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2.正看護師会議

准看護師:「私、いつになっったら帰れるんですか? もう夜の8時です。夜勤明けなのに。どうして帰れないんですか。」


若い看護師がナースセンターで泣きながら必死に訴える。


正看護師:「ごめんね。でも、今、人手が足らないの。患者さんがこんなにいるの。医師たちが病院経営のために看護師の数を削ってるの。悪いのは医師。特に経営層の医師たちなの。」


副師長 :「あなたの気持ちはわかる。でも、ここで、私たちが踏ん張らないと。私たちは看護のプロ。泣いてたって、患者さんのためにはならないわ。」


その姿を茫然と若い実習生が見つめる。大学の看護学部の学生だ。実習でこの病院に来ている。


副師長 :「つかささん、もうあなたは帰りなさい。」


つかさ :「でも、こんな状況じゃ。」


副師長 :「こっちにきてくれる?」


副師長がつかさを修羅場となったナースセンターから連れ出す。


副師長 :「残念だけど、これが、今の医療の実態。医師たちは私たち看護師にどんどん仕事を押しつけている。そして、給料の安く済む准看護士を多く雇うの。だけど、仕事の内容は正看護師たちと一緒。これじゃ怒るのも無理ないわ。」


つかさ :「そんな」


副師長 :「悪いのは医師会。そして准看護士制度。准看護士制度は廃止して、もっと看護師は専門集団になるべきだわ。そして、この激務に見合った報酬が必要。もっと、私たちは勉強して技能を高める必要があるの。彼女の泣きたい気持ちもわかるけど、この状況では正看護師を目指して、勉強して、資格を取って、自分を守るべき。」


つかさ :「(ちがう。)」


副師長 :「あなたも学校に帰ったらちゃんと勉強しなさい。看護技術があなたを必ず救ってくれるから。」


つかさ :「(ちがう。そんなことしたって、給料が高くなる分、看護師を雇えなくなって人が減る。もっと忙しくなるだけ。何か間違ってる。私の憧れてた医療現場はこんなんじゃない。患者さんも医師も看護師もみんな幸せになる世界。こんな世界、嫌)」


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つかさ:「とういうことで第一回小児科正看護師会議を開催したいと思います。」


カンファレンスルームに私と田中副師長をよび師長が高らかに宣言する。突っ込みどころが多すぎるがとりあえず最大の疑問を質問してみる。


知子 :「なんで、私たち3人だけなんですか? 花田さんたちはよばないんですか?」


つかさ:「だって、彼女たちは准看護師ですもの。正看護師は小児科では私たち3人だけ。准看護士は正看護師の指導のもと看護業務を行います。だから、正看護師だけでこの病院の問題点を語り合うのがこの会議の趣旨です。」


田中 :「そう。それが私たち正看護師の責任。」


知子 :「なるほど。確かに自覚が足りませんでした。ここで話し合って、花田さんたちに指導していくんですね。」


田中 :「島崎さん、それはちょっと驕ってる。島崎さん、ベテランの花田さんに何を指導できるの?」


知子 :「そ、それは。」


田中 :「プライドと自負があるのはいいけど。それが空回りして実力ともなっていない。私たちの責任は別のところにあるの。」


知子 :「え?」


田中 :「くだらない師長の話を私たち二人が黙って聞いてあげて、他の人たちに迷惑をかけないようにするのが私たち正看護師の責任。」


つかさ:「そうそう、傾聴はコミュニケーションの第一歩。話を聞くのは重要よね。って、田中さん、ひど~い」


今日も小児科平常運転異常なし。


田中 :「それで、問題点て何? 話だけなら聞いてあげるわ。」


つかさ:「なんか、言い方気に入らないんだけど、まあ、いいわ。実は聞いてほしいことがあるの。さっき、番井先生からこの病院の売上と利益を伸ばす方法を考えろって言われたのよ。」


