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霧幻冬のヘキサグラム  作者: 宇野壱文
第3章 Scythe × Sword
28/61

第一話 恋愛談義――誰だ、こいつ主人公にしたの

 A few days ago


「では、ご夕食ノ際にまたお呼びニ参りマス、オネーサマ」

 一礼して彼女が退室する。と同時に座っていたベッドに背中から倒れこんだ。

「……疲れた」

 その呟きとともに大きな溜め息が出た。寮のものとは違う深く沈みこむベッドに身を委ねて、ついこの場で出るはずもない愚痴が口を吐いた。

 ベッドが心地好いからってこの家が心地好い訳じゃない。たとえ一人きりだろうと気を置くことが出来ない家。常に確固たる自らを求められる。ここに比べたら、部屋が狭かろうと役職に日々追われていようと、寮の方が遥かにリラックス出来る。

 であれば今はどういうことだろう。それを承知の上でただ家具の心地好さに身を任せる気の抜けっぷりは。

 答えは簡単。学校(むこう)で更に気の置けない出来事が発生したということ。

「……周防こおり、か」

 転校生。

 同い年の後輩。

 新しい生徒会役員。

 会長の幼馴染み。

 そして――どこか、異質な人間。

 一つの感覚を思い出す。それは、新学期が始まる前の日の事。周防と初めて会った日。

 私服姿でぼーっと突っ立ってる彼を見つけた。瞬間、何とも言えない感覚が総身に走った。決して相容れないような、それでいて奇妙なくらい惹かれるような。結局その感覚はすぐに立ち消えて、注意しに声を掛けたのだけど。

 たった一週間。私の日常は表向き変わっていないのに、私の内の何かが異常なほど乱れている。生徒会に入れたくなかったのは、もしかしたらこうなる事を心のどこかで予測していたから、というのもあるかもしれない。昨日も歓迎会になんて行ってしまった。理由があったから――じゃない。理由は自分で見つけた。受動じゃなく能動。そもそも私は流されて行動する類の人間じゃない。

 私は昨日、自ら彼に関わった。肩書きの一切に関係なく、私個人として。

 執着している、のかしら。わからない。原因も、真偽も。

 駄目ね、結局全然リラックス出来やしない。当たり前ね、元々が気の休まらない場所なんだから。……つい一週間前までは、それが当然と思考にも上らなかったのに。たった一人の人間にこうも揺さぶられるなんて。

 ……夕飯まで一眠りしてしまいたい。思考を切って、ウトウトと微睡の中へ。でも、今の私じゃ怠惰に身を委ねることも出来ないから。

 わずかな躊躇いと――恐れに、目を瞑って。

 ――自分にかけた『魔法』を、解いた。


 Return now



 雪は、キライじゃない。

 それは象徴。愛しさと、憧憬と、懐かしさと、そして恐怖の。


 天気予報はハズレでガッカリ。融雪で足元は水溜りでゲンナリ。

 絡んでくる臭い豚どもにはウンザリ。

「ウヒョー、その服可愛いねえ。どこの店?」

「客引き? サービスしてくれるんなら、どこだって行っちゃうよ? てか、言葉わかってる?」

「てゆーか、俺がこの娘連れて帰りてえ!」

 馬鹿笑いする牡豚どもを半眼で見遣る。下品で下劣。こんな下民にかかずらってたら折角の有意義な時間がどんどん失われてしまう。

「……てゆーか、この娘ガンくれてない?」

「ああ? ダメでしょ、ご主人サマにガンくれちゃ。てか、しゃべれよ。日本語、わかる?」

「ボディランゲージでお仕置きしちゃうべ? ベッドの上で?」

 ……豚の言語なんて理解できないけど、今、一つだけ聞き流せない戯言を吠えたな。

「誰が」

「あん?」

 ズンッ

「ぐおっ!?」

「誰ノ、主人だっテ?」

 傘による刺突一閃。正面の牡の鳩尾に突き刺した。

「こっ、のアマ!」

 左の牡豚が拳を振り上げた。傘を離し、牡豚より遅く動き出した拳を先に顔面へ叩き込んだ。怯んだ隙に傘をキャッチ、くるりと回して取っ手を牡の足に引っ掛け、おもいっきり持ち上げる。

「ぐえっ!」

 頭を強かに打ちつけ悶える犬。

「やりやがったな、この――」

 後ろから殴りかかってきた牡豚をひょいとしゃがんで避け、顎へと傘を突き出した。

「がっ!?」

 命拾いね、持ち手のほうで。石突だったら口の中まで突き破ってたかもネ?

