000イェン>となった。まあ金額は気にしないよ。


 つづいて依頼用のボードとフィールド情報のボードを見ていく。先程の対戦を見ていたのだろう、こちらを窺うような視線を感じるがそれは無視で。


「う~んなかなか魅力的なものはないなぁ」


「それは、おそらくここら辺のモンスターでは物足りないのでしょう。フウカさんはもともとモンスターの強い場所から来られたので仕方のないことかと」


「よっし、じゃあ戻ろうかな。なんかみんなと同じ事をしても詰まらないし、緊張感が違うからねぇ」


「それが良いと思いますよ。そのまえにフィールドの生態調査の依頼を受けて行きましょう、あそこら辺はまだ調査が進んでいないようですし」


 たしかにフィールド情報には里周囲の情報が少なめだ。辛うじて『木偶の森』のモンスター情報があるくらいだ。


「生態調査ってどんなモンスターがいるかとか、何が採取できるかとか調べるのかな」


「はい、珍しいもの緊急性の高いものほど支払われる報酬も高額になるそうですし、何より期限がありませんから逐一報告に訪れることもしなくていいので便利ですよ」


「じゃあそれを受けようか、今日中にはここを出ようかな」


 ギルドで登録を済まし、無事依頼を受け、今はスキル屋へと向かう途中だ。今回もギルドの受付が男でしたよ、奥で可愛い子たちが何やら作業しているのに、なぜ君らは出てこないんだ、そしてなぜお前らが出てくるのだ。まったく不思議でしょうがない。


 スキル屋では<解体><回避><直感>を買いました。<解体>はアイテムのドロップ率が高くなるそうです。<回避>は回避がしやすくなる、<直感>はあらゆることに鋭くなる、らしい。


 <直感>が一番高かった、<1,000,000イェン>もしたからね、他は<10,000イェン>ずつだったのに、それだけのスキルだということだろう。


 アメリアを出る前に素材屋で弓を作るために素材を買った。里にはあまり相応しいものがなかったから作れずじまいで、<弓>スキルは取ったはいいものの成長していない。


〔竹七節の甲殻〕

素材アイテム レア度:C 

 

タケナナフシの堅い殻、竹にそっくり

縦に割れやすいが、しなやかで折れにくい



〔暴走蚰蜒の歩肢〕

素材アイテム レア度:C


暴走ゲジの肢

細くて長いが丈夫



 この二つ、〔竹七節の甲殻〕のほうは<200,000イェン>分、これは弓だけじゃなく何かほかにも使えるかもしれないからちょっと多く買いました。〔暴走蚰蜒の歩肢〕は<300,000イェン>分買いました。矢の素材は多すぎても困らないだろう。


 宿に戻り預けていたリリーちゃんの荷物を受け取り、ここでの最後の食事を二人でとる。


「うん美味しかった。さっさと戻って探検だぁ」


「ふふっ、そうですね。私も楽しみです」



 『深森』



「久しぶりだけど、やっぱここはいいねぇ」


 大急ぎでここまで来ましたが、ここから里までは今までのように強行軍では危険すぎる。もう日が落ちているのが幸いして、モンスターは上手くやり過ごせている。


 もうすぐ里と言う時にこいつが現れました。


〔グロウブタイガー〕 LV.30


 しばし様子見とします。はじめ警戒していたのだが、次第にリラックスモードになっていく。完全に寝ころんだのを見て戦闘開始、と思ったら私たちの後ろから来たこいつに横取りされました。


〔狂血蟷螂〕 LV.38


 いつもお世話になっている棘鎌の持ち主だ。なんというか全身が刺々しい、そして硬そう。 私はもちろんリリーちゃんを含め我が眷属たちも息をひそめている。


 あっという間にグロウブタイガーがやられていました。最初の一撃でほぼ決まっていたようだが、全身棘だらけなので噛み付きもひっかきも逆にダメージが入ってしまう。魔術も使おうとしたら牽制されて妨害される。デカい図体のくせに素早い動きで追いつめて嬲り殺していました。


 いま、捕食中ですがどうしようか。里の入り口は狂血蟷螂を挟んでいるので避けては通れない。しかも加護の影響でなんとなくだが友好的なお付き合いは出来そうにないのが分かる。奇襲攻撃を叩き込もうか。


