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Act

作者: あると
掲載日:2010/11/24

「行かないで」

雨に濡れ、泥にまみれ、彼女は声を絞り出した。

「駄目だ」

彼は冷たく言い捨てた。

「俺たちは兄妹だ。だから、一緒になることはできない」

厳しい面で妹を見下ろしていた。突っぱねてはいたが、悲痛な思いでいることもわかった。彼の手が握りしめた腕から、血が滲んでいた。

「関係ないわ! 私は兄さんといたい。お嫁になんて行かない」

「あいつと結婚することが、お前の幸せなんだ。家庭を築き、子を産み、育て、生きろ」

男が踵を返した。

「勝手に決めないで。私の幸せは、兄さんと結ばれることよ。いくらあの人がいい人でも、イヤなの!」

「馬鹿を言うな」

道理の通じない妹に、怒りがわいた。

振り向くと、女の目と出会った。

「あなたじゃないと、駄目なのよ」

雨が顔の汚れを洗い流す。美しい顔だった。見慣れた容姿が、見慣れない女のものだった。胸の奥がどうしようもなく疼いた。

「双子なんて。こんな星のもとに生まれなければよかったのに」

彼は、気づかないようにしていたことに、気づかされた。

「……その星の下でなければ、俺たちは出会わなかった」

いつしか、彼の目からも涙が落ちていた。

二人の視線が絡み合う。

「行こうか」

「ええ」

どこに、とは言わない。

雨で増水した大河は、激しい音を立てていた。


「カット!」

監督の声に歓声と指笛が巻き起こった。

「素晴らしい。声の震え、目の動き、完璧に理想どおりだ。君たちは天才だよ」

手放しの絶賛に、二人の役者は笑顔を返した。

「さすが双子の俳優です。胸が熱くなりました」

スポンサーの社長が拍手をしていた。

「禁断の愛って、ステキ」

衣装担当の女――男性は涙を流していた。

「さあさあ、着替えましょ。風邪をひいちゃうわ」

二人のマネージャーがタオルを差し出した。

「ああ」

「あとでね」

兄妹はお互いに微笑み、控え室に戻っていった。

彼らの目と目が複雑な色をしていたことに、気づく者はいなかった。


完成した映画の発表会に、二人の姿はなかった。

将来を嘱望された男優と女優は、幻のように消えてしまったのだ。

映画界の損失だと、後の人は言う。また別の人は、あの映画以外では鳴かず飛ばずだっただろうとも言った。

「なんと言われようと構わないさ。ひとつの形を見せつけてやったんだ」

「偏見なんてなくなってしまえばいいわ」

静かな浜辺で、二人は重なり合った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 意味深な終わり方ですね・・・。でもそれが好みな僕としてはたまらなかったです(笑)これからも頑張ってください!
2010/12/05 18:06 退会済み
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