Act
「行かないで」
雨に濡れ、泥にまみれ、彼女は声を絞り出した。
「駄目だ」
彼は冷たく言い捨てた。
「俺たちは兄妹だ。だから、一緒になることはできない」
厳しい面で妹を見下ろしていた。突っぱねてはいたが、悲痛な思いでいることもわかった。彼の手が握りしめた腕から、血が滲んでいた。
「関係ないわ! 私は兄さんといたい。お嫁になんて行かない」
「あいつと結婚することが、お前の幸せなんだ。家庭を築き、子を産み、育て、生きろ」
男が踵を返した。
「勝手に決めないで。私の幸せは、兄さんと結ばれることよ。いくらあの人がいい人でも、イヤなの!」
「馬鹿を言うな」
道理の通じない妹に、怒りがわいた。
振り向くと、女の目と出会った。
「あなたじゃないと、駄目なのよ」
雨が顔の汚れを洗い流す。美しい顔だった。見慣れた容姿が、見慣れない女のものだった。胸の奥がどうしようもなく疼いた。
「双子なんて。こんな星のもとに生まれなければよかったのに」
彼は、気づかないようにしていたことに、気づかされた。
「……その星の下でなければ、俺たちは出会わなかった」
いつしか、彼の目からも涙が落ちていた。
二人の視線が絡み合う。
「行こうか」
「ええ」
どこに、とは言わない。
雨で増水した大河は、激しい音を立てていた。
「カット!」
監督の声に歓声と指笛が巻き起こった。
「素晴らしい。声の震え、目の動き、完璧に理想どおりだ。君たちは天才だよ」
手放しの絶賛に、二人の役者は笑顔を返した。
「さすが双子の俳優です。胸が熱くなりました」
スポンサーの社長が拍手をしていた。
「禁断の愛って、ステキ」
衣装担当の女――男性は涙を流していた。
「さあさあ、着替えましょ。風邪をひいちゃうわ」
二人のマネージャーがタオルを差し出した。
「ああ」
「あとでね」
兄妹はお互いに微笑み、控え室に戻っていった。
彼らの目と目が複雑な色をしていたことに、気づく者はいなかった。
完成した映画の発表会に、二人の姿はなかった。
将来を嘱望された男優と女優は、幻のように消えてしまったのだ。
映画界の損失だと、後の人は言う。また別の人は、あの映画以外では鳴かず飛ばずだっただろうとも言った。
「なんと言われようと構わないさ。ひとつの形を見せつけてやったんだ」
「偏見なんてなくなってしまえばいいわ」
静かな浜辺で、二人は重なり合った。