知子 :「あの~、それ、私たちに言われても~。第一、師長に下す指示でもないですよね。」


田中 :「うん。でも、ちょっと違う。師長の本当の役職は看護副部長。そして実態は看護部長。つまり経営側。だから、当然、その指示が事実上の院長である番井先生から降りてもおかしくない。」


田中 :「それに、師長だって管理職なのだから経営を意識しないといけない。だから指示が降りてもおかしくない。」


知子 :「でも、私たちには。」


田中 :「将来のことを考えて、こういう話に参加するのも意味がある。」


つかさ:「はい。田中さんは、師長が空席の小児科の副師長ですから。」


師長がにっこり笑う。


田中 :「かわいい顔して、相変わらず怖いこと言う。」


順当にいけば、次の師長の第一候補は田中さんである。普通ならポストが空かないと上に上がれないけど、今はポストが田中さんを待っている。


つかさ:「そうすれば、副師長も空くわよね。ともちゃん。」


知子 :「え?」


そんな話をされれば悪い気はしない。


知子 :「それで、私たちは何をすればいいのですか?」


つかさ:「私が考えたことを聞いてほしいの。それで忌憚ない意見いただければいいわ。」


田中 :「却下」


つかさ:「なんでよ~。さっき、話は聞いてくれるって言ったじゃない。」


田中 :「どうせ碌でもないアイデア。聞くだけ時間の無駄だと思う。でも、約束した。聞いてあげる。」


つかさ:「まったく、偉そうなんだから。私は師長よ。まあ、いいわ。」


そう言って師長が話し始める。


つかさ:「私、今の医薬分離の仕組み間違ってると思うの。昔は、病院の中で薬もらえたのに、今は病院の外に取ってつけたように薬局があって、わざわざそこで薬もらうじゃない。診察受けるのに一杯待って。診察終わって会計するのに一杯待って、さらに薬もらうのに一杯待つなんて患者さん大変そう。」


田中 :「ほほう」


つかさ:「雨の日なんか、お年寄りの方たち大変そう。だから、昔みたいに院内薬局方式にするの。」


田中 :「時代の流れに逆行している。」


つかさ:「でもね、東京に全席喫煙席って言う喫茶店があって結構繁盛してるの。」


知子 :「いまどき、禁煙じゃなくて喫煙ですか!」


つかさ:「そうなの。だから医薬分離は別に法律で決まってるわけじゃないし、元に戻してもと思う。そうすれば、近所の評判になって、患者さん一杯来ると思う。」


私はさすがだと思った。やっぱり、つかささん普段はどうしょうもないけどこういうところは他の人の追随を許さない。だけど、田中さんは苦い顔をしている。


田中 :「他には?」


つかさ:「もっと特許の切れたジェネリック医薬を使うのを推進するんです。ジェネリック医薬は効果は同じなのに安いので患者さんの負担も少なくなります。そうすればこの病院の評価が高くなり、患者さんが一杯来ます。」


知子 :「つかささん、すごいです。私大賛成です。」


だけど、田中さんが青筋をピクピク立てている。


田中 :「それで?」


つかさ:「さらには、この病院にない、心療内科を設置します。今、ストレスの多い社会で鬱に悩む人が多いです。だから、そんな人たちの生活を取り戻すべく、心療内科を設けて手厚い治療と看護を施すのです。」


