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美女が魔蟲  作者: 森山明
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よろしくお願いします

 繭の上に二人で腰かけ真っ白な風景を眺めながら、今後の予定を立てていた。


「ねぇリリーちゃん、ここの近くに街とかないの」


「大きな都市で言うと産業都市群の商業都市アメリアですかね、それと、あまりお勧めできませんが聖国でしょうか」


「アメリアに聖国ねぇ、それってどんなところなの」


「商業都市アメリアは産業都市群のひとつです。世界中の特産品やアイテムが集まり、ここにはないものはないと言われています。他の産業都市である工業都市ヤスマト、海洋都市オールトスの物流を一手に引き受けています。実質三都市のトップですね。」


「へ~、いいねぇ行ってみたい。で、聖国はどんなところなの」


「聖国は、エルスケライア聖国といいます。創造神エリス様を最高神としたエリス教という世界最大の宗教の総本山です。敬虔なエリス教の信徒が多く暮らしています。」


「宗教国なわけか、でもなんでお勧めできないって言ってたのかな」


「亜人種、希人種に対する差別です。昔は亜人種や希人種は人のなりそこないとされたり、酷いところでは魔物扱いして断罪の対象としていた時期もありました。ここ数十年で亜人種に対しては寛容になってきて聖国内でも普通に生活できるようになっています。しかし……その、希人種に対してはまだ根強い差別が残っているのです。」