 悶え蹲る牡豚どもに何の感慨も持たず歩き出す。凡俗が思い上がったクチを叩いた結果、ただそれだけのこと。

 このサフィエル=サザンウインドが主と認める人間はただ二人。

「今参りマス、オネーサマ」



「有罪」「有罪ね」「はんけつ、ゆーざい!」「死刑や!」

「……いきなり何の魔女裁判だ」

 昼休み。相変わらずまぁた一人でどっかにいこうとしたこおりちゃんを捕まえて、四人で囲み席に着く。そして、ボクたちの口から一番に飛び出したのはそんなセリフだった。

「こおりちゃん。――今朝貰ったラブレターはどうしましたか?」

「捨てた」

 きっぱりと言い切ったバカの頭をはたき回した。

「学習能力ないんか、おのれは!」

「あっはっはー、こーりんはほんとひとでなしだなー」

「……なんかひどい言われようされてるみたいだな、俺って」

「またそんな他人事みたいに」

 こおりちゃんの悪癖にげんなりさせられながらも話題を引き戻す。

「昨日といい今朝といい、恋する女の子の気持ちをもっと大事にしなきゃダメでしょ! 同じ振るにしても、優しい言葉かけてあげるとか、アフターケアきっちり!」

「なんで俺がそんなめんどくさい役回りしなきゃなんねえんだよ。俺が悪い訳でもなし、そんな他人事にいちいち神経割く気はないの」

「……十分ワレが悪いと思うんはワイだけか?」

「どこに俺の落ち度があるってんだ。告白するってことは振られる事も十分想定範囲内だろ。それで泣かれてこっちが悪いとか言われても、傍迷惑なだけだ」

 ……理屈としちゃ間違ってないんだろうけど、ね。

「それはちょっと、子供っぽい意見じゃないかしら。相手の感情を蔑ろにしてるもの」

 うん、同感。

「どうでもいいよ。その感情がどれだけ激しかろうが、真剣だろうが、俺にとっちゃ結局他人事だ」

 また『他人事』だ。これが言い訳とかじゃなく本当にそんな感覚だっていうんだから始末に悪い。それは告白してきた女の子に対してだけじゃなくて、今目の前のボクたちへも同じ感覚だっていうから……本当、どう手をつけたらいいのやら。

「……はあ。ほんと、皆なんでこんなのに惚れるんだろ」

 と、そういえば。

「明野さん、わからないでもないとか言ってなかった?」

 ……ん? ってことは、

「ま、まさか明野はん!?」

「なにかとても失礼なことを口に出そうとしてるみたいだけど乾君。そんなありえない想像をする頭は虫並み、と言わざるを得ないわね」

 む、虫!? しかも啓吾と同レベル!? ひ、ひどすぎるよ明野さん!!