「リリーちゃん、準備はいいかな。」


「はい、フウカさんやみんなで挑めば大丈夫です」


「最初は私が奇襲を決めて我が眷属たちと相手をするから、その隙に背後から切り込んでいって、すぐに雷電と合流してね」


「わかりました、気を付けて」


 ユエナと共に静かに飛び立つ、飛梅とギフトスも十分に距離を取りながら狂血蟷螂の側面へと回り込んでいく。


 月光で影が見えないようにしながら、ほぼ真上へと着きました。他の面々も準備万端といったところだ。


「エンチャントパラライズ! 」


 棘鎌に黄と黒の粒子が渦巻く。


 後ろに下がりながら距離を取り左右前肢の付け根を狙う、頭部と胸部の境目を狙うことも考えたがどうせ一撃では倒せないのだ。それに大きな棘が邪魔しそうで万が一があってはいけないと思い前肢を狙う。この一撃で鎌をひとつでも使えなくできたら儲けものだろうから。


 右手の棘鎌は逆手に持ち、一旦上昇し後頭部方面から急降下する。できるだけ速く、静かに接近していく。


 狂血蟷螂にある程度近づいたので息を止め、翅をグライダーのように固定して滑空していく。静かな夜、呼吸の音、羽ばたく音でも気付かれるかもしれない。


 切り込む寸前に狂血蟷螂の前肢にそれぞれ上手く斬り込めるように体を捻り、斬り上げるように体を回転させ、狂血蟷螂の体に沿って水平に斬撃を打ち込む。


 確かな手応えを感じ、すぐさま狂血蟷螂に向き直り我が眷属である雷電を召喚。斬撃の跡が金色に光ったのを確認したら右手の鎌を持ち直し、左手は杖と苦無のために鎌を仕舞う。


 牽制と奇襲攻撃の効果を確かめるため苦無を左右の複眼へと投げつける。左眼に投げた苦無は鎌で弾いたが、右眼に投げた苦無のほうは撃ち落とそうとしたのだろうが、振り上げる途中で動かせなくなり頭部を屈めギリギリで避けた。


「右前肢負傷確認。って感じかな、雷電頼んだよっ、サンダーバード! 」


 電気の鳥が雷電と共に狂血蟷螂へと向かっていく。サンダーバードがいち早く腹部の柔らかいところへと特攻成功。


 雷電が黒鉄に光る体を揺らしながらドシンドシンと地響きを轟かせ前進していく。対峙すれば口吻を上下させ足を踏み鳴らし狂血蟷螂を<威嚇>している。勇ましいぞ雷電。


 ギフトスは狂血蟷螂の右眼方面から音もなく忍び寄る。いつものように巻き付いて無効化してくれるだろう。堅いから棘でのダメージも少ないはずだ。虎視眈々と狙っております。


 飛梅は左眼方面からジグザグに跳ねながら目立つように移動している。土魔術で岩石を胴部に撃ち込み、糸で顔面と中肢、後肢を狙っている。遠間からチクチクと、いやらしい攻撃だ。


 ユエナは真上から糸を全体にふりまきながら、闇魔術で狂血蟷螂の影から闇の槍で突き上げている。鎌が届くか届かないかの位置をひらひらとふらふらと、おちょくるように飛び回って良い感じに目障りだ、ナイスだユエナ。でも気を付けてね。


 グロリアは近くの木に止まって休憩中、ではなくいつでも回復できるように全員が見える位置で待機中だ。今回は体当たりは封印だね。ちなみにリア子ちゃんは私とリリーちゃんの懐に。


 尚香は、リリーちゃんと共に別行動です。


「サンダーバードっ! さて、こっからは接近戦といきましょう!! 」


 苦無を投げ低空飛行で飛びながら、黄と黒がうごめく棘鎌を両手に構えあの狂った殺戮者の懐深くに飛び込んだ。


 見上げれば怪しく光る複眼とグロウブタイガーの血液滴るアゴを震わせる。威圧感が半端ない、幾つもの修羅場を潜り抜けた強者の空気を醸し出している。


 こちらに気を取られ背後からの一撃に気が付かなかったのか、脳天に薙刀が綺麗に吸い込まれていった。リリーちゃんは飛び退きざまに右の複眼へと一撃ぶち込む。有無を言わさず尚香が毒矢をマシンガンの如く発射していくが硬すぎて弾かれている。


 わざと健全な左の前肢である鎌の下を潜り抜け、背面にて飛びながらに斬りつけていく。一瞬、全身が硬直し動きが止まる。ようやく麻痺したようだ。その隙に斬撃乱撃、すぐに解けるだろう。