 つらそうに俯きながら説明するリリーちゃんのその瞳には失望、憎しみ、怒り様々な感情が渦巻いていた。か細く震える肩を抱き寄せ、頭をなでてみる。髪の毛がサラッサラだ。


「んじゃあ、アメリアだっけ、そこに行ってみようかな。もし良ければ案内してくれないかな」


「え、まあ良いですよ、蜜を飲んでもいいならですけど」


「いいよぅ、じゃんじゃん飲んじゃって。では目指すは商業都市アメリア、だね」


「まあ、ここを抜ければすぐですから、そんなに時間はかかりませんよ」


「よし、さっそく行こうか、それじゃ失礼して」


「キャッ、もういきなりやんないでって言ったじゃないですか」


「フフッ、いやぁ、その驚いた顔が可愛くてね。ちゃんと掴まってるのよ、とうっ」


「また冗談はやめてってキャァ、もうっ」


「あっはは、アメリアはどっちだ~」


 翠の翅を広げ甲冑姿の美少女をお姫様抱っこし木と木の間を飛び回る。笑い声と叫び声を上げながら美女が白い霧をかき分けながら二人の美女が突き進んでいく。





「だいぶ歩いたけど、まだ抜けられないのかな」


「もうすぐだと思うんですけど、あぁ少し霧が晴れてきてはいますよ」


「おおホントだ、ちょっと湿ってきたね」


「ここを出れば湿地帯に出ます。少しぬかるんでますがすぐに草原へと抜けられますので安心してください」


「いやぁ楽しみだな、やっと人のいるとこに出れるよ」


「いままでどこに居たんですか。あのらへんには蟲人の里はもうなかったはずですけど」


 もうなかったね、やっぱりこの子はあの蟲人の里について何か知ってるんだろうな。まあ無理に聞かなくてもいいか。


「どこにってあそこの近くに里があってね、気付いたらそこに居たんだよ」


「っぅ、あ、あそこの近くに里があったんですね、あっもうすぐ出ますよ」


 『湿地帯』


 霧を抜ければ背の高い葦がまだらに生えた湿地帯があらわれた。地面はぬかるんでいるが白い装備は汚れていない、どうやらそういう仕様らしい。


「汚れるのも嫌だろうからこのまま飛んで行こうか、飛べばすぐでしょうしね」


「え、そろそろ下ろしてもらいたいんですが」


「だ~めっ、姫を助けた勇者様の気分を味わいたいじゃないの」


「なんですかそれ、聞いたことないですよ。はあ、もういいですよ」


 水溜りを下に見て程よい重さを腕に感じて先にある草原へと駆けていく。


 湿地帯ではカエルっぽいモンスターが飛び跳ねているがこちらへはあまり関心はないらしい。まあ今は無駄な戦闘は避けたい、抱っこを解除しなきゃいけないからね。


「着地成功、やっと着いたよ」


 『草原』


「草原に出ればあとは東側に見える塔を目印に進んでいけばアメリアに着きます」


「じゃあレッツゴー!」


「ってさすがにもう下ろしてください、自分で歩けるので」


「え~まだいいじゃない」


「ダメですよ、モンスターに襲われたらどうするんですか」


「チェッ、わかりましたよ、下ろせばいいんでしょう」


「早く行かないと今日中に着かないですよ」


 柔らかな風が草を揺らし土と草の匂いが鼻をくすぐる。塔を真正面に据え二人と六匹が足早に進んでいく。


 空はもうすでに夜の帳が訪れておりティルダはいつの間にかユエナと交代していた。もさもさの体を撫でながらスキンシップを図ります。お久しぶりだね。


「リリーちゃん、こっちは陰蛾のユエナ。よろしくね」


「あ、はい。よろしくお願いします」


「触ってみて、気持ちいいよ」


「ぅわっ、すごいですね、ずっと撫でていたいです」


「よかったね、ユエナ」


 パタパタと翅をバタつかせ喜びの意を伝えてくる。可愛いけどちょっとジェラシーを感じてしまう。私も撫でて欲しいな。


 月の明かりに照らされたリリーちゃんの横顔はとっても幻想的で綺麗でした。周りの様子を窺いながらチラチラ見てたんだけど、たまに目が合って互いに微笑んでしまう。なにこの甘酸っぱい感じ、照れるじゃないか。


 しばらくは何もなく二人きりの夜の散歩を楽しんでいましたが、正確にいうと我が眷属たちがいたから二人きりではないんだけどね。そんな幸せなひと時をぶち破る存在、それが現れました。


 そいつは、頭から体半分までは鷲でもう半分が馬という有名なモンスター。ピィーと甲高い鳴き声をだしながら私たちの目の前へ駆け降りてきました。


〔キンダーヒッポグリフ〕 LV.25


 なんか久しぶりの戦闘です。ヒッポグリフの子どもでしょうかね、それでも大きいんですがね。私の身長を軽く超えていますね。レベル的にはイケると思うけどね。


「ここら辺のボス格モンスターでしょう。この数の差では負けはしないと思いますが気を付けてくださいね」


「あいよ、じゃあリリーちゃん、雷電、前衛は任したわよ」


「ではっ、参りますよ! エンチャントファイア。こっちです!」


 〔キンダーヒッポグリフ〕に向かって駆けていくリリーちゃんのあとに付き従う雷電。雷電は<威嚇>を放ち口吻を地面に打ち付けて注意をひく。その雷電をうまく使い絶妙な間合いで攻撃を仕掛けるリリーちゃん。こっちも負けていられないな。


「サンダーバード!」


 鳥の形をした電気の塊が空高く舞い上がり急降下して〔キンダーヒッポグリフ〕に特攻していく。敵の死角からの攻撃に驚いたのだろう一瞬目の前のリリーちゃんたちから目を離してしまった。


 その隙を見逃すはずはなく首元に炎を纏った薙刀が食い込んでいく。斬撃の跡が金色に光り少し動きが鈍る。


 ここぞとばかりにギフトスが鷲の足の部分と羽を締め上げ、馬の脚は飛梅が糸で縛り上げる。


 こうなってしまえばこっちのもので、頭はグロリアが体当たりで目くらましをし、首元には尚香が毒針を刺しゼロ距離で毒矢を打ちまくり、ユエナは水の槍を腹部に打ち込んでいた。


「なんか……、すごいですね。圧倒的じゃないですか」


「ふふん、動きを封じてしまえばこっちのものよ。さすがは我が眷属たちね」


 最後の一撃は雷電が頭を口吻で潰して終了した。えぐいな、流石だね。


〔雛馬鷲の羽束〕

素材アイテム レア度:D


キンダーヒッポグリフの羽を集めたもの

矢羽の材料に適している


〔雛馬鷲の鷲爪〕

素材アイテム レア度:D


キンダーヒッポグリフの爪

とても鋭く取扱注意



 矢羽、ね。そういえば<弓>スキル取ってたけど全然使ってなかったな。それに弓とか作ってないんだよね。なかなかいい材料が無かったのもあるんだけどね。アメリアに行けばなにかあるだろうしこれは売らないでおこうかな。


「今気づいたんですが、フウカさんは転星者だったんですね」


「うんそうだよ。他の転星者に会ったことはあるの」


「いえ、聖国にはいませんでした。数十年前にいきなり現れて様々な発明や発展、モンスターの脅威を退けたのち、いきなり消えていったと聞いています。最近また、ジャスパニア皇国に大勢の転星者が現れたと耳にしていましたが、まさか希人種である蟲人の転星者があのような場所にいらっしゃるとは夢にも思いませんでした」


「そっか、やっぱり蟲人て珍しいのかな」


「はい、そもそも蟲人自体があまり公には出てきませんし、転星者でとなると資料にも記述はありませんでした」


「そうなんだ、面倒くさいことにならなきゃいいけどねぇ」


 一抹の不安を胸に抱くが、大きくそびえる商業都市アメリアの塔と巨大な外壁が姿がそれをかき消してしまった。今はリリーと一緒だがそれでもやはり他のプレイヤーと交流を持ちたかったし、寂しかったのも事実なのだから。逸る鼓動を抑えきれずにリリーを抱きかかえ一直線に飛び立ってしまった。


「ちょぉぉっと、だからいきなりするのは、やめてくださいよぉ」


「ふはは、ゴメンね。でも仕方ないじゃない、楽しみだったんだから」


 商業都市アメリアはもう、目と鼻の先である。


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