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5.課題の上方展開

「課題の上方展開」


徹は黒板にその文字を書いた。


つかさ:「かだいのかみかたてんかい? 大阪の漫才の話?」


徹  :「ちが~う、つかささん。かだいのじょうほうてんかいってよむんだ」


つかさ:「ふ~ん。それって重要なの?」


徹  :「重要、重要。物事の本質をつかむのに重要な考え方なんだ。特に矛盾した問題を解決する時にね。」


徹  :「そうだな、ここで問題」


つかさ:「うん」


徹  :「あなたはデパートの社員です。お客様からエレベータの待ち時間が長いとクレームが度々寄せられています。これをなんとかしたいと思うのですが、上司からはエレベータを増設したり、速くしたりするお金はかけられないといわれました。さて、あなたはどうやって解決する?」


つかさ:「え? エレベータ増やせないの? それじゃどうしようもないじゃない? そんなの無理」


徹  :「それが、無理じゃないんだな。今度のテーマはこれにしよう。システム研究会のみんなで実際にこの問題を解決しようじゃないか」


----------------------------------


徹  :「止まる階数を減らす快速エレベータを作る。動いていないときにエレベータが待機している階を調整するか。なかなかいいアイデアだけど、やっぱり下方展開の域を出ないな。」


徹がみんなのアイデアを聞いてコメントする。


徹  :「『健康のため階段を歩いて行きましょう』と張り紙をする。これはいいね。この中では一番正解に近いかな。」


つかさ:「えっと、どうしていいんですか? ごまかしてるだけのような。」


徹  :「課題の本質をついているというところかな。」


つかさ:「それで、正解は?」


徹  :「現場百遍。実際にデパートに行って調べてみよう。」


システム研究会のメンバーは駅前のデパートに着く。10階建ての大きなデパートだ。その中の7階に着く。エレベーターホールは広くゆったりしていて高級感漂う色調になっている。エレベーターは4基ついている。


徹  :「では、時間を測ってみよう。」


だけど、エレベーターはなかなか来ない。


つかさ:「4基あるのになかなか来ないわね。これじゃお客さんがイライラするのもしょうがないわね。」


みな、エレベーターの方をじっと見ながら到着を待つ。


つかさ:「やっと来た。」


何分かまったのちエレベーターが来る。


みんなでぞろぞろエレベーターにのる。


徹  :「次に近くの家電量販店に行くぞ。」


家電量販店はデパートと同じ10階建てだった。でも、デパートと比べてフロアの面積が小さい。ひょろって縦長のビルだった。そして7Fに着く。エレベーターホールは狭く、すぐ近くにまで商品が並んでいる。猥雑な感じだ。しかもエレベーターは1基しかない


徹  :「じゃあ、時間を測るぞ。」


つかさ:「あ、新しい携帯が出てる。」


つかさは、みんなと一緒に手にとって触ってみる


つかさ:「あ、こうやって開くんだ。」


四苦八苦して携帯を開く


徹  :「エレベーターついたぞ。みんな乗るぞ。つかささん置いていくぞ」


つかさ:「もう着いたの? ずいぶん早いわね」


つかさは名残惜しそうに携帯を置いてエレベーターに乗る


つかさ:「でも、不思議ね。1基しかないエレベーターの方がはるかに速いなんて。どうな工夫をしてるのかしら。」


徹がにこって笑う。


徹  :「これが『課題の上方展開』だ」


---------------------------------


時は流れ所変わって淳典堂病院の一室。


看護部長:「今の方はなかなか良かったのではないでしょうか。経験者ですし、しっかりしていますし。」


番井  :「うむ。」


事務局長:「ですね。」


番井 :「事務局長。今日はあと面接1人だったな」


事務長:「ええ、もうひとりです。」


ERに勤務する看護師の面接を行う3人。


番井 :「次はと。」


番井が手元の履歴書を見る。


番井 :「あれ? 未経験者? なんで学校を出たばかりの未経験者なんだ?」


今回は激務であるERに勤務する看護師の採用面接。なので経験があることが絶対条件だった。


番井 :「まあ、面接だけはするか。せっかく来てもらったのだしな。」


事務局長は次の面接者を呼ぶ。学校を出たばかり若い女性だった。にこにこした笑顔が印象的な女性だった。


つかさ:「白石つかさと申します。よろしくお願いいたします。」


事務長:「あなたは、もし、この看護師として採用されたらどんな看護師になりたいですか?」


つかさ:「みんなと笑って暮らせる楽しい病院にしていきたいです。もっと、病院にいたいな~。また、入院したいな~っていう病院。ですので、それが実現するよう努力していきたいと思います。」


事務長:「はあ。」


事務長:「では、次ですがあなたは看護師として何を大切にしていますか?」


つかさ:「えっと勤務時間です。残業がない方がいいです。だって、だらだらとやっていたって決していいことないです。オン・オフがはっきりできる看護師であることを大切にしています。」


事務長:「夜勤がどうですか? 週1回できますか?」


つかさ:「ええ? そんなにはできないです。月1回くらいならなんとか。」


ER部長が少しいらいらしてる


事務長:「そうすると他の方にしわ寄せが来てしまいます。」


つかさ:「みんなで少しずつ夜勤すればだいじょ~ぶ。それに夜勤者の数を減らせば大丈夫。」


番井 :「どうやって、夜勤者の数を減らすんだ? ただでさえ夜勤は忙しいというのに。」


つかさ:「ナースコールを減らせば大丈夫。」


番井 :「どうやって、ナースコールを減らすんだ。」


つかさ:「みんな、笑って過ごせるようになればきっとナースコール減ります。そうそう、まるで保育園のようにするんです。子供のころに戻ったように。白衣とか怖いじゃないですが。だから白衣やめて、ナース帽もやめて、エプロンつけて、そうそう、かわいいアップリケなんかつけるといいと思います。」


