第8話 「二楽亭へようこそ!」第一章 鎌倉攻防戦 その18
何本尻尾になるんだろう? のん気にそう思っている私に、
「結繪、あなたもいっしょに合体するのですっ!」
「私たちだけでは妲己の因子が強すぎるので、
それを薄めるためには人の因子が必要なのです」
「でも、人である結繪ちゃんにそんなことが耐えられるのですか?」
心配そうに葛葉ねえさまが瑞葉に問いただす。
「理論上は問題ないはずなのです。ただ、実際に何が起きるかは…」
一瞬の沈黙………。
「やってみないとわからないか…。
でもそれしか手がないなら、やるしかないじゃん。時間もないみたいだし」
重たい空気を嫌って私が言うと、
「わたくしではダメなのですか?」
いつの間にか音音が側に来ていた音音が言った。
「ダメだよ音音、これは弾正尹の役目だから。
それに、万が一私に何かあったとしてもそれで世界が無事ならお釣りがくるよ」
「………」
目に涙を溜めて黙りこくってしまった音音。
私が逆の立場だったらと思うと、その気持ちは痛いほど分かる。
でもね…。
「それに何かあるって決まったわけじゃないしね。大丈夫だって!」
「……きっと無事に…」
涙で声にならない音音の肩を抱いて瑞葉に言う。
「お願い、わかって。もう時間がないよ」
「………」
無言で下を向く音音の肩に
静葉ねえさまが優しくポンポンと手を置いた。
「では…」
瑞葉がそう言った途端、
自分と音音のカラダも輝きはじめ、
ふわっと浮いたかと思うとねえさまたちのいる方に引き寄せられる。
「結繪ちゃんっ!」
音音の叫びが遠くに聞こえ、自分が溶けていくような不思議な感覚のなか、
心の中に、葛葉ねえさまの声が響いてくる。
(人とあやかしの融合こそ、私と静葉が一番ねがったことなのです。
思った形とは少し違いますが、これはその一歩かもしれないですね)
温かい光が気持ちいい………優しくて懐かしい感じがする--。
光の外で、ユダが騒いでいる。
「なぜだ! それほどの力を持つあやかしのお前達が
何故人に額づく、おもねる、媚びる!?
おろかな人間など支配した方がいいのだ!
大半の人間は命令されることを待っているではないか!!」
「力のあるあやかしが自分より劣る者を意のままにあやつる。
人を奴隷のように使役する。
そんなことをしていては、憎しみという連鎖からは抜けられない。
ふたつの種族が楽しく暮らせるように――
私と静葉はそんな願いを込めて弾正府に<二楽亭>と作ったのです。
同じ地球と言う惑星に生まれた同胞として
私たちは人とともにあることを望むのです」
夢見心地の中、ユダと葛葉ねえさまの話を聞いていた私。
そう、人かあやかしかなんて関係ない。
たとえ三狼が鬼になったとしても、私が三狼を好きなのに変わりはないように。
それといっしょ。
ユダ――あなたはそんな簡単なこともわからないから、
こんなことのために2000年も以上の月日を費やしてしまったんだね…。
でもそんな空しい日々ももう終わりにしてあげる。
私の側に葛葉ねえさま、静葉ねえさま、
そして瑞葉--。
今私たちはひとつになる。
その19につづく