「大した理由じゃないわよ。ただ、周防君を客観的に見てみるとね、そういう面が浮かび上がってくるのよ。愉快なことに」

 そう言ってこおりちゃんをちろりと見る明野さん。

「はじめは悪い噂の絶えない敬遠するべき転校生だった。しかし蓋を開けてみれば、成績優秀、腕っぷしが強く、顔も見れる程度には良い」

 む。

「さらに、こんな性格の割りにお人よしというか世話焼きというか。実は優しい? なんて取る娘がいても不思議じゃないわね」

「あー、あれやな。極悪の不良が実は橋の下で捨てられた子犬の面倒見てたとかっちゅーヤツ」

「そういうのが市民権得てるんでしょう? なんていったかしら、こういうの」

「ギャップ萌え、ってやつだなー!」

「そう、それ」

「な、なんかモテ要素だらけに思えてきたよ?」

「実際その通りね。人間破綻者でさえなきゃ完璧なんじゃないかしら」

「それが一番の問題だけどね……」

 破綻してるというか辿り着いちゃってるというか。なんせ条件さえそろえば殺人も躊躇わない人だし。

「まあ、恋は盲目ってよく言うものね」

「こーりん、つきあったらどーだ? よりどりみどりだぞ?」

「好きでもないのに付き合うのって失礼じゃね?」

「……どうしてそういうとこだけ誠実かな」

「……じゃあ、貴方はどんな女の子だったら好きになるのかしら、こおり?」

 ……また明野さんが名前で呼んだ。普段は『周防君』って呼んでるのに、昨日の朝からときどき『こおり』って名前で呼ぶようになった。それに、一昨日まではこうして彼女と一緒にご飯を食べることもなかった。

 一昨日。『霧』の中で何かあったのか。気にならない、と言うと嘘になるけど、そこまで突っ込む理由がボクにはない。

 ……なんだか、モヤモヤする。

「どんな、ねえ……」

 と、こおりちゃんが天井を仰ぎ、さらに首を捻る。明らかに長考の構えだ。……んーと、もしかして。

「ねえ、こおりちゃん。もしかして、初恋とか……まだ、とか?」

 恐る恐る聞いてみると、こおりちゃんはああ、とばかりに手を鳴らした。

「……マジかい」

「うん、確かに。言われてみると無いね」

「こ、子供の頃とかも? ほら、えーと」

 伊緒や啓吾がいるから『事件』の事とか口に出すわけにいかないけど、要するにその前とか。

「ん、無い」

「……それはまた、何というか……」

「……男色?」

「すぐにそっちの方向に繋げるのは、ほら、なんつったっけ……腐女子? の証明じゃねえのか、チビ」

「冗談に決まってるで、しょっ!」

 ガンッ、と机の下でいい音がした。……にも関わらず平然とストローを咥えるこおりちゃん。つくづく頑丈だ。

「女の子に興味ないの? 彼女欲しいとか思ったりしない?」

「興味ない訳じゃないけど、願望はないな」

 ……まあ、まったく興味なかったらねえ、出会って早々のアレな事態にはならなかった訳だし。

「興味あるんだったら試しにでもいいから付き合ってみるのもアリなんじゃない?」

「と言われても、恋愛感情って正直よくわからんし。別に、性交渉がしたいだけなら恋愛関係になる必要は絶対的には無いし」

「ぶっ!?」

 な、なにを平然と言いますかこの馬鹿こおりは!

「――ハッ! お、おま、まさか!」

「んー、迫られたことはあったけどね。別にしてもよかったんだけど、勘違いされると面倒臭かったから、結局経験はまだないよ」

 ……なんかもお、いろいろと最悪だこの人……。

「すえぜんくわなかったのかー?」

「うん。興味以上のものは本当にないし」

「いい加減にしなさい、あんたたち。乾君、なんだか不自然な姿勢だけど、蹴り飛ばしていいかしら」

「な、ナニをでっしゃろ?」

「潰すわよ?」

「そ、それだけはご勘弁をー!」

「冗談よ。あたしの足が汚れるわ」

 呆れた風に銀髪をかき上げる明野さん。本当、女王様気質だ、この人って。

「……というかな、今まで俺が言われたことって全部明野にも当てはまるんじゃないのか?」

 と、こおりちゃんが話題の矛先を逸らしてくる。でも、ふむ。確かに。

「あたし? あたしはちゃんと恋愛に興味あるわよ。それなりに願望もあるし。けど、その願望に釣り合う男がいないんじゃあねえ」

「明野さんの理想って高いの?」

「それほど無茶なことは言わないわよ。ただ、あたしに釣り合う男じゃなきゃ嫌だってハナシ」

 うわー。すっごい上から目線だー。

「そこらの男より格好いい女性を子供の頃から知ってるもの。その人を目標にしてるあたしとしては、そこらの平凡な男で妥協するなんて出来ないわね」

「(……そりゃある意味とんでもなく高くて、ある意味とんでもなく低いな……)」

 ……? こおりちゃんが何かポツリと呟いたみたいだけど……?