知子 :「つかささん、やっぱり凄いです。私、感動しました。患者さんのことをそこまで考えてるなんて。やっぱり、師長なのわかります。」


私はたちあがって師長に拍手した。だけど、田中さんは苦虫を噛んだ顔をしている。


田中 :「それで、心療内科の医師はどこから持ってくるの?」


つかさ:「え~。だれでもいいんじゃない? 臨床心理師の資格を取ったばかりの修士卒業生を適当に連れてくれば。」


田中 :「きゃっか~~~!」


つかさ:「ええ? いいアイデアでしょ。」


知子 :「そうですよ。そんな頭ごなしに否定しなくても。どこがいけないんだか私にはわかりません。」


田中 :「あのね。島崎さん。だまされちゃダメ。師長の狙いは違うところにあるのよ。」


知子 :「へ?」


田中 :「そもそも、この病院はもともと院内薬局があった。それを医薬分離を強硬に唱えて実行した張本人が師長。」


知子 :「え?」


師長の方をみると師長はそっぽを向いている。


田中 :「医薬分離により、薬の在庫を抱えなくて済む。医師は治療に専念でき、余計な仕事に気を回す必要がなくなる。」


田中 :「そうやって、病院を説いて、実行して、本当に効果があがった。それを今更本人が戻すの?」


知子 :「だって、あの時はジェネリック医薬が脚光を浴びるとは思わなかったんだもん。」


田中 :「そう、師長がジェネリック医薬の話をしてピンときたわ。まったく、あきれるわ。」


知子 :「ジェネリック医薬って問題なんですか?」


田中 :「島崎さん、薬漬けって知ってる?」


知子 :「ええ、何となくですが、医師が過剰に薬を処方してその保険ポイントで儲ける方法ですよね。」


田中 :「そう、でも、今はその方法が効果がない。実は薬には薬価が決めれれてるんだけど、昔は実売価格はその薬価よりとても安くて、その差額が病院の利益につながっていた。だけど今は薬価が下がりその差はあんまりない。」


知子 :「はあ」


田中 :「だけど、ジェネリック医薬だけは別。ジェネリック医薬は今でも薬価と実売価格に開きがある。だから、ジェネリック医薬を用いた方が儲かる。」


田中 :「でも、医薬分離している限り、その差額は病院に入ってこない。だから、医薬分離をやめて院内薬局に戻そうとしたのよ。」


知子 :「ええ!」


私は師長の顔を見るが相変わらずそっぽを向いている。


田中 :「さらにとどめは心療内科の新設。普通の内科で薬漬けやれば患者さんが気付く可能性がある。だけど、今、心療内科は患者さんが急激に増えて、その分心療内科も増えている。だけど、中には質のよくない医者もいて、必要もないのに薬を与えるところもある。だけど、本当に治ることがあるから、薬を多く与えるのは別におかしくなく、必要以上に与えてるかどうかだれも判断できない。」


知子 :「はあ」


田中 :「そこに目をつけたのよ。師長は。心療内科でジェネリック医薬で患者を薬づけすることで利益を生み出そうと考えたの。」


知子 :「師長、そんなことないですよね。」


相変わらずそっぽを向いている。


田中 :「それが証拠に、心療内科の医者なんて誰でもいいって言ってたでしょ。マニュアル通り薬を上げればいいからね。」


つかさ:「てへ」


ふたり:「笑ってごまかすな~~!」


つかさ:「いいアイデアだと思ったんだけどね。それにともちゃんだって気付かないんだから、普通の人は気付かないよ。」


田中 :「そういう問題じゃない。」


知子 :「師長は学校で医療倫理とか習わなかったんですか?」


つかさ:「ああ、その授業さぼってました。友達に代わりにレポート書いてもらってました。」


知子 :「もう、師長を信じた私が馬鹿でした。」


田中 :「全く、やっぱり、無駄な時間だったわ。罰として師長は院内巡って頭冷やしてらっしゃい。」


つかさ:「ちぇ~。はいはい。院内見回りに行ってきますよ。いけばいいんでしょ。」


そういって、がっくり肩を落として師長はカンファレンスルームを出て行った。


知子 :「やっぱり師長は師長でした。がっかりです。」


田中 :「そうよね~。でも、頭はいいのは事実。あっという間にここまで悪知恵働かす。」


知子 :「でも、その頭のいい師長は大学の時、授業をさぼって何してたんですか? やっぱりレンタルビデオ見てたんですか?」


田中 :「システム研究会に入り浸ってた。」


知子 :「システム研究会?」


田中 :「そう。大学のサークル。システム研究会こそが師長の原点。」


そう田中さんはつぶやいた。


つづく







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