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美女が魔蟲  作者: 森山明
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よろしくお願いします

 切れています、久方ぶりに怒っていますよ。普段であれば朝の時間帯ゆえにこの大通りは露店やその客、通行人とでごった返しているのだが、私たちの周りだけ誰も入ってこようとはしていません。一定の距離を保ちこちらの様子を見物しています。


「おいっ、このくそ女! オレらと勝負だ。対戦しろ」


「いいよ、こっちもいい加減我慢できないからねぇ」


「っな!? フウカさんいけませんよ。いくらなんでも無茶です、私の装備は宿に預けていますし。私のことはお気になさらず、短い間だけでもこんな……カワイイお洋服が着れただけで、幸せですから」


「いい? よく聞いて、私は貴女を守ると言ったじゃない。あいつは私の大切な人を傷つけたのよ、ここで引いたら女が廃るわ。でも安心してよ、忘れたのかしら、私には頼もしい仲間がいるんだってことをさ」


「おいぃいつまで喋ってんだ、いいか勝者が敗者の装備、アイテム、持ち金、全部総取りだ、いいなぁ!? さっさと同意しろよっ」


 おいおい、めちゃくちゃだなぁ。いいのかよ、そんなこと言って。条件は絶対なんですよ。


  《「ライオネル」さんからパーティー戦の申し込みを受けました。同意しますか? 》


「はいはい、全く五月蠅いわねぇ。《はい》っと」


 直系十五メートル程の円柱状に光で仕切られた。これがリングとなるようだ。


 対戦が同意されると周囲のやじ馬たちからどよめきが上がる。まあ多勢に無勢と言った感じだもんな。


「お~い! そこの君たち俺らも加勢しようか!?」


 振り向いてみるといつぞやのオークションで私が出した〔木偶王の拳骨〕を落札した人達でした。小躯族のオッサンが拳骨で作ったのだろう大きなハンマーを担いでいた。


「ありがとうございます。でも気持ちだけ受け取っときますよ。こればっかりは譲れないのでね」


 彼らの有難い申し出を退けてリリーちゃんに向き直る。自分のせいで巻き込んでしまった悲しみ、一緒に戦えない悔しさが涙となって溢れている。


「さ、リリー姫はお下がりください。私が見事、彼奴らめを退けて見せましょう。そしてその暁には姫の口づけを頂きとうございます」


「あ、あの、ありがとう。……絶対に勝ってください」


「御意に、では、参りましょうか」


 カウントダウンが始まっている。周囲はざわついている、それもそのはずなにしろ一対六なのだから。私はいたって冷静だ、心は熱く、頭は冷ややかに。


 まず相手を知ることだ。ニヤついてんじゃないよ、もう勝った気でいるのか。こいつらをよく見ると、魔法使い二人に、弓士、槍使い、両手剣使い、小盾短剣使いとバランスはいいのかな。まあ、見ただけでの判断なので詳しくは分からないのだが。


  《 対戦 はじめ 》


 カァーン、とどこからか鐘の音が聞こえ対戦開始となりました。


 敵さんは奥に魔法メインの金髪銀髪の二人が、中盤には緑髪の弓持ちが、前線は真ん中に銀髪の片手剣、右手に緑髪の両手剣、左手に銀髪の槍持ちと散開して囲むつもりのようだ。


 とりあえず詠唱している魔法メインの二人に〔角苦無〕を投げて妨害しましょう。弓持ちのお前もな。


「出でよ、我が眷属たちよっ」


 あたりからは相当のどよめきが聞こえる。まあいきなりモンスターが這い出てきたら困惑するよね。しかも、我が眷属たちは今にも飛び出さんばかりに猛っております、みんなリリーちゃんが好きなんだね。敵さんもかなりビビっているようだ。


「お、おい、なんだそれは! なんなんだよっ。眷属なんて聞いたことも見たこともないぞ」


「オメェら戻れ!! 密集隊形だ。このままだと各個撃破されっぞ」


 なかなか冷静な奴もいるようで、睨み合いが始まりました。


 先手必勝。


「スポイルミスト!」


 腐敗の霧です。容赦はしません、霧によって視界を防ぎ、腐敗による継続ダメージと防御力減少、装備の耐久力減少が狙いです。


「うぅわぁぁっ、なんだこの魔法、知らねぇぞっ」


 ジタバタしている隙に私は空高く舞い上がります。ほっほ~ん、よぉ~く見えるよ、敵さんの位置が。邪魔な魔法メインの二人から片づけましょう。


 真上からハヤブサ並みの急降下で銀髪の魔法使いを切り裂く。斬られた跡が金色に光り、手には確かな手ごたえが、クリティカルと<奇襲>、入ったんじゃないのかな。休む暇なく切り刻むと銀髪魔法使いはリングの外へとはじかれる。それを見送るとまた上昇します。


「エンチャントサンダー!」


 スポイルミストが晴れてきました。そこは地獄です。


 雷電は両手剣と対峙していた。まるで歯が立たないとはこのことか、弾かれている。雷電が巧く受け流し体制を崩したところに、口吻での一撃。金色に光る、残念、クリティカルのようだ。しかしギリギリで耐えている、まさに虫の息だな。そこへ雷電による踏みつけにて終了だ。