「で、貴女はどうなのかしら、桜井さん。貴女だって校内一の有名人の一人じゃない」

「へっ、ボ、ボク!? ボクなんて全然だよ! 二人みたくラブレター貰ったことなんて……男の人からは……ないし、告白された事だって……男の人からは……ないもん」

「あっはっはー、りんはどーせーにもてるタイプだな!」

「ていうか、四強で有名っちゅうんはなあ。そんなの彼女にしたがる剛毅な男、ウチのガッコにおるんか?」

「係わり合いになっちゃいけないベスト4、だっけ? そりゃ付き合いたくないわな」

「あんたもその一人だけどね」

 ぐうう、本人の目の前で好き勝手事言ってくれちゃって。……マジヘコむよ? ボク。

「ま、とは言っても人気あらへんワケやあらへんけどな。気さくで付き合いやすいしの」

「友達としては人気あるけど、彼女にするとなると一歩足りない、って感じなワケね」

「う、うーん、それっていいのかな?」

「それは桜井さん次第じゃないかしら。別に今すぐ男欲しいって訳じゃないんでしょ? だったらいいんじゃない?」

「ん……まあ、そうだね」

 実際、彼氏持ちの自分なんて想像出来ないし。

「ふむ。てことはさ、この中で恋愛経験ある人っていないんだね」

「? なんでだー?」

「? 決まってるじゃない。啓吾に彼女なんているわけないでしょ?」

「なっ、なんで決まっとんねん!」

「じゃあ、いるのかしら?」

「い、今はおらへんけど……」

「じゃあ、いたのかしら?」

「……いません……」

 いじけ始めちゃった啓吾は放置。

「伊緒だってねえ、彼氏なんて――」

 にこにこ笑っている伊緒。一瞬生まれた空白時間。妙な雰囲気に包まれたまま、おずおずと尋ねてみたりする。

「ねえ、伊緒。伊緒は、付き合ってる男の人なんて、いないよね?」

「あはは、いるわけないぞー!」と予想していた返事は、


「おー、いるぞ!」


 あっさり塗り替えられ、場が完全に沈黙した。

「……嘘、でしょう」

 ボクと同様絶句していた明野さんがポツリと漏らした一言。それで硬直(フリーズ)解除(リリース)され、驚愕が爆発した。

「えええええっ!! 嘘嘘、なんで伊緒!? ていうかボク初耳!! いったいいつから!? 相手は!?」

 おおお落ち着けっ! そうだ、こんなときこそこおりちゃんの動じなさ振りを見習って、

「有り得ねえっ! いったいどこの宇宙人が相手だよ!?」

 おもいっきり動揺しまくってた。まあそりゃ、こんな不意打ち喰らっちゃあねえ。

「……意外過ぎるわ……」

 こちらは唖然としたままの明野さん。そんなボクたちと対照的に、啓吾だけが驚いた風もなくパンを貪り食っている。うーん、こういう状況って珍しいなあ。

「啓吾は知ってたの?」

「そりゃあの。相手、ワイの兄やんやし」

 ……Pardon(なんだって)

「乾君、お兄さんいたのね」

「ボクもまた初耳」

「今県外に勤めとるしの。一流企業でバリバリ働いとるで」

「見栄を張るな。お前の兄貴でそれはない」

 おおう、流石こおりちゃん。皆が言いにくい事を軽々と言ってのけるゥ。シビレも憧れもしないけどォ。

「ちょっ、何ソレ!? まるでワイがアカン子みたいやんけ!」

「そう言ってるんだが」

「ノーーーッ! そこで肯定するんじゃねえ! ウチの兄やんは優秀なの! ワイと比べたら兄やんに失礼なの! わかったか!」

「とりあえず、似非関西弁が外れるくらいには真実だってのは理解した」

「判断基準そこかよ!」

 あー、やれやれ。でもちょっと安心かな、伊緒ってばこういう娘だから。話を聞く限り相手も信用出来る人みたいだし。啓吾のお兄ちゃんって聞いたときは正直ちょっと不安だったけどね。ああ、でもまさか伊緒に先を越されるなんて、ちょっと納得がいかないかも。明野さんの表情もそんな感じだなあ。

「でもけーよりスケベだけどなー、あははー」

 ……そう言った伊緒の頬にはわずかに赤みが差して、えーと、珍しいことに照れてる?