番井 :「…」


事務長:「はあ」


ER部長:「あのね、君。病院は夜勤者の実働時間が法律で決められてるんだ。例え、効率化してもその夜勤者を減らしたくても、法律で縛られている以上無理だ。」


つかさ:「えっと、それは、今の夜勤時間を8:30までにするん出なく9:00までにすればだいじょ~ぶ。」


事務長:「!」


番井 :「?!…」


ER部長:「なにを言ってるんだ。わけがわからん」


事務長:「では、なぜ、この病院を選んだのでしょうか?」


つかさ:「だって、東京にあって、大きくって、有名な病院じゃないですか。やっぱり勤めるならこういう病院じゃないとね。それに、これくらい大きい病院じゃないと私みたいな人雇ってくれないかと思って。」


ER部長:「(このミーハーが。それで、お前はこの病院にとってなんの役に立つというんだ。)」


事務長がER部長と番井に目配せをする。


事務長 :「では、よろしいですかね。質問は以上です。」


番井 :「あ、最後に一つ追加質問いいかな。」


事務長:「どうぞ。」


番井 :「この病院、エレベータが遅いっといっていつもクレームが来てるんだ。君だったらどう解決する?」


つかさ:「鏡を置きます。」


番井 :「ありがとう。私からは以上だ。」


事務長:「採用の可否の通知は後日いたします。今日はありがとうございました。」


面接が終わり、面接者が出ていく。事務長が見送りに一緒に行く。


番井 :「よくもまあといった感じだな。」


ER部長:「全くです。あんな心構えで来られたんじゃたまりませんな。採用は最初の人で構いませんな。」


番井 :「ああ、そうしよう。」


ER部長:「全く、忙しいのに。飛んだ無駄骨だった。」


ER部長が部屋を出ていく。代わりに事務長が帰ってくる。


事務長:「よくもまあ、今まで採用されずに残ってましたね。」


番井 :「逆面接か。」


事務長:「ER部長は気付きませんでしたね。とんでもない人ですよ。」


番井 :「夜勤時間を8:30までから9:00まで伸ばすというのはどういう意味なんだ。あれだけはわからなかった。」


事務長:「あれは、そのシフトにすると日勤の人の8:30~9:00の30分も夜勤扱いになります。つまり、シフト時間を変更するだけで決められた夜勤時間をクリアしながら実夜勤時間を減らすことができるんです。」


番井 :「なるほど。考えたな。」


事務長:「一部の病院では取り入れてるようです。私からも質問なのですが、最後のエレベータの質問と回答がまったく分からなかったんですが。」


番井 :「あれは、問題解決の手法だ。エレベーターが遅いのが問題なんじゃなくて、エレベーターが遅くて手持無沙汰になりイライラするのが問題なんだ。だから、姿見を置いて自分の身なりをチェックしることによりエレベータを待つことを忘れさせるんだ。」


事務長:「なんで看護師なんでしょうね。異色過ぎます。」


番井 :「だから、今までの病院もだめだしER部長もダメ出しをしたんだ。だが、実態はとんでもないぞ。後日もう一度面接できないか?」


事務長:「そういうと思って、待たせています。我々だけで面接の続きをやりましょう。」


面接者が入ってくる。


番井 :「すまないが、もう少し付き合ってくれ。どうしてCLSなんだ。」


CLS、チャイルド・ライフ・スペシャリスト。履歴書に米国に短期留学して学んだと書いてある。


つかさ:「実は、看護師として本当に大切なのはコミュニケーションだと思っています。なので、看護師は限られた時間で適切にコミュニケーションをとる必要があり、CLSなんです。」


番井 :「なるほどな。でも、ただでさえ忙しいのにどうやってコミュニケーションを取れるんだ?」


つかさ:「1日における看護師の歩数って二万歩とか言われています。この歩いているだけで疲れちゃうし、時間も無駄になります。ですから、この時間を無くすんです」


番井 :「どうやって?」


つかさ:「ワゴン方式です。」


つかさは説明をする。


つかさ:「このように、使った後、一番前に入れることにより、よくつかわれるものは前に、使われないものは後ろに行きます。こうやって、後ろに行ったものは見直して新しいものと変えます。こうすることにより、看護師の移動時間が劇的に減り、疲労もなくなります。」


番井 :「恐れ入った。」


つかさ:「それでは採用いただけますか?」


番井 :「残念だが、当病院での求人はERの看護師だ。やはり、経験者を優先したい。」


つかさ:「そうですか。やはり、ここでも駄目でしたか。」


番井 :「いや、しかし、それで提案なんだが、系列に花の丘病院というのがある。それなら今住んでいるところからの近いだろう。」


つかさ:「でも、小さな病院だとなかなか。」


番井 :「ああ、話を最後まで聞いてほしい。その病院の小児科の看護師長職があいている。そこの師長になってくれないか?」


つかさ:「え!」


番井 :「ああ、小さいが逆に自由がきく、何年か経ったら看護部長にする。その病院を救ってほしい。いや、最後はこの淳典堂病院を救ってほしい。君は我々の医療改革に必要だ。」


白石つかさ23歳のことであった。


つづく



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