 ティルダと飛梅は糸で槍と片手剣を雁字搦めにしていた。いつものパターンだね。眉間を尚香が毒針でぶすぶす刺している、エグイな。敵さん泣いちゃってるよ。もっとヤッてしまいなさい。VRマシンを汚して使えなくさせてしまえっ。こっちはもう逆転はないだろう。


 弓はというとまさに嬲り殺しと言うところか。こちらもお馴染みギフトスの巻き付きです。双頭で手を水平に伸ばさせ、足の部分に巻き付いてしっかりと立たせている。十字架のようだ。そんな動けない様子の弓使いの口にはなんとグロリアによって産卵が行われていたようで、たくさんのリア子ちゃんがわしゃわしゃと顔面をうごめいている。っていうか食べられている。口の中にもまだいるのか絶叫しているんだろうが籠ってしまって聞こえないな。ギフトスもちゃっかり食べている。ここも大丈夫だな。


「なん、だ、こんなのって、うそだろぉ」


 この光景をひとり見ていた金髪魔法使い、こいつはリリーちゃんに足を引っかけたやつだ。存分に後悔するがいい。


「さて、へ~んしん、とうっ」


 <蟲化>します、使い勝手を確かめないとね。


 わなわなと震えている生き残りの肩をたたきます。会社でも怖いよね、肩たたき。


「っなぁ!? なんだそれ、お前ら……いったい何なんだよっ!」


「まあここまでしちゃったお詫びじゃないけど、答えてあげようかな。私はフウカ、蟲人族のフウカですよ」


「ちゅ、蟲人だと、レア種族かよ。ただのコスプレかと思ったがそういうことか」


「まっそゆことよ~、じゃあ、さようなら」


 四本の鎌でズタズタに切り裂いて、対戦終了。観戦者たちが一斉に沸いています。


「さあ、リリーちゃん、行きましょうか」


「フウカさん、ありがとうございます、約束通り守っていただいて」


「ま、私の力だけじゃないけどねっ」


「はい、そうですね、みんなありがとう」


 いままで見たこともない晴れやかな表情のリリーちゃんにお礼を言われ、ちょっと照れくさくなってしまった。我が眷属たちを撫でて労う姿がまぶしいです。


 いつの間にか醜エルフ六人衆は消えていましたが、まあいっか、かなり怖い思いをしたはずなのでしばらくは大人しくなるんじゃないのかな。


 醜エルフ六人衆だけではなくNPCはほとんどが足早に離れていた。今はプレイヤー同士でこちらを見ながら何やら話しているだけだ。


「素晴らしかったですっ、いやぁ始めて希人種のプレイヤーを見ましたよ」


 話しかけてきたのは対戦前に助太刀を買って出てくれたプレイヤーたちだ。先頭に立ていた優男風のイケメンが近寄ってくる。


「先程はどうもありがとうございます、リリーちゃんもお礼言わなきゃね」


「あ、はい、あのありがとうございました」


「いや、僕たちはなにもできなかったので、感謝されるようなことは何も」


「ふふ、ああやって名乗りを上げるのは誰でもできることじゃないからさ、あれでいくつか冷静になれた部分はあるからね」


「いえ、もう少しはやく割り込むべきだったんですが、なかなか勇気がでなくて」


「仕方がないわよ、誰だってあんなのとは関わりたくないし、怖いしね。まっいいじゃないの、終わったことだしさ。彼方たちが気に病むことじゃないよ」


「そう言って頂けると助かります」


「そんな事よりもさ、そちらの小躯族のお兄さんが持っているハンマー、昨日オークションで落とした素材でしょ、使い心地はどうかな」


「な、あの場にいたんですか、でも見覚えないけどなぁ」


「まあ出品者席にいたからね、ついでに〔木偶王の拳骨〕は私が出したんだよ」


「えぇっ、そうなんですか「ラゴウ」さん、昨日のアレこの人が出したんだってさ」


 優男風イケメンの呼びかけに反応して子どものような体系の髭を生やした人がガラガラの低い声で話し出した。


「おお、このお嬢さんだったのか。いやぁ随分とまあレアなもんを出したなぁ。だがお蔭で良い武器を得られたよ、礼を言う」


「私もいい人そうなプレイヤーたちに渡って良かったですよ」


「フウカさん、僕らは「紫電の剣」って名前のクランを組んでます。クランマスターの「タク」です。これも何かの縁と言うことですし、フレンドになっていただけませんか」


「いいわよ、じゃあ申請出しておくわね。これから何かあったら頼るとするわ」


「はい、ではいつか一緒に狩りに行きましょう」


 紫電の剣を見送り、我が眷属たちを労ってから還します。いつまでもこんな大通りに出してちゃ迷惑だからね。


「さてと、だいぶ遅れたけど行こうか、リリーちゃん」


「はい、あの本当にありがとうございました」


「いいって、それぶん姫の口づけ、期待しちゃうわよ」


「えぇっ、うぅまあ約束ですから、でもここじゃできませんよ」


「うんうん、帰ってからのお楽しみってやつだよね」

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