「……ちなみに、付き合ってどのくらいになるのかしら」

「えーと、三年だな!」

 …………。

「ロ」

「言わんといてー! 後生だからそれだけは言わんといてこおりはん!!」

 ……なんだか、無性に不安になってきたかもしんない。



 こおりちゃんが家に来て早くも二週間が経とうとしている。転校当初、マイナス方面に有名だったこおりちゃんは、下着ドロ事件以降プラス方面での有名人になりつつあった。

 とはいえそれでこおりちゃん自身が変わることもなく、未だ周囲への関心無し愛想無しの他人事状態。ときに疑問なり突っ込みなりが入る以外はこちらからのアプローチに返事を返すだけの、言っちゃえば一方通行状態だ。あちらから話題を提供してくることはない。

 以前遠見会長は言った、こおりちゃんはあらゆるものが脆く見えているって。何もかもを壊せる、そんな立ち位置にいる、って。それは分かった。いや、実感は出来ないけど言いたいことは理解できた。

 でも、後から思った。下手なことをすれば無関係な『人間』を壊す、そんな状態のままでいることを、こおりちゃんは良しとする人だろうか?

 そう考えると、あの身体の半身だけがレリーフと融合した形態――限定同調融合(リミテッドシンクロシフト)だっけ? あれも、力の制限だけじゃなくて、いざ完全融合したとき、暴走しないための訓練と考えることも出来る。

 『化け物』にとって、『人間』は遠い存在なのかもしれない。あるいは、ガラス窓の向こうから眺め見ている感じなのかもしれない。こおりちゃんを見てるとそっちの表現の方が近そうだ。

 それでも、呼びかけることは出来るはずだよね。遠くからだって、ガラスの向こうからだって。それをしないのは、何でだろう。

 そんなことをしても根本的な問題――こおりちゃんが『化け物』を自称する理由――は変わらないからかもしれない。他人事と感じる、その感覚が変わることはないからかもしれない。けど、だからって他の人間に近づくことは無駄なことなんだろうか。そうやって、人と人が関わりを持つことが、果たして無意味なんだろうか。


 たとえ、こおりちゃんがいくら自分を『化け物』と認識していても、

 こおりちゃんが『人間』であることには変わりないのに。


 ……無意味なわけ無い。

 ボクには一つこおりちゃんに大きな恩がある。何年も続いてきた大きな悩み。憎悪と甘え。それらを断ち切って新たな関係を築くことが出来たのは、間違いなくこおりちゃんと関わったからだ。きっと、他の人じゃ今みたいな結末には至らなかったと思う。

 だから、助けよう。たとえこおりちゃんがそれを微塵も望んでなくても、そうすると勝手に決めた。

 あの時の宣言通り、こおりちゃんの他人事っぷりを微塵も発揮できないようにしてやる、って。



 人、人、人。

 街は人で溢れている。

 万物の霊長。地球の支配者。そう自称する生物が目に付く限り至る所に跋扈している。

 獲物を噛み千切る牙も敵を切り裂く爪も、寒さから身を守る毛皮も強靭な身体能力も持たず、視力も聴力も嗅覚も他の動物より劣る脆弱な生物。しかし知恵と道具――武器を使う手先により生物の頂点に立った。この事を疑問視する人間はいないに違いない。だからこそ人間は社会(コミュニティ)を作り、法律(ルール)を作り、その枠組みに他の生物までも当てはめている。

 くだらない。

 サフィは知ってる。どれだけ盛隆を誇ろうが、所詮『人間』の存在は他の生物と同じ位階にしかないと。

 サフィは知ってる。異世界の存在を。そこに棲む、超常の力を持つ『ミスティ』という生物を。ミスティと共生する『オーナー』という人間を。

 サフィは知ってる。『オーナー』も、『ミスティ』ですら人間と同じ位階の生物でしかないと。

 サフィは知ってる。


 ――『人間』以上の『存在』を。


だいぶ間が開きましたが、第三章開始です。以降更新が不定期になりそうですが、どうか長い目で見てください。

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