 こちらに鎌を振り回しているがいいのかな、灯台下暗し、怖くて可愛い姫武者が横なぎに頭部の節を削いでいく。いいねぇ、顔に似合わず重い一撃だ。


 鎌を振るうが私もリリーちゃんもヒットアンドアウェイで既にいない。空を切る、いつまでも空を切る己の鎌にイラついたのかがむしゃらに振り回す。当たらなければどうということでもない。


 なかなか消耗した様子が見えずらい。流石にタフなようだ。


 飛梅と尚香が頭部に攻撃を加え、どちらかの攻撃がクリティカルになったようだ。効いた反射で顔を飛梅の方向へと向けてしまう。これを好機ととらえたギフトスはすぐさま巻き付き左の前肢と胸部を締め付けていく。少しずつ生命力が減っていっているので急がなければ。


「リリーちゃんっ、雷電っ、背後へ回ってちょうだい!! 」


 私にくぎ付けにして攻撃力の高い両名に背後で力の限り殴ってもらおう。リリーちゃんは移動しながら火魔法で火炎放射を浴びせながら移動していく。


 前後上下左右に飛び跳ねながら、斬りつけていく。噛み付いてくるが流石に当らない。右の複眼が潰れたころに急にバランスを崩し前のめりに倒れかけた。これは雷電による一撃で間違いない。


 勝機と思い大振りに狙っていったのが間違いだったのだろう。キラッと左側に光る線が、と思ったらいつの間にか吹っ飛んでしまった。


「な!? フウカァっ!! 」


「っ痛うぅぅ、ぬかったわ」


 しまった、使えないと思い込んでしまった。しかも胸に横一文字に金色の粒子が迸っている。これはクリティカルが入ったようだ、生命力も一撃で七割強削れてしまった。


 私のリア子ちゃんは間一髪といったところで免れたようだ。迅速に傷口へと蜜を吹きかけていく、じわじわ生命力が回復していきます。緑の風が私の体にまとわりつく、グロリアの回復魔術だ。ありがとう、助かったよ。


 立ち上がり急いで正対するとギフトスが私を斬りつけた右前肢の付け根を噛み千切っていた。


「うをおおおおおおお! 」


 リリーちゃんが雷電の口吻で跳び上がり、燃える薙刀を大上段に振りかぶり、空気を震わすが如く低く叫び。


「行っけぇぇっ、リリーィィィッ!! 」


 紅い流れ星が落ちる勢いのままに凶悪な殺戮者の首を穿つ。土砂が舞い頭部が金と紅を纏って弾き飛ぶ。遅れてガラスの割れるような乾いた音が鳴り響く。


「フウカァぁぁっ!? 大丈夫ですかっ」


「大丈夫よ、グロリア親子に回復してもらったから。んふふっリリーぃ、かっこよかったよ」


「はぅぅ、よかったです。でも最後は自分でも何が何やらで、無我夢中と言うか、よくわからなかったです」


《レベルアップしました》

《レベルアップによりステータスを任意で2箇所上げてください》

《<鎌>スキルがレベルアップしました》

《<二刀流>スキルがレベルアップしました》

《<隠密>スキルがレベルアップしました》

《<奇襲>スキルがレベルアップしました》

《<軽業>がレベルアップしました》

《<雷魔法>がレベルアップしました》

《<消費魔法力軽減>がレベルアップしました》

《<投擲>がレベルアップしました》

《<看破>がレベルアップしました》

《<回避>がレベルアップしました》

《<眷属>の「ユエナ」がレベルアップしました》

《<眷属>の「飛梅」がレベルアップしました》

《<眷属>の「ギフトス」がレベルアップしました》

《<眷属>の「尚香」がレベルアップしました》

《<眷属>の「雷電」がレベルアップしました》

《<眷属>の「グロリア」がレベルアップしました》


 大変だったがあまり実入りは少ない。ひとつしか上がらなかった。理由としては、リリーちゃんと単一パーティーではなくレギオンという複数パーティーとして戦っていたから、アップデートの影響が挙げられるだろう。


「ま、いっか。いろいろ収穫はあったしね」


 そうたくさんの収穫があったのだ。それは大きな一歩である、それで良しとしよう。


「リリーちゃん一先ず戻ろうか、もうすぐそこだからね」


「……はい、そのほうがいいですね、いつ襲われるか分かりませんし今襲われたらひとたまりもありません」


 リリーちゃんはそう一息に言い終わると、軽く目を閉じ深呼吸をして、静かに私のあとをついてきた。

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