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美女が魔蟲  作者: 森山明
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よろしくお願いします

 堪能しました、いろいろと堪能しました。つらいリハビリも耐えられるというものです。


 寝る前に公式サイトをチェックします。おやアップデートするようです。内容を確認せねばなるまい。


・獲得経験値の調整

・アイテムのドロップ率調整

・空腹度、睡眠度の導入


 大ざっぱにいえばこんな感じだが、経験値やドロップ率はまあどうでもいいんだが。空腹度と睡眠度の導入はいけないな、よろしくない非常によろしくない。


 空腹度ってことは料理を作らないといけない、私の場合は作るのは私しか作る人がいない。手先は人より器用なのだが、こと料理に関しては料理本を片手に作ってもなぜだか不味くなるのだ。なにがいけないのか全く分からない。カレーが不味くなるのはもはや壊滅的だと思う。


 そんな私が作ってしまえば何かしらのバットステータスがついてしまう恐れがある。どうしようか、木偶に作らせるのもありかもしれないが、素の私がこんなんだがら試してみるのも怖いよね。グロリアに頼んでリア子ちゃんに蜜を出してもらうのも手だ。というかそれしかない。蛆のリア子ちゃん頼みだ。


 睡眠度の導入も頂けない。機織りの完成が遅れてしまう。それにユエナとの狩りの時間が無くなってしまう。夜にしか活動しないモンスターにはどうしたらいいんだ。と思っていたら睡眠度解消の専用アイテムがNPcのショップにて販売されるらしい。まあ当分関係ないか、関係できる位置にいないとも言うけどね。そろそろ人と遭遇すると思うんだけど。


 寝よ。睡眠中にアップデートは完了するだろうしね。今日は充実してたな。ボスも二匹倒したし、香子さんとも久々に絡めたし。





 おはようございます、さっそくログインです。魔法力のゲージの下に車のガソリンのメーターっぽいものと電球が光っている。ガソリンメーターのほうは空腹度、電球は睡眠度。空腹状態をそのままにしておくと動けなくなってしまう。そこがフィールドならモンスターに襲われてお終いだ。電球はだんだんと灯りが落ちていき消えてしまったら、スタータスに異常が起きるらしい。


 繭の中で我が眷属たちを愛でています。もちろん、雷電もいますよ。糸でぐるぐると固定しています。仲間外れは致しません。


 霧に満ちた森の空間に朝日の光の柱が乱立している。大樹に巨大な繭が何かを守るように存在していた。その繭の上に何かがいる。黒い長髪を揺らめかせて瞳を閉じ空気を味わうように深呼吸している。スレンダーな出で立ちで顔は百人が百人美しいと言うであろう魅惑の女性。それが私。フウカです。


「なぁ~んちゃって、ってあれ。なんだろうモンスターかな」


 繭の下をのぞき込んでみたらなにか動く影が。


「はぁ、なんで私がこんなとこに、それよりもどこですかここは」


「も、もしかして、第一村人か」


 黒くごつごつした甲冑姿で薙刀を手にブツクサ言いながら木の幹に寄りかかり溜息をついている。装備は私のものよりも数段良いものを着ているが、こんなところで何しているのか、もしかして迷ってるのかな。


 一息つくためか兜を外すと、そこにはその黒く猛々しい甲冑とは裏腹に金髪ショートの女の子が顔をだした。


「あれは女の子か、絶対むさいおっさんかと思ってた。嬉しい誤算ってやつだね。ちょっと行ってみようか、とうっ」


 翅をバタつかせて少女の目の前に降り立つ。


「な、いきなりなんですかあなた。」


 いきなり目の前に飛び降りてきた何者かに兜をかぶる間もなく薙刀をそいつに向ける。


「あの怪しいものでは無くですね、少しばかりお話をしたいなぁと思いまして」


「って女性の方ですか。でもこんなところに一人でいるのは怪しすぎです」


「いやぁそれはお互い様ですけどね」


「い、いやまあ、それはそうですけどってよく見ると貴女、もしかして蟲人ですか」


 そういうと少女は薙刀を握る力を緩め表情が見るからに暗くなっている。


「まあね、それはいいとしてどうしたの、迷子にでもなったのかな」


「迷子なんかじゃないですよ、子ども扱いしないでください。一応十八歳なんですよ」


 ぷりぷりと怒ってらっしゃいます。


「ゴメンゴメン。とりあえず自己紹介しませんかね。わたしは「フウカ」っていいます。」


「もういいですよ。私の名前は「リリー・ナギア・ブラッドストーン」、リリーと呼んでください」


「リリーね、でリリーはどうしてここにいるの、さっきの様子じゃぁ自分の意志でここにいるような感じじゃないようだったけど」


「まあいろいろあったんですよ」


 プイッと踵を返しどこかへ歩き出そうとしているリリーの肩を慌ててとめる。


「ちょとまって、ここで会ったのも何かの縁ってことでちょっと家に上がってってよ」


「嫌ですよ、初対面の人に何言ってるんですか。それよりこんなところに住んでるんですか」


「いや住んではいないんだけどね。拠点みたいなものよ、ここを抜けるのは難儀だからさ。甘くておいしい飲み物もあるよ」


「甘い飲み物ですか。甘い、飲み物ですかそうですか。ではちょっとだけお邪魔してもよろしいですか」


「ようし、じゃあ行ってみようか」


 よし、ナンパ成功。しかもおそらくその甲冑姿では木に登れないだろうから、私が抱っこして行くことになるだろう。フヒヒ、さらに密着するチャンスが得られるとは、何たる幸運。


「でどこにあるんですか、その拠点は」


「上よ、この木の上にね」


「な、どうやって行くんですか。この格好では登れませんよ」


「大丈夫、大丈夫。私に任せて。こういう時はこうするのよ」


 ここは有無を言わさず実行するが吉。


「ぅわぁっ、いきなりするのはやめてください。って飛んでるっ、落ちちゃいますよぅ」


「落としたりしないから安心しなさい。しっかり掴まっててね」


 非常に密着しております。近くで見たらものすごく可愛い。和な甲冑と西洋な顔立ちが絶妙だ。外人さんが観光で試着しながら街を練り歩いてるのを見た時のような、微笑ましい感情が沸いてしまう。目つきはは鋭いが赤みがかった瞳の色に吸い込まれ、衝動的に接吻してしまいそうになる。薄い唇もまた良しだ。一度やってみたかったんだ、お姫様抱っこ。惜しむらくは思いのほか甲冑がごつごつし過ぎて痛いのだ。それに体の感触が分かりづらいんだよ。そうだ、今度服を繕ってみよう。採寸もしなきゃいけませんね。楽しみです。


「到着っと。もう大丈夫よ」


「っぷふぁ、もう飛ぶなら飛ぶと仰ってくださいよ」


「ンフフ、ごめんね。でも可愛かっよ」


「かっ可愛いとか冗談はやめてください」


 赤くなっちゃって、お前は天使かこのやろう。


「冗談なんかじゃないよ、まあ中入ろうよ。私の仲間を紹介するからさ」


「仲間、ですか」


 いけない、警戒心が生まれちゃったか。


「仲間って言っても、眷属たちだけどね」


「眷属って種族特性のですか。すごく神に愛されてらっしゃるんですね」


「ああ、まあ愛され過ぎてはいるんだけどね。さあ、入って入って」


「お邪魔します、ってすごいですね。双頭蜈蚣に聖浄蠅まで」


「じゃ紹介するわね、陽蝶のティルダ、土蜘蛛の飛梅、双頭蜈蚣のギフトス、矢蜂の尚香、盾象蟲の雷電、聖浄蠅のグロリアそしてわれらがアイドルのリア子ちゃんよ」


「よ、よろしくお願いします」


「じゃあさっそく例の蜜の用意しましょうか、リア子ちゃんお願いね」


 リア子ちゃんを抱きかかえ頭をなでながら蜜を出すように催促すると、黄金色の蜜を口から、みゅーと出している。おいしそうだ、これを飲めばイチコロだろう。リア子ちゃんの蜜は魔性の味なのだ。


「これはそのまま飲むのですか」


「え、ああそっか、ごめんね。コップとか何も持ってないのよ」


「いえ、そういうことではなくてですね。だってその、あの、蛆、ですよね」


 しまった、失念していた。リア子ちゃんは蛆だったね。でもどうしたものか。本当にコップとかないしなぁ。あ、いいこと思いついた。


「じ、じゃあこうしようか。私が口移しで飲ませてあげましょう」


「ふぁあっ、なんでそんな考えに行き着くんですか。からかうのはやめてくださいよ、もう」


「いやあ結構本気なんだけど、でもどうするの、このリア子ちゃんと口移しで飲むか、私と口移しで飲むかの選択肢しかないわよ」


「ぅんん、でもほんとにそのふたつしか……」


 相手に深く考えさせてはいけない。畳み掛けねば、私の夢のシチュエーションを達成するには踏ん張りどころです。


「でも、選ばないとこの美味しいあまぁ~い蜜は飲めないわよ」


「うぐっ、なんというかフウカさんが悪魔に見えます」


「うふっ、さあさあ、どうしますか。私とリア子ちゃんのどっちにしますか」


 さあどうする、リリーちゃん。どっちに転んでも私は構いませんよ。蟲から直接、蜜を啜る美少女。堪りませんなぁ。


「くぅぅ、手ですくうのはダメなんですか」


「ダメよ、行儀が悪いじゃない」


「むぅ確かにそうですね」


 おお、納得してくれた。案外バカなのかもしれない、バカワイイ。


「さあどうするの。この蜜も無限に出るものじゃないのよ。このままだと私が全部飲んじゃいますよ」


「ええっそんなぁ、うう~んわかりました、決めました。リア子ちゃんお願いします」


 やっと決心したわね。ちょっとショックだけど。さてそんなリリーちゃんだけど、至福の時を体現している。その恍惚とした表情を眺めるだけでもご飯が何杯でも進みますよ。


「っぷはぁ、今までこんなおいしいもの飲んだことありません、ありがとうございました」


 いえいえ、こちらこそありがとうございます